第2話 メアリー姫のハーボルト王国入り

文字数 1,802文字

 数日後にはハーボルト王国から、了承の返事が来ていた。
 その書簡には、様々な贈り物と、お相手の姿絵、簡単な身上書が付いていた。
 ハーボルト王国の王太子夫妻の第一子ギルバートは、御年10歳になるという。
 彼の国の慣例は、他国の王女がお国入りを果たして後、一年後を目安に婚礼を行うという事なのだが……。
 双方が幼い子どもという事で、婚姻はギルバートが成人するまで待つことになった。

 その二か月後、縁談を快諾してくれたハーボルトの地に、私は降り立った。

 王宮に着いてすぐに、これから自分のお部屋になるという場所に案内されていた。
 ここは、代々王太子妃になる予定の女性が、婚礼の儀の準備の為に入るお部屋らしい。
 お部屋自体は、広く大人の女性がいてもおかしくないような落ち着いた感じで統一されている。
 今は子どもだけれど、八年後の事まできちんと考えられている部屋だ。
 
 一番大きなお部屋の床には、絨毯が敷いてあり。
 その上にクッションやぬいぐるみが置いてある。
 大きな箱の中には、おままごとセットまで、そろっている。

 ここで遊べと?
 あっ、いや。確かに、八歳くらいの子どもなら喜ぶのかもしれない。
 くらくらしながら、そのお部屋をそっと閉めた。

 

 王太子の第一子ギルバートとの対面式は、謁見の間で行われた。
 少し濃い金髪と濃い茶色の瞳を持つ王太子の子。
 正装姿がまだ板につかず、格好良いというより可愛らしさが残る少年だった。

「ピクトリアン王国、国王ソーマ・ピクトリアンが娘、第十七王女メアリー・ピクトリアンでございます。幾久しくよろしくお願い申しあげます」
 私は作法通りの礼を執りながら言った。
 純粋に母の子なら第五王女だけど国王の王女としては十七番目だ。
 他の八歳の娘にどれだけのことが出来るか知らないが。
 礼儀から教育などと面倒くさい事を言われぬ様に、王族としての優雅で流れるような所作だったはずだ。

 顔を上げて、私の婚約者ギルバートの方を見てにこやかに言う。
「ギルバート・ハーボルト様。お目にかかるのを、楽しみにしておりました」
 ギルバートは少し顔を赤くして、私の方を見ていたが、直ぐに気を取り直したように
「メアリー姫。私も、姫に会えるのを楽しみにしてました。仲良く暮らしていきましょうね」
 と、にこやかかに返してくれた。

 
 ただ、礼儀は完ぺきでもこの国の歴史やその他もろもろの事は学ばねばならぬ。
 自分の部屋で、教師役の人間と私だけで勉強するものと思っていたので、勉強部屋なるものがあることには驚いた。

 広い部屋の前方に子供用の机と椅子が人数分。後は広い空間……多分、所作や歩き方。ダンスの練習が出来るスペースを確保しているのだと思う。
 子どもの数は、五名。
 その内の一人は私だ。
 後は、私の婚約者のギルバートとその弟と妹が二人。
 王太子のクラレンスは、側妃も愛妾も持つ気は無いらしい。
 全て、王太子妃キャロルが産んだ子どもだった。

 勉強を始めて数日後、私達がこの国の歴史を学んでいる後ろで、クラレンスと……あれは、賢者の石の欠片だな……クリスが見学をしていた。

 少し離れていると思って油断しているのか、ぼそぼそと二人で話している。
「一見、普通の子どもだね。外見の成長は遅いようだけど」
 そうクリスが言っているのが聞こえる。まぁ、ピクトリアンの純血種への興味としては普通だ。
「覚えは早いよ。さすがに頭が良い。ギルが焦っているからね」
「ピクトリアンの純血種だからねぇ。張り合う方が間違ってると教えてやりなよ。気の毒だ」
 クリスが含み笑いをしてクラレンスに言っているのが聞き取れた。
 ピクトリアンの人間は純血種で無くても、気配やにおい、話し声には敏感だ。
 その事を、この国の人間は忘れてしまったのだろうか。

 その後の話は、子どもたちや教師に聞かれぬ様に、念話で話しているようだが筒抜けだ。
 私の事を化け物だと言っている。この国を吹き飛ばすつもりなら、ここには来ない。
 やれやれ、中途半端に能力を持ち……いや、仕方が無いのか。
 賢者に自分の分身を吸収されて、残された部分も人間として切り離されている。
 賢者の石の欠片も、数十年もしたら形を変えて人間の魂になり、その能力のほとんどが消えうせるようになっているのだから。

 別に、警戒するのは悪い事ではない。
 ただね。ここでそんな話をするものでは無いと思うのだけれどね。
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