第52話 キャロルのスキルとユウキの甘え
文字数 2,136文字
今夜の王宮の夜会は事実上、王太子殿下の婚約者キャロル・アシュフィールドの回復祝いである。
ただ、王宮内とはいえ、一人で出歩き事件の被害に遭った事はあまり大っぴらにすると、責任を取らないといけない人達も出てくるので、元気になった私の顔見世程度に収まっていた。
ダンスも始まり、クラレンスと二人でいつも通り二曲分ダンスを踊る。
「大丈夫? キャロル」
当たり前と言えば、当たり前なのだけど、クラレンスは私の事をキャロルと呼んでいる。
「ええ。今なら何曲でも踊れそう」
クリスがくれたあの薬は本当に鉄剤だったの? というくらい体力が有り余っている状態なのよね。
ダンス曲が鳴っている中、会場の一角で女の子たちが群がっている。
場違いにもキャアキャア騒がれているのは、クリス殿下だった。
周りの大人たちは、はしたないだの、不敬だのと言って眉をひそめているが、クリス殿下は嬉しそう? あれ? そんな、キャラだったっけ。
なんだか、テレビで観ていたアイドルみたい。
なら、この光景は、さしずめファンサかな?
なんだか、つい夜会会場にいるって忘れてしまうわよね。
「あっ、クラレンス王太子殿下とキャロル嬢」
クリスがお~いって感じで手を振っている。
珍しい……。私達を敬称付きで呼ぶなんて……。
「……行きたくないんだが」
クラレンスがボソッと言う。気持ちは分かるけど、こっちも珍しく本音を言ってる。
まぁね。誰が好き好んで自ら肉食獣の餌食になりに行くのかって話だものね。
「ひどいなぁ。無視するなんて」
群がっていた令嬢たちを引き連れて、クリスがやってきた。
「王太子に手を振って呼びつけるお前の態度は、ひどく無いのか?」
ため息交じりに言っているけど、顔は苦笑いという感じだ。
クラレンスもクリスも、にこやかに話している。
クリスに紹介されたご令嬢たちは、クラレンスに挨拶の礼を執っていた。
挨拶の内容からは、現王妃の親戚の若いご令嬢たちの様だわ。
「そしてこちらが、キャロル・アシュフィールド公爵令嬢。次期王妃だよ。仲良くしてね」
クリスの紹介の仕方は、メチャクチャだ。作法も何もあったものではない。
女の子たちの中の……リーダー格らしい子が挨拶をしてきた。
「ムーアクロフト公爵が娘、シルヴィアと申します。今年デビュタント致しましたの。これからよろしくお願い申し上げます」
宰相の娘さんだわ。
気が強そう。容姿は父親に似ているのね。髪も銀色だし。
「キャロル・アシュフィールドです。仲良くしてくださると、嬉しいですわ」
私は、出来る限り優雅にほほ笑んだ。
私がご令嬢達と楽しく歓談している間に、クリスがクラレンスに私をダンスに誘う許可を取っているけど。
「別に、私の許可などいらんだろう」
クラレンスは言ってる。うん。私も同感だわ。
私はダンスを踊るため、クリスに中央に連れて行かれたのだけど、そこで気が付いた。
うっわ~、クラレンス。あのきゃわきゃわしてる女の子たちの中に取り残されてる。
「それで、さっき許可を取ってたんですね。私を誘うのではなく。令嬢たちの相手をしてもらう」
「今頃、気付いたか。油断しすぎだよ、君たち」
クリスはクスクス笑いながら言っているけど、何百年も生きている自分と私たちをくらべないで欲しい。
王妃として社交界に出てたこともあったんだろうし。
私はため息を吐きながら、大丈夫かしらと思ってクラレンスの方を見る。
クラレンスは、にこやかに令嬢たちと歓談していた。
そもそも、何でこんな事になってるんだろう?
「クリス殿下は、不敬って言わないんですね。あんな風に、騒がれても」
「ああ。さっきの令嬢たち? まぁ、さすがにね。デビュタントしたばかりの子どもが処刑されるところは、見たくない」
「処刑?」
なんで、そんな物騒な話に……。
「不敬罪は死罪だよ。キャロル」
そう言えば、私がいた世界でもそうだった。
「僕らが、不快感を表したら……。そうだな、あの中にいる伯爵令嬢あたりには適応されてしまうかもね。だから、クラレンスもにこやかに対応している」
ああ、それで。
「意外と常識的なんですね。クリス殿下も」
「まぁ、千年近くも賢者の代わりをしていたからね。それよりも、君はいつまでキャロルのかげに隠れているつもり?」
「隠れている?」
「賢者に甘えられなくなったら、今度はクラレンスに甘えるんだ。まぁ、クラレンスは好きな娘 甘やかすの得意だもんね」
クリスは笑いながらイヤな事を言ってくる。相変わらずだ。
「でもね。何もない子どもじゃ、クラレンスは守れないよ。キャロルのスキルじゃ、ウィンゲートに勝てないだろうからね」
「そうなんですか?」
これって、そう言う会話?
クリスの意地悪な物言いなんて、すっ飛んでしまった。
だって、キャロルが勝てないって。
「キャロルだって、昨年のデビュタントなんだよ。さっきの令嬢たちと一年しか変わらない。だから、同じ年のリリーだって、賢者ですら見逃してたじゃない」
呆れたって感じでクリスが言ってくるけど。私から見たら、さっきの令嬢もキャロルも充分大人に見える。
「それで? いつまで何も無い。何もできない子どもでいるつもり?」
クリスは、私ににこやかに訊いてきた。
ただ、王宮内とはいえ、一人で出歩き事件の被害に遭った事はあまり大っぴらにすると、責任を取らないといけない人達も出てくるので、元気になった私の顔見世程度に収まっていた。
ダンスも始まり、クラレンスと二人でいつも通り二曲分ダンスを踊る。
「大丈夫? キャロル」
当たり前と言えば、当たり前なのだけど、クラレンスは私の事をキャロルと呼んでいる。
「ええ。今なら何曲でも踊れそう」
クリスがくれたあの薬は本当に鉄剤だったの? というくらい体力が有り余っている状態なのよね。
ダンス曲が鳴っている中、会場の一角で女の子たちが群がっている。
場違いにもキャアキャア騒がれているのは、クリス殿下だった。
周りの大人たちは、はしたないだの、不敬だのと言って眉をひそめているが、クリス殿下は嬉しそう? あれ? そんな、キャラだったっけ。
なんだか、テレビで観ていたアイドルみたい。
なら、この光景は、さしずめファンサかな?
なんだか、つい夜会会場にいるって忘れてしまうわよね。
「あっ、クラレンス王太子殿下とキャロル嬢」
クリスがお~いって感じで手を振っている。
珍しい……。私達を敬称付きで呼ぶなんて……。
「……行きたくないんだが」
クラレンスがボソッと言う。気持ちは分かるけど、こっちも珍しく本音を言ってる。
まぁね。誰が好き好んで自ら肉食獣の餌食になりに行くのかって話だものね。
「ひどいなぁ。無視するなんて」
群がっていた令嬢たちを引き連れて、クリスがやってきた。
「王太子に手を振って呼びつけるお前の態度は、ひどく無いのか?」
ため息交じりに言っているけど、顔は苦笑いという感じだ。
クラレンスもクリスも、にこやかに話している。
クリスに紹介されたご令嬢たちは、クラレンスに挨拶の礼を執っていた。
挨拶の内容からは、現王妃の親戚の若いご令嬢たちの様だわ。
「そしてこちらが、キャロル・アシュフィールド公爵令嬢。次期王妃だよ。仲良くしてね」
クリスの紹介の仕方は、メチャクチャだ。作法も何もあったものではない。
女の子たちの中の……リーダー格らしい子が挨拶をしてきた。
「ムーアクロフト公爵が娘、シルヴィアと申します。今年デビュタント致しましたの。これからよろしくお願い申し上げます」
宰相の娘さんだわ。
気が強そう。容姿は父親に似ているのね。髪も銀色だし。
「キャロル・アシュフィールドです。仲良くしてくださると、嬉しいですわ」
私は、出来る限り優雅にほほ笑んだ。
私がご令嬢達と楽しく歓談している間に、クリスがクラレンスに私をダンスに誘う許可を取っているけど。
「別に、私の許可などいらんだろう」
クラレンスは言ってる。うん。私も同感だわ。
私はダンスを踊るため、クリスに中央に連れて行かれたのだけど、そこで気が付いた。
うっわ~、クラレンス。あのきゃわきゃわしてる女の子たちの中に取り残されてる。
「それで、さっき許可を取ってたんですね。私を誘うのではなく。令嬢たちの相手をしてもらう」
「今頃、気付いたか。油断しすぎだよ、君たち」
クリスはクスクス笑いながら言っているけど、何百年も生きている自分と私たちをくらべないで欲しい。
王妃として社交界に出てたこともあったんだろうし。
私はため息を吐きながら、大丈夫かしらと思ってクラレンスの方を見る。
クラレンスは、にこやかに令嬢たちと歓談していた。
そもそも、何でこんな事になってるんだろう?
「クリス殿下は、不敬って言わないんですね。あんな風に、騒がれても」
「ああ。さっきの令嬢たち? まぁ、さすがにね。デビュタントしたばかりの子どもが処刑されるところは、見たくない」
「処刑?」
なんで、そんな物騒な話に……。
「不敬罪は死罪だよ。キャロル」
そう言えば、私がいた世界でもそうだった。
「僕らが、不快感を表したら……。そうだな、あの中にいる伯爵令嬢あたりには適応されてしまうかもね。だから、クラレンスもにこやかに対応している」
ああ、それで。
「意外と常識的なんですね。クリス殿下も」
「まぁ、千年近くも賢者の代わりをしていたからね。それよりも、君はいつまでキャロルのかげに隠れているつもり?」
「隠れている?」
「賢者に甘えられなくなったら、今度はクラレンスに甘えるんだ。まぁ、クラレンスは好きな
クリスは笑いながらイヤな事を言ってくる。相変わらずだ。
「でもね。何もない子どもじゃ、クラレンスは守れないよ。キャロルのスキルじゃ、ウィンゲートに勝てないだろうからね」
「そうなんですか?」
これって、そう言う会話?
クリスの意地悪な物言いなんて、すっ飛んでしまった。
だって、キャロルが勝てないって。
「キャロルだって、昨年のデビュタントなんだよ。さっきの令嬢たちと一年しか変わらない。だから、同じ年のリリーだって、賢者ですら見逃してたじゃない」
呆れたって感じでクリスが言ってくるけど。私から見たら、さっきの令嬢もキャロルも充分大人に見える。
「それで? いつまで何も無い。何もできない子どもでいるつもり?」
クリスは、私ににこやかに訊いてきた。