第39話 ダグラス殿下のお誘い

文字数 1,990文字

「キャロル。思っていることが口に出てる」
 クリスから指摘されて、我に返った。横見て横、って感じだ。

 ん? っと思って、両隣を見る。
 ダグラスもクラレンスも、真っ赤な顔をしていた。なんで?
 あっ、そっか。
「婚礼の儀が終わってからじゃないと、まずいですよね。赤ちゃんは」
 妊娠中はお腹が大きくなるから、ドレスが入らなくなるし。
 無理はしたらダメなんだよね。

「キャロル。とりあえずやめよう。噂がもっとひどい事になる」
 クラレンスが焦って止めていた。
 ここにいる人間は、低い身分の者でも男爵の子息子女だ。
 このままでは、社交会での噂がすごい事になってしまうとの懸念だった。

「はぁ。分かりました」
 よく分からないけど、たぶん婚姻前ってのがいけないのよね。向こうは出来ちゃった婚もあったけど……。
「確かにな。さっき、クラレンスは無難な言い方をしていたけど、赤ちゃんが……なんて、可愛い噂じゃ無かったもんな」
「ダグラス」
 そう言うダグラスをクラレンスがたしなめるように止めた。
「夜会に出たら、イヤでも耳にするだろう? 出ないわけにはいかないんだから」
「まぁ。確かに好意的な噂では無いんだろうけどねぇ」
 ダグラスのいう事に、クリスも乗っかってきた。
 噂のコントロールは難しいねぇって言外に聞こえる。
 なんだかクリスが絡んでると、またロクな噂じゃ無いんじゃないのかと思ってしまう。

「大丈夫だよ。キャロルに対して悪意が向いているわけでは無い。あくまでも、クラレンスに対してだよね」
 不安になってしまった私に対して、そうクリスが言う。だから安心してねって。
「そうそう。私に対してだ。キャロルはどちらかというと被害者側だから」
 クラレンスもそんな事を言ってるけど、私を何だと思っているのよ。
「それで、わたくしがどうして安心できると思うのですか」
 思わず、立ち上がってそう言ってしまった。
 そんな私を見て、クラレンスとクリスは慌ててしまっていた。

「ずいぶんと仲が良くなったんだな。リリーがいなくなって」
 私が二人になだめられ、席に座ったところで、ダグラスが感心したように、言った。
「キャロルが変わったからかな? 私も反省したんだよ」
 クラレンスは、手を胸に当て言っているけど、見ようによってはまじめに答えてない。
「処刑がかかっているからね。クラレンスも必死だよ」
 しれっとクリスが言った。

「ふ~ん。そう言えば王命に逆らっていたんだっけ?」
 ダグラスが思い出したように言ってる。
「キャロルとの婚約破棄が成立したらね。まだ、保留になっているから」 
 人払いしていない状態で、クリスが言うって事は、正式にそう言う事にしたんだ。
 ダグラスの方は、ふ~んという感じで聞いている。
 そして私の方を向いて
「あっ、そうだ。キャロル。あれ、まだ有効?」
 軽い感じで訊いてきた。
「あれって、何です?」
 心当たりが無い。

「俺が婚約者だったら良かったのにって言ってくれたじゃない。婚約破棄されて、泣いていた日に……。覚えてないかなぁ」
 ダグラスがそう言った途端、他の二人が警戒したのが分かった。
「あれ。聞こえてたのですね」
 私は普通に返した。警戒したのはわかるのに、それ以降のキャロルのスキルが反応しない。
「うん。聞こえてた」
 目の前のダグラスはニコニコして言っている。
「ダグラス殿下。優しいから、つい、良いなって思っちゃったんですよね」
 あの状況下だったもんね。今もダグラスの事は、お兄さんとして頼りにしてるし。

「いいな。って思ってくれたんだ」
 そっか、そっかと言って笑ってくれる。
「今はそれで良いからさ。俺との事も少し考えてみてくれる?」
 優しいダグラスらしく言ってくるけど、返事をしたらまずい気がする。
 どうしよう。
 つい、クラレンスの方を見てしまった。

「キャロル。考えてみるくらいは良いんじゃないかな」
 クラレンスが助け舟を出してくれた。何か、ダグラスの方をにらんでるけど。
「クラレンス殿下が、そうおっしゃるのでしたら」
 私は、何で睨んでるのだろうと思い、クラレンスに目線を残しながら返事をした。

「あっ、やっぱり許可がいる? まだ一応婚約者だもんな」
 ダグラスは、私の方だけを見て優しく言ってくれる。
 なるほど、今のって許可を取った感じになるんだ。
「じゃあ、クラレンスの許可も出た事だし、よろしくね」
 何だか今日のダグラスはぐいぐい来る。
 私は曖昧に笑うしかなかった。
 クリスも何も言ってくれないし……。まだ、気配が混ざった感じがしているし。

「さて、今日はもうお開きにしようか。クリスもダグラスも付き合ってくれてありがとう。楽しいひと時だったよ」
 クラレンスは、お茶会を終了の挨拶をした。
「さて、キャロル。私達は戻ろうか」
 私の手を取って立たせ、二人寄り添ってテラスから退出した。
 まるで、それが当然の流れかのように……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み