第46話 襲われたキャロル

文字数 1,458文字

 私は、クラレンスの執務室の帰りに賢者の間に寄るからと、護衛をしていた近衛騎士に言って謁見の間の前で別れた。

 謁見の間の奥。薄暗い廊下を歩く。
 普段だったら、私が廊下に入ると明かりが灯るのだけど、今日は薄暗いままだ。
 扉の前に立っても、初めて一人きた時のように扉にすり寄って「クリス」と呼び掛けても、賢者の間の扉は開いてくれなかった。
 私はドレスがしわになるのも構わずへたり込む。

 もうどうして良いのか分からない。
 だって、辛い。
 クラレンスの味方をするって決めたのに、側にいるのが辛くなっている。
 いろんな考えが頭の中に浮かんできて、もう泣いてしまいたい。

 うずくまって、どれくらい経っただろう。
 石造りの床にへたり込んでいた所為か、ドレスを着ていてもお尻が冷たくなってしまった。
「こうしていても、仕方が無いわね」
 誰も聞いてないけど……。
 よっこらしょっという感じで、私は立ちあがった。声に出さなかったけど。

 護衛を外してしまったけど、謁見の間を出て少し歩けば、まだ残っている人もいるだろう。
 馬車の所までだったら、大丈夫よね。
 そう思って、そのまま謁見の間を横切って、廊下に出た。
 謁見の間の廊下は薄暗く人通りは無い。

 王宮って、誰もいなかったら不気味だよね。
 幽霊が出そう。
 やだ、考えたら本当にそんな気がしてきた。
 私は足早に、廊下から広間に出ようとしていた。

「キャロル・アシュフィールド様」
 誰か呼んだ?
 そう思って振り向くと、何だか鈍い音がしてお腹にものすごい痛みが走った。
 息が出来ない。
 私は立っていられなくなり、うずくまってしまう。痛くて何も考えられない。

 誰かが走って逃げる音がしてる。
 一目だけでも、見なきゃ。
 そう思って、頑張って顔を上げた。痛みで目が開けづらい。

 そこに見えたのは、私のお腹を殴っただろう男が倒れている姿と、その前に立っているのは。
 光の塊?
 光を(まと)った賢者のクリスに見えるけど……。

「全く。護衛を外してウロウロするなんて、死にたいの?」
 クリスが私の体に手をかざした。
 立てない程の痛みが、スーッと消える。
「消すのは、痛みだけ。大事な証拠だから」
「クリス殿下?」
「正解。やっぱり、見分けがつくんだ」
 何で、そこでため息を吐いてるんだろう? クリス……。

 私を殴った男の方にはわらわらと、騎士や兵士がやって来て、倒れた男を捕縛していた。
「後で取り調べるから、とりあえず牢屋に入れておいて」
 クリスが指示を出している。 

 クリスからお姫様抱っこされそうになってから、気が付いた。
 この体って……。
「賢者様は?」
「さあね。知らない」
 クリスは、私を抱え上げてる。
「このまま、部屋に連れて行くけど良いかな?」
 部屋? 第二王子の?
「だ……め。やめて」
 必死になって言う。だって、そんなことしたら。
「ふうん? でも、僕に会いに来てたんだよね」
 確かにそうだけど、それは賢者の方で……。
「お願い。連れて行かないで」
 暴れようとして、体に力が入らない事に気付いた。
 それでも、必死に体をよじる。

「心配しなくても、何もしないよ?」
 クリスは優しい顔で、賢者のクリスみたいな言い方をする。
「何もしなくても、イヤ。お願いだから」
 賢者の石の方のクリスは、以前、クラレンスを見捨てたと言っていた。
 廃嫡したいって……。
 
 何も無くても、第二王子の部屋で一晩過ごしたというだけで、既成事実が出来てしまう。
 もう、クラレンスの側に居られなくなる。
 
 クリスの腕の中で、私は泣きながら抵抗を続けた。
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