第21話 これって、交渉ですらない不毛な会話だよね
文字数 1,659文字
「クリス殿下は、クラレンス殿下が行動を起こしたらわかりますか?」
「わかるよ」
クリスは、なんでもないように返事をする。
「あの。クラレンス殿下の行動を止めてもらえないでしょうか?」
「イヤだよ。自分でやれば?」
プイっという感じでそっぽ向かれた。何だか子どもっぽい。
う~ん。やっぱり無理か。
「じゃ、行動を起こしたら教えて…………」
「それもイヤ。なんで、僕がそんな事しないといけないのって話だよね。あ~もう。こんなところでしていい会話じゃなくなってる」
クリスがそう言った途端、周りの音がキレイに消えた。
「で? どんな会話がしたいんだい? 聞くだけは聞くけど」
ものすごく機嫌が悪くなっているけど、一応こっちを向いてくれた。
「クラレンス殿下がリリー様を助けたいと思っているのは分かるんです。でも、助けに行くだけでも、同罪になってしまうでしょう? だから……」
目の前のクリスの顔が、怪訝そうな顔になっている。
あれ?
「リリーを見捨てろって言えって? 僕がクラレンスに?」
「見捨てろなんて」
そんなこと言ってない。
クリスから呆れた顔で見られてる。本当に、何で?
「言ってるんだよ。リリーを助けたら罪になるから、助けようとする行動を止めてって事だろ?」
「あ……」
「あ、じゃない。それに君は忘れているみたいだけど、僕はもうクラレンスを見限って、廃嫡に持っていこうとしてるんだよ」
そう……だった。どうしよう。どうしたら良いんだろう。
「あざといねぇ。そこで泣くんだ」
クリスから嗤 われた。
え? 私、泣いてる? 思わず自分の頬に手を当ててみる。
夜会用の手袋がじんわりと湿る。涙が出ていたんだ。
「泣いたら、男が動いてくれると思っているのかい?」
「そんなこと」
思った事もない。
仕方ないじゃない。賢者のクリスにそっくりなんだもん。つい、気を抜いて泣いてしまっただけなのに。ひどい。
「うん。知っているけどさ。その姿で、このタイミングで泣いたら、そう取られても仕方ないだろう? ああ。ダグラスの目の前で泣いて見せたら、命を懸けて動いてくれるかもしれないけど。頼る相手を間違えたねぇ」
「そんな……」
命を懸けてなんて言えるわけない。
「僕には言うのに?」
「だって、クリス殿下は」
賢者と同じ立場じゃない。
「僕の立場でも、王太子であるクラレンスの行動を止めるとなると、ましてやリリーを助けるなんて、命がいくつあっても足りないという感じだよね。今ここにいる僕は何の権力もない、賢者の能力も制限された、ただの第二王子なんだからね」
そう……なんだ。
兄弟でも、王太子とただの王子では身分が違う。クラレンスの不興をかったら、不敬罪も成り立ってしまう。リリーを助けるなんて論外だ。
「賢者様。賢者様なら何とかなるんじゃ」
「どこまで甘えるつもり?」
私のセリフをさえぎって、クリスが言ってきた。私の事を睨んでる。
「出来る出来ない以前に、しないよ。賢者は戦争でも起きない限り、人間に関与しない。それが秩序ってものだろう?」
最後の方は、少し優しい感じに戻っていた。
ハンカチを取り出して、私の頬を拭いてくれている。
「もう良いかな。この会話、すごく不毛だから。君が交渉をすると言うのならまだしも。差し出せるものも、覚悟も、何も持ってきていないよね」
「交渉?」
「そう……交渉。人はね。メリットが無いと動かないよ。そうだな。僕なら、君が手に入るなら動いても良いかな。多分、ダグラスも同じだよ」
それじゃあ、意味が無い……よね。私を手に入れるって、王太子になりたいって事だもん。
「そう。クラレンスはその時点で廃嫡されちゃうよね。ユウキも頭良いじゃない」
頬の、クリスがハンカチ越しに触っていた部分が少し暖かくなった。
それと同時に、周りの音が聞こえだす。
「さて、ラストダンスの前に、クラレンスに君を返さなきゃ。そうそう、泣いた後はちゃんと消したからね。お化粧もばっちりだよ」
クリスからおいでって、手を差し伸べられる。
私はその手を取って、夜会会場に戻った。
「わかるよ」
クリスは、なんでもないように返事をする。
「あの。クラレンス殿下の行動を止めてもらえないでしょうか?」
「イヤだよ。自分でやれば?」
プイっという感じでそっぽ向かれた。何だか子どもっぽい。
う~ん。やっぱり無理か。
「じゃ、行動を起こしたら教えて…………」
「それもイヤ。なんで、僕がそんな事しないといけないのって話だよね。あ~もう。こんなところでしていい会話じゃなくなってる」
クリスがそう言った途端、周りの音がキレイに消えた。
「で? どんな会話がしたいんだい? 聞くだけは聞くけど」
ものすごく機嫌が悪くなっているけど、一応こっちを向いてくれた。
「クラレンス殿下がリリー様を助けたいと思っているのは分かるんです。でも、助けに行くだけでも、同罪になってしまうでしょう? だから……」
目の前のクリスの顔が、怪訝そうな顔になっている。
あれ?
「リリーを見捨てろって言えって? 僕がクラレンスに?」
「見捨てろなんて」
そんなこと言ってない。
クリスから呆れた顔で見られてる。本当に、何で?
「言ってるんだよ。リリーを助けたら罪になるから、助けようとする行動を止めてって事だろ?」
「あ……」
「あ、じゃない。それに君は忘れているみたいだけど、僕はもうクラレンスを見限って、廃嫡に持っていこうとしてるんだよ」
そう……だった。どうしよう。どうしたら良いんだろう。
「あざといねぇ。そこで泣くんだ」
クリスから
え? 私、泣いてる? 思わず自分の頬に手を当ててみる。
夜会用の手袋がじんわりと湿る。涙が出ていたんだ。
「泣いたら、男が動いてくれると思っているのかい?」
「そんなこと」
思った事もない。
仕方ないじゃない。賢者のクリスにそっくりなんだもん。つい、気を抜いて泣いてしまっただけなのに。ひどい。
「うん。知っているけどさ。その姿で、このタイミングで泣いたら、そう取られても仕方ないだろう? ああ。ダグラスの目の前で泣いて見せたら、命を懸けて動いてくれるかもしれないけど。頼る相手を間違えたねぇ」
「そんな……」
命を懸けてなんて言えるわけない。
「僕には言うのに?」
「だって、クリス殿下は」
賢者と同じ立場じゃない。
「僕の立場でも、王太子であるクラレンスの行動を止めるとなると、ましてやリリーを助けるなんて、命がいくつあっても足りないという感じだよね。今ここにいる僕は何の権力もない、賢者の能力も制限された、ただの第二王子なんだからね」
そう……なんだ。
兄弟でも、王太子とただの王子では身分が違う。クラレンスの不興をかったら、不敬罪も成り立ってしまう。リリーを助けるなんて論外だ。
「賢者様。賢者様なら何とかなるんじゃ」
「どこまで甘えるつもり?」
私のセリフをさえぎって、クリスが言ってきた。私の事を睨んでる。
「出来る出来ない以前に、しないよ。賢者は戦争でも起きない限り、人間に関与しない。それが秩序ってものだろう?」
最後の方は、少し優しい感じに戻っていた。
ハンカチを取り出して、私の頬を拭いてくれている。
「もう良いかな。この会話、すごく不毛だから。君が交渉をすると言うのならまだしも。差し出せるものも、覚悟も、何も持ってきていないよね」
「交渉?」
「そう……交渉。人はね。メリットが無いと動かないよ。そうだな。僕なら、君が手に入るなら動いても良いかな。多分、ダグラスも同じだよ」
それじゃあ、意味が無い……よね。私を手に入れるって、王太子になりたいって事だもん。
「そう。クラレンスはその時点で廃嫡されちゃうよね。ユウキも頭良いじゃない」
頬の、クリスがハンカチ越しに触っていた部分が少し暖かくなった。
それと同時に、周りの音が聞こえだす。
「さて、ラストダンスの前に、クラレンスに君を返さなきゃ。そうそう、泣いた後はちゃんと消したからね。お化粧もばっちりだよ」
クリスからおいでって、手を差し伸べられる。
私はその手を取って、夜会会場に戻った。