第7話 クリス殿下とロザリー姫の夜会
文字数 1,870文字
私たちの婚約発表を兼ねた夜会を皮切りに、私はクリス様に連れられて、王宮の夜会に参加するようになっていた。
私にとっては、クリス様が独立した後、公爵夫人としてやっていけるかどうかの、正念場 と言うところなのだと思う。
このハーボルト王国は、他国からの姫を受け入れた場合、原則として年齢を考慮せず即時に婚約をする事となり、その一年後に婚姻を結ぶのだと言う。
そして、クリス様は第二王子。
婚姻後は、王宮を出て公爵として独立しなければならないのだそうだ。
それと同時に、否応なく私も公爵夫人としての公務を任されてしまう。
婚約期間の内に、その為のお勉強と場慣れをしなければならない。
「ロザリー様。立食コーナーに参りましょう?」
その為にと、最初の夜会の時に、クリス様が引き連れていたご令嬢たちを紹介された。
王妃の親戚……つまり、王妃の派閥の令嬢たち……。ダグラス様の婚約者もいるわ。
「こちらはソフトドリンクだから、ロザリー様でも飲めますわ」
何か違う。こうも甘やかされて良いものだろうか?
クリス様と一緒にいる時は、貴族の方々が挨拶に来られた時に、私も対応させられているのだけど。
その後は、令嬢たちに囲まれて、主にキャロル様が他の婦人たちの相手をしている。
私が何かしゃべると、ご婦人方が微笑ましく見てくれるのも、面映 ゆい。
「デビュタントもしていないお子様が夜会にいると思ったら……。アルンティル王国のスパイ殿でしたか」
少し酔った感じの男性が、私を見るなり言ってくる。
スパイ?
私が何か言う前に、キャロル様が私の目の前に立った。シルヴィア様と他の令嬢たちも、私を庇うように自分たちの後ろへと押しやる。
ちょっと、待って。この方、私の事スパイって言ったわ。
お酒を召 されているって事は、本音が出てるはずだからお話を聞きたい。
そう思っていると後ろから声がかかった。
「君たち、ありがとう。ロザリーを庇ってくれて。だけど、少しだけ後ろに下がってくれるかな」
なんて、令嬢たちに言っている。
クリス様のその声に、みんな……。正面切って向き合っていたキャロル様でさえ、ホッとしたような表情を見せた。
クラレンス様はキャロル様を庇うように立ち、ダグラス様もシルヴィア様の側に来ている。
「失礼。私の婚約者が何か粗相でも?」
クリス様は、私の肩を抱きよせてその男性に言う。
お顔は、至ってにこやかだ。なのに、その男性は怯えていた。
「あ……いえ。あの。し……失礼」
なんだか、しどろもどろになっているわ。
私の事をクリス様が庇うなんて思ってもみなかったという感じなのかしら。
そう思われても、仕方が無いくらいクリス様は夜会の間、私の所に寄ってこないものね。
一通り、挨拶をし終わったら、私をキャロル様に預けて自分はどこかに行ってしまっている。
会場内にはいるみたいだけれど。そう言えばダンスですら一度も誘ってもらえていない。
酔っぱらったあの男性を追い払った後、クリス様は令嬢たちに囲まれていた。
先ほど、私を庇ってくれたことに対するお礼を言っているのだけど、いつもと違うのはその中に私もいる事だった。
優しく頭を撫でてくれるクリス様を不思議に思いながらも、私は笑顔を作って顔を見上げる。
周りから見たら、仲睦まじく見えるのかな。
初めてだよね。起きている時に、こんなに優しいのなんて。
「ロザリー。この曲踊れる?」
クリス様が優しく訊いてきた。
この曲……。8歳になったベティ様に合わせて踊った、簡単なダンスだわ。
「大丈夫です」
私の返事を確認してか、クリス様が目の前で優雅に礼を執る。
「ロザリー姫。私と踊って頂けますでしょうか?」
格好良すぎて、胸がドキドキするわ。
私は、本当にこの男性 に釣り合っているのかしら。
「喜んでお受けいたします」
習ったばかりの優雅に見える礼は、本当に優雅に見えている?
私は、本当に…………。
「そんなに緊張しないで。大丈夫。僕がちゃんと躍らせてあげるから。もっと、難しい曲でもね」
そんなことをクリス様は言ってきた。
「ちゃんと練習して、上手になりたいです。せっかくクリス様が、お勉強できる機会を作って下さったのだもの」
本当に、クリス様の横に堂々と並べるだけの私になりたい。
「勉強させてくださってありがとうございます。私はクリス様の婚約者になれて幸せです」
この国で、どんな扱いを受けても文句の言えないはずの私に、お勉強できる環境を与えてくれたクリス様に素直に感謝した。
クリス様の笑顔が少し微妙な感じにはなったのだけど。
私にとっては、クリス様が独立した後、公爵夫人としてやっていけるかどうかの、
このハーボルト王国は、他国からの姫を受け入れた場合、原則として年齢を考慮せず即時に婚約をする事となり、その一年後に婚姻を結ぶのだと言う。
そして、クリス様は第二王子。
婚姻後は、王宮を出て公爵として独立しなければならないのだそうだ。
それと同時に、否応なく私も公爵夫人としての公務を任されてしまう。
婚約期間の内に、その為のお勉強と場慣れをしなければならない。
「ロザリー様。立食コーナーに参りましょう?」
その為にと、最初の夜会の時に、クリス様が引き連れていたご令嬢たちを紹介された。
王妃の親戚……つまり、王妃の派閥の令嬢たち……。ダグラス様の婚約者もいるわ。
「こちらはソフトドリンクだから、ロザリー様でも飲めますわ」
何か違う。こうも甘やかされて良いものだろうか?
クリス様と一緒にいる時は、貴族の方々が挨拶に来られた時に、私も対応させられているのだけど。
その後は、令嬢たちに囲まれて、主にキャロル様が他の婦人たちの相手をしている。
私が何かしゃべると、ご婦人方が微笑ましく見てくれるのも、
「デビュタントもしていないお子様が夜会にいると思ったら……。アルンティル王国のスパイ殿でしたか」
少し酔った感じの男性が、私を見るなり言ってくる。
スパイ?
私が何か言う前に、キャロル様が私の目の前に立った。シルヴィア様と他の令嬢たちも、私を庇うように自分たちの後ろへと押しやる。
ちょっと、待って。この方、私の事スパイって言ったわ。
お酒を
そう思っていると後ろから声がかかった。
「君たち、ありがとう。ロザリーを庇ってくれて。だけど、少しだけ後ろに下がってくれるかな」
なんて、令嬢たちに言っている。
クリス様のその声に、みんな……。正面切って向き合っていたキャロル様でさえ、ホッとしたような表情を見せた。
クラレンス様はキャロル様を庇うように立ち、ダグラス様もシルヴィア様の側に来ている。
「失礼。私の婚約者が何か粗相でも?」
クリス様は、私の肩を抱きよせてその男性に言う。
お顔は、至ってにこやかだ。なのに、その男性は怯えていた。
「あ……いえ。あの。し……失礼」
なんだか、しどろもどろになっているわ。
私の事をクリス様が庇うなんて思ってもみなかったという感じなのかしら。
そう思われても、仕方が無いくらいクリス様は夜会の間、私の所に寄ってこないものね。
一通り、挨拶をし終わったら、私をキャロル様に預けて自分はどこかに行ってしまっている。
会場内にはいるみたいだけれど。そう言えばダンスですら一度も誘ってもらえていない。
酔っぱらったあの男性を追い払った後、クリス様は令嬢たちに囲まれていた。
先ほど、私を庇ってくれたことに対するお礼を言っているのだけど、いつもと違うのはその中に私もいる事だった。
優しく頭を撫でてくれるクリス様を不思議に思いながらも、私は笑顔を作って顔を見上げる。
周りから見たら、仲睦まじく見えるのかな。
初めてだよね。起きている時に、こんなに優しいのなんて。
「ロザリー。この曲踊れる?」
クリス様が優しく訊いてきた。
この曲……。8歳になったベティ様に合わせて踊った、簡単なダンスだわ。
「大丈夫です」
私の返事を確認してか、クリス様が目の前で優雅に礼を執る。
「ロザリー姫。私と踊って頂けますでしょうか?」
格好良すぎて、胸がドキドキするわ。
私は、本当にこの
「喜んでお受けいたします」
習ったばかりの優雅に見える礼は、本当に優雅に見えている?
私は、本当に…………。
「そんなに緊張しないで。大丈夫。僕がちゃんと躍らせてあげるから。もっと、難しい曲でもね」
そんなことをクリス様は言ってきた。
「ちゃんと練習して、上手になりたいです。せっかくクリス様が、お勉強できる機会を作って下さったのだもの」
本当に、クリス様の横に堂々と並べるだけの私になりたい。
「勉強させてくださってありがとうございます。私はクリス様の婚約者になれて幸せです」
この国で、どんな扱いを受けても文句の言えないはずの私に、お勉強できる環境を与えてくれたクリス様に素直に感謝した。
クリス様の笑顔が少し微妙な感じにはなったのだけど。