第13話 牢獄の中のクリスとロザリー クリス側(ロザリー側の後の話)

文字数 1,278文字

 全く、冗談じゃ無い。
 あんな貴族の私兵たちに、牢獄への護送をさせたら、たどり着く前にロザリーは、
凌辱(りょうじょく)されて殺されてしまう。
 だから、自分の護衛で付いて来ていた近衛騎士を連れて、牢獄までロザリーを抱きかかえて連れて来た。
 扉が閉まるのと同時に、カギに細工をして結界も張る。
 万が一の用心の為だ。

 今、ロザリーはいつもの寝間着を着て、僕の膝で泣き疲れて眠ってしまっている。
 君は幼いのに王女としての自覚を持ち、自分の役目を正しく理解出来るんだね。
 それはとても頼もしく、そして悲しい事なのだろうけど。

「ごめんね。試すようなことをして」
 そうつぶやいて、僕はロザリーの額にキスをした。
 ロザリーはいつも僕の側で安心しきって眠るね。
 その寝顔を見ていると、僕はなんだかホッとした気分になるんだよ。

 僕の立場では、ただ好きだからと言う理由だけでは相手を選べない。
 僕が担う役割は、王室とその政敵の橋渡しだからね。
 お飾りの妻ならまだしも、こんなに愛おしくなるなんて。

 僕は、ロザリーをベッドに横たえ、その横に転がった。
 僕の気配にロザリーがすり寄ってくるから、いつものように抱きしめている。

 多分、数日後にはここから出られるだろうけど、処刑の可能性は無いわけではない。
 事の処理をするのは、準王族を名乗る貴族院の連中だ。
 あの連中をどれだけ抑えれるかで、僕らの処遇が変わってしまう。
 クラレンスたちが、どれだけ踏ん張ってくれるかに、かかっている。

 もし処刑されるようなことになったら、この体から解放されてすぐに全力で能力を使ってロザリーを逃がそう。
 賢者に吸収されるくらいなら、その方が良い。

 そこまで考えて、ついついため息を吐いてしまった。
 さすがに仕掛けてくるのが早いよねぇ、あの暴君王は。
 こちらの準備が整わない内に、どんどん事を進めてくる。
 ロザリーの優秀さも見越しての事なのだろうけどねぇ。
 
 今回、賢者は頼れない。実際に、戦争が始まりでもすれば、別だけど。
 たとえ、今ここにいるのがキャロルで、処刑が確定してしまっていても、もう賢者は動かない。

 ただ、解放されたら賢者とは話を付けないといけないんだろうな。
 賢者とリンクしている部分を外してもらうように。
 僕が、純粋に人間として輪廻転生出来るように……。



 僕らは、一週間も経たず、この牢獄から解放された。
 目の前で、キャロルとシルヴィアが泣きながらロザリーを抱きしめている。

「思ったより、早かったね」
 その光景を見ながら、僕はクラレンスに言った。
「ああ。婦人会の方からも、圧力をかけてもらったからね。ロザリーは、かなり年配の女性から好かれているようだから。クリスもロザリーの扱いに気を付けないと、どんな噂を流されるかわからないぞ」
 ……なるほど。
「じゃあ。そのご婦人方を招待して、お茶会を開こうかな。お礼がてらに」
 第二王子としては、これが精一杯かな。僕も一緒に可愛がってもらおう。

 でもまぁ、皆には政敵を追い落とす良い訓練になったんじゃないかな? 
 僕がいたら、どうしても頼って来るからね。君たちは。
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