第56話 クリスの結界 クラレンス殿下とウィンゲート公爵
文字数 2,023文字
夕方、私はお屋敷に帰るふりをして、クリス殿下の結界の中にいた。
昼間の結界とは違い、異空間の中に入っているという感じだ。
「キャロル。ちょっと時間ある? 君も見た方が良いと思って……」
帰ろうと思った廊下でクリスに呼び止められた。
護衛騎士が反応してないという事は、クリスの結界の中?
「わかりました。でも……」
噂の中に、クリスとの逢引きみたいなものも、あったはずだからまずいんじゃ……。
「大丈夫。君の幻影は馬車に乗って、お屋敷の君の部屋へ入っていくから。用事が終わったら僕がそこに転送してあげるよ」
「何でもありなんですね。クリス殿下は」
「まぁ。異世界間を移動させるより楽だからね。あっ、ほら始まるよ」
いつの間にか、目の前にスクリーンが出てて、クラレンスの執務室が映る。
なんだか、兄のリオンをはじめ、ほぼ全員が揃っている。珍しい。
その内に、執務室付きの侍女がクラレンスに何かを告げ、許可を出している様子が映る。
しばらくして入室して来たのは、ウィンゲート公爵と……あの女性は誰だろう? リリーに少し似ている。
「ああ。娘を連れて来たんだね。名前は確かマドリーンだっけ。お化粧でリリーに似せてあるけど、出来の悪いイミテーションだね」
私の疑問にクリスが答えてくれた。相変わらず、心を読んでくるのね。楽だから良いけど。
「あっ、ほら。見なよ」
クリスはスクリーンを見るように促す。私は、執務室の様子に集中した。
「クラレンス王太子殿下には、ご機嫌麗 しゅう存じ上げます。本日は、貴重なお時間を取って頂き、ありがとうございます」
机で書類のチェックや時折何かを書き込んでいるクラレンスの前で、ウィンゲート公爵とその娘が礼を執っていた。
「見ての通り、仕事が山積みになっている。用件があるなら手短にするように」
クラレンスはチラッと見ただけで、また書類に戻ってる。
「殿下。今日は私の娘を紹介するため、連れて参りました」
「マドリーン・ウィンゲートと申します。王太子殿下に拝する事が出来ました事、心より嬉しく思います」
マドリーンの所作もキレイねぇ。真似しようかな。
ただ、肝心のクラレンスは見てないようだけど。
「殿下。あまりにも礼儀から外れているのではないですかな」
ウィンゲート公爵、怒っちゃった。そうだよね。ガン無視だもん。
あっ、でもさすがに今度は、顔を上げてマドリーンを見てる。
なんか、微妙な顔をしてるけど……。
「礼儀を欠いているのは、そちらでは無いのか? 仕事上関係の無い女性を執務室に連れて来て。そもそも、身内の紹介は、社交の場ですべきでは無いのか?」
正論だわ。もしくは何の為に紹介するのでも、まずは身上書や経歴を書いた書類を届けるのが先だもの。
「だいたい、許可はそなたにしか出していない。ここには国政に関わる機密書類もあるのだ。関係ない者を連れて来て良い場所ではない」
「なかなか社交の場にもおいで頂けませんからなぁ。最近は、クリス殿下ばかりで、いつも女性に囲まれていらっしゃる」
少し、呆れたようにウィンゲート公爵が言っている。
「クリスは、病弱で人前に出れていなかったからな。婚約者がいるわけでも無いし、良いのではないか? 今の内に遊んでいても」
そう言いながら、また書類の方に戻っている。
「キャロル様との婚約破棄は、保留になっているだけだと、聞き及んでおりますが」
「そうだな。それが?」
「うちのマドリーンも、王太子妃候補としてお考え頂けないものかと」
その言葉を聞いて、クラレンスはウィンゲート公爵の方を向いてハッキリ言った。
「私は、もう二度と賢者様の意向に逆らう気は無い。キャロルは、まごう事無く賢者様がお選びになった次期王妃だ。もし、どうしてもと言うのであれば、国王陛下を通じて話を持ってくるがよい」
よく見たら、執務室にいる人達も自分の仕事の手を止めて、このやり取りを見てる。
その事にウィンゲート公爵も気付いたようね。
「かしこまりました。そうさせて頂きます」
ウィンゲート公爵は娘を連れて、執務室を出て行った。
そこで、クリスはスクリーンを閉じた。
「キャロルのもくろみ通り。娘を表舞台に引きずり出せそうじゃない」
クリスが面白そうに言っている。
「あの噂って、ウィンゲート公爵が流してるの?」
「どうして?」
「だって、噂が本当だという事が前提で話してるように聞こえたもの」
「まぁ、実際、ウィンゲートが流してるって事で、誰も噂を否定できないでいるからね。だけど、彼にしては失策だったと思うよ。出どころがハッキリしているせいで、ウソだった場合の責任を取らざるを得なくなったから」
本当に、楽しそう。まさか、そうなる様に仕組んだ?
「噂のコントロールなんて、お手の物だよ。だてに千年近くこんな世界にいるわけじゃないからね」
「また、心を……。もう良いです」
「良いんだ。さて、着いたよ」
そうクリスが言った瞬間、私は自分のお部屋にたどり着いていた。
昼間の結界とは違い、異空間の中に入っているという感じだ。
「キャロル。ちょっと時間ある? 君も見た方が良いと思って……」
帰ろうと思った廊下でクリスに呼び止められた。
護衛騎士が反応してないという事は、クリスの結界の中?
「わかりました。でも……」
噂の中に、クリスとの逢引きみたいなものも、あったはずだからまずいんじゃ……。
「大丈夫。君の幻影は馬車に乗って、お屋敷の君の部屋へ入っていくから。用事が終わったら僕がそこに転送してあげるよ」
「何でもありなんですね。クリス殿下は」
「まぁ。異世界間を移動させるより楽だからね。あっ、ほら始まるよ」
いつの間にか、目の前にスクリーンが出てて、クラレンスの執務室が映る。
なんだか、兄のリオンをはじめ、ほぼ全員が揃っている。珍しい。
その内に、執務室付きの侍女がクラレンスに何かを告げ、許可を出している様子が映る。
しばらくして入室して来たのは、ウィンゲート公爵と……あの女性は誰だろう? リリーに少し似ている。
「ああ。娘を連れて来たんだね。名前は確かマドリーンだっけ。お化粧でリリーに似せてあるけど、出来の悪いイミテーションだね」
私の疑問にクリスが答えてくれた。相変わらず、心を読んでくるのね。楽だから良いけど。
「あっ、ほら。見なよ」
クリスはスクリーンを見るように促す。私は、執務室の様子に集中した。
「クラレンス王太子殿下には、ご機嫌
机で書類のチェックや時折何かを書き込んでいるクラレンスの前で、ウィンゲート公爵とその娘が礼を執っていた。
「見ての通り、仕事が山積みになっている。用件があるなら手短にするように」
クラレンスはチラッと見ただけで、また書類に戻ってる。
「殿下。今日は私の娘を紹介するため、連れて参りました」
「マドリーン・ウィンゲートと申します。王太子殿下に拝する事が出来ました事、心より嬉しく思います」
マドリーンの所作もキレイねぇ。真似しようかな。
ただ、肝心のクラレンスは見てないようだけど。
「殿下。あまりにも礼儀から外れているのではないですかな」
ウィンゲート公爵、怒っちゃった。そうだよね。ガン無視だもん。
あっ、でもさすがに今度は、顔を上げてマドリーンを見てる。
なんか、微妙な顔をしてるけど……。
「礼儀を欠いているのは、そちらでは無いのか? 仕事上関係の無い女性を執務室に連れて来て。そもそも、身内の紹介は、社交の場ですべきでは無いのか?」
正論だわ。もしくは何の為に紹介するのでも、まずは身上書や経歴を書いた書類を届けるのが先だもの。
「だいたい、許可はそなたにしか出していない。ここには国政に関わる機密書類もあるのだ。関係ない者を連れて来て良い場所ではない」
「なかなか社交の場にもおいで頂けませんからなぁ。最近は、クリス殿下ばかりで、いつも女性に囲まれていらっしゃる」
少し、呆れたようにウィンゲート公爵が言っている。
「クリスは、病弱で人前に出れていなかったからな。婚約者がいるわけでも無いし、良いのではないか? 今の内に遊んでいても」
そう言いながら、また書類の方に戻っている。
「キャロル様との婚約破棄は、保留になっているだけだと、聞き及んでおりますが」
「そうだな。それが?」
「うちのマドリーンも、王太子妃候補としてお考え頂けないものかと」
その言葉を聞いて、クラレンスはウィンゲート公爵の方を向いてハッキリ言った。
「私は、もう二度と賢者様の意向に逆らう気は無い。キャロルは、まごう事無く賢者様がお選びになった次期王妃だ。もし、どうしてもと言うのであれば、国王陛下を通じて話を持ってくるがよい」
よく見たら、執務室にいる人達も自分の仕事の手を止めて、このやり取りを見てる。
その事にウィンゲート公爵も気付いたようね。
「かしこまりました。そうさせて頂きます」
ウィンゲート公爵は娘を連れて、執務室を出て行った。
そこで、クリスはスクリーンを閉じた。
「キャロルのもくろみ通り。娘を表舞台に引きずり出せそうじゃない」
クリスが面白そうに言っている。
「あの噂って、ウィンゲート公爵が流してるの?」
「どうして?」
「だって、噂が本当だという事が前提で話してるように聞こえたもの」
「まぁ、実際、ウィンゲートが流してるって事で、誰も噂を否定できないでいるからね。だけど、彼にしては失策だったと思うよ。出どころがハッキリしているせいで、ウソだった場合の責任を取らざるを得なくなったから」
本当に、楽しそう。まさか、そうなる様に仕組んだ?
「噂のコントロールなんて、お手の物だよ。だてに千年近くこんな世界にいるわけじゃないからね」
「また、心を……。もう良いです」
「良いんだ。さて、着いたよ」
そうクリスが言った瞬間、私は自分のお部屋にたどり着いていた。