第28話 リリーの捜索 準備

文字数 2,054文字

「私はその為に連れて来られたのですね」
 クラレンスは、何かを理解したようにクリスに言う。覚悟を決めたように。
「どうぞ、好きなように使ってください。もとより、私の責任です」
「いいのかい? そんな事を言って。私は君が嫌いだから、生きたまま引き裂くかも知れないよ」
 恐ろしい事を言ってる。本気、じゃないよね。

「お心のままに」
 私の方がオロオロしてしまっているのに、クラレンスは動じずに言っている。
「たいがい君も肝が据わってるよね。少しでも命乞いをしたら、そうできたのに」
 つまんないって感じで言っている。
「クリス様?」
 私はジト目になった。だって、ひどい。
「ごめん、キャロル。だけど君は大丈夫? 多分、死んだ方がマシだと思えるような激痛がおそってくると思うけど」
 クリスが心配そうに言ってくる。
 聞いてない。そんなの。
 普通に怖いんだけど。

「リリーを助けるためには国外に出すしかない。国内で匿ったら、見付かってしまった時に関係者全員同罪になってしまうからね。だから私の能力でリリーと同伴者を空間移動させようと思っている。この方法だったら誰にも嫌疑がかからない」
 クリスは私たちに自分の計画を説明し始めた。

「私の能力のほとんどが、賢者の石に封じ込められているから、まだ王宮を離れることが出来ないんだよ。キャロルの体は元々、賢者の石の能力を使うために作られているからね。キャロルの体を使うしかないんだ」
 クラレンスは黙って聞いてるけど、理解できているのかな。
「先ほども言ったけど。キャロルのあの交渉。ある意味正しいんだ。君の魂と引き換えって。今のまま、この計画を実行したら君の魂は吹き飛んじゃうからね。その前に君を元の世界に戻すことも出来るけど、結果は同じだよね」
 そう、元の世界に戻っても私の魂は誰にも会えずに消えてしまう。

「元の世界?」
 さすがに今まで黙って聞いていたクラレンスが、訊いてきた。
「ここにいるキャロルが別人じゃないかと、君も疑っていたよね」
「はい」
「歴代の王妃は、もともと空っぽの器なんだ。このキャロルもそうだった。そこに違う世界のサイトウユウキという12歳の女の子の魂を引きずり込んでしまってね。もう、あの世界では消滅するしかなかったから」

「12歳の女の子? サイトウユウキ?」
 クラレンスは呆然として、クリスの言った事を繰り返している。
「ああ。君には関係ないから。知りたかったら、後からユウキ……キャロルに訊いてくれ。それで、魂が吹き飛ばされない緩和剤にするために君を呼んだんだよ」
「はい。それで私はどうすれば良いのですか?」
 クラレンスはクリスの方をまっすぐ見て訊いている。
 クリスは少し微妙な顔をした。心底嫌だと思っている顔だ。

「そこの、賢者の石がある布の中に入って、キャロルを抱きしめてやってくれ。私は半分、君に衝撃と痛みを共有させるけど、後の比率は任せるよ。ただ、全てを引き受けるような真似はしないでくれ。君も助けることがキャロルの願いだから」
「かしこまりました」
 クラレンスは跪いたままもう一度礼を執り、立ち上がる。
 そして私の近くまで来て、手を取り言う。

「ユウキ嬢と言ったか。すまない。こんな事に巻き込んでしまって」
 なんだか今までと違う。ものすごく他人行儀だ。
 私の震えている手を優しく包み込むように、だけどしっかりと握ってくれる。

「ユウキ。怖いのなら止めても良いんだよ。緩和剤があっても、君の気持がしっかりしていないと」
 クリスが、私が震えているのに気付いて言ってくる。
「でも、私が消えても役目は果たせるんでしょ?」
 クリス殿下は、キャロルの体さえあれば良いって言っていたもの。
 だけど、私がそう言った途端、二人とも固まってしまった。

 クリスが溜息を吐く。
「そんな気持ちでは、本当に消えてしまう。何が何でも生き残るという気持ちで無いと」
 そして、私の横のクラレンスに言う。
「悪い。この計画は中止だ」
「はい」
 クラレンスは納得したかのように私の手を離した。

「何で? 中止しないでください。私はリリー様を助けたいです」
「悪いけど、私はユウキの方が大事だ。君が消えることが前提なら、絶対に能力は貸さない」
 クリスが厳しい顔をしている。初めてだ。私にこんな顔を向けるの。
「そうですね。最初に言ったけど、キャロルが背負う事じゃない。ましてやユウキ嬢なら尚更だよ」
 クリスの言葉を受けて、クラレンスまでそう言いだした。
 だって、怖いんだもん。
「私だって消えたいと思っている訳ではありません。だけど、ここでリリー様を助けられなかったら一生後悔します」
 消えたいと思ってないに反応して、クリスは疑いの目を向けて来たけど。私だって本当は消えたいわけじゃない、この世界が辛すぎたから……。

「君は、そういう子だよね。分かってたけど」
 クリスががっくり肩を落としてそう言ってる。そして、クラレンス方を見て
「ユウキはこういう子なんだよ。覚えておいてね」
 これ以上傷つけることは許さないとばかりにそう言った。
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