第9話 結界から帰るのはだあれ?
文字数 1,829文字
キャロルが、賢者の腕の中で身じろぎしている。
賢者もそれに気づいたようで、少し腕の力を緩めた。
動けるようになったキャロルが賢者を見上げて言う。
「賢者様。クラレンスに『ごめんなさい。子どもたちの事を頼みます』って謝ってたって、クリスを通じてで良いので、伝えてもらえます?」
賢者の顔が、見る見るうちにこわばっていく。
まぁ、キャロルがそういう事が、予想できたから先ほど非難の声を上げたのだろうけど。
ユウキの意識のままとはいえ、さすが長年王族をやってきただけある。
「何? 何を言っているの? キャロル。君が帰るんだよ。クラレンスも子どもたちも、みんな待っているだろう?」
賢者が焦っている。いや君が『何言ってるの?』だからね。
王太子妃でしかない自分と、この国が他国と戦争になっても敵に一度も国土を踏ませず勝利をもたらす賢者とじゃ。比べるまでも無い。
そう判断出来ているキャロルは、まごうことなき王族だ。
「賢者様がいないとこの国は困った事になります。賢者の石も無い事ですし、代行できるクリスも人間と同じ寿命になったのでしょう? クリス亡き後、国は大混乱におちいりますよ」
ほら、キャロルからも何言ってんのって感じで言われている。
賢者も、正論過ぎて反論できなくてオロオロしているのが分かるよ。
「それにわたくし、自分からメアリーの結界の中に入ったんです。だからこの後、何が起こっても、わたしくしの自業自得でしょう? わたくしがメアリーを自分の娘として信じたのですから」
うん。今も疑ってないよね。
子どもたちを、私の部屋で遊ばせると言っても快く送り出していたし。
これはバレているかな? 賢者との戦いになっても、キャロルが傷つかない様に私の気配を纏 わりつかせていることに。
逆に、そのせいで賢者がさらに私を警戒しているのだけど。
キャロルは、賢者の腕を抜け出して、私の方を見て言う。
「メアリー。わたくしが残るわ。だからどうか賢者様を結界の外に帰してちょうだい」
覚悟を決めたように、真っすぐと私の顔を見た。
「キャロル。ダメだ。私が残るから。メアリー、キャロルを帰してくれ。私は一切抵抗しない。それで気が済むと言うのなら、八つ裂きにでもなんにでもしてくれて構わない」
賢者はうるさい。動きを制限させてもらうよ。
と言うか、この状態でまだ動けるのか……必死だな、賢者も。
「抵抗しないというのなら、少しは静かにしてもらえないかな」
私は目に少し冷たさを持たせて、賢者を見た。
そんな事で、静かになるはずもないんだけどね。
まぁ、うるさい賢者は無視して、キャロルに話しかける。
「怖く無いの? キャロル」
「怖いわよ。当たり前でしょう?」
怖いと言っている割には、心は平静を保っている。
この中で、普通の人間が心を偽れる術 は持たないから、本心から怖がっていない。
ああ。そうか。
キャロル……ユウキは一度、魂が消滅してもかまわないと、そんな覚悟をしたことがあるから。
あの時は、クラレンスが庇ったけれど、それだって庇ってもらえると思わずに痛みと衝撃を耐える覚悟をしていた。
それでか。それで、そんなにも心が穏やかなのか。
「でも、メアリーは怖くないわよ」
にっこり笑って、キャロルが言ってくる。
もう、ため息しか出ない。
「キャロル。こちらに来てくれないだろうか」
私は、キャロルを自分の側に呼んだ。
キャロルは、何のためらいも無く。私の目の前に来た。
その肩越しに、物凄い形相をした賢者が見えるけど。
私は、ニッコリ笑っていつぞやの勉強部屋での事をくりかえす。
「かあさま。抱っこ」
私は両手をいっぱいに広げて抱っこを待つポーズをした。
「きゃ~! かわい~」
キャロルは、もう辛抱たまらんという顔で、私を思いっきり抱きしめた。
「あなたの無防備さには本当にあきれるね」
抱っこされたまま、キャロルの耳元で囁いた。
「私はあなたを八つ裂きにするって言ったんだよ。このまま、直接衝撃を与える事も、殺すことだって出来るのに」
「聞いたけど……あれ? あっ、そうか。これからは、気を付けるわ」
相変わらず、危機感が無い。
キャロルは、最後まで私に対して何の警戒もしなかった。
「もうこ れ か ら も、気を付けなくて良い。私に対しては、だけどね」
キャロルの危機感や警戒心の無さは、賢者たちに再教育をしてもらうとして。
このキャロルの側にいる今 の賢者なら、あの話をしても良いのではと、思っていた。
賢者もそれに気づいたようで、少し腕の力を緩めた。
動けるようになったキャロルが賢者を見上げて言う。
「賢者様。クラレンスに『ごめんなさい。子どもたちの事を頼みます』って謝ってたって、クリスを通じてで良いので、伝えてもらえます?」
賢者の顔が、見る見るうちにこわばっていく。
まぁ、キャロルがそういう事が、予想できたから先ほど非難の声を上げたのだろうけど。
ユウキの意識のままとはいえ、さすが長年王族をやってきただけある。
「何? 何を言っているの? キャロル。君が帰るんだよ。クラレンスも子どもたちも、みんな待っているだろう?」
賢者が焦っている。いや君が『何言ってるの?』だからね。
王太子妃でしかない自分と、この国が他国と戦争になっても敵に一度も国土を踏ませず勝利をもたらす賢者とじゃ。比べるまでも無い。
そう判断出来ているキャロルは、まごうことなき王族だ。
「賢者様がいないとこの国は困った事になります。賢者の石も無い事ですし、代行できるクリスも人間と同じ寿命になったのでしょう? クリス亡き後、国は大混乱におちいりますよ」
ほら、キャロルからも何言ってんのって感じで言われている。
賢者も、正論過ぎて反論できなくてオロオロしているのが分かるよ。
「それにわたくし、自分からメアリーの結界の中に入ったんです。だからこの後、何が起こっても、わたしくしの自業自得でしょう? わたくしがメアリーを自分の娘として信じたのですから」
うん。今も疑ってないよね。
子どもたちを、私の部屋で遊ばせると言っても快く送り出していたし。
これはバレているかな? 賢者との戦いになっても、キャロルが傷つかない様に私の気配を
逆に、そのせいで賢者がさらに私を警戒しているのだけど。
キャロルは、賢者の腕を抜け出して、私の方を見て言う。
「メアリー。わたくしが残るわ。だからどうか賢者様を結界の外に帰してちょうだい」
覚悟を決めたように、真っすぐと私の顔を見た。
「キャロル。ダメだ。私が残るから。メアリー、キャロルを帰してくれ。私は一切抵抗しない。それで気が済むと言うのなら、八つ裂きにでもなんにでもしてくれて構わない」
賢者はうるさい。動きを制限させてもらうよ。
と言うか、この状態でまだ動けるのか……必死だな、賢者も。
「抵抗しないというのなら、少しは静かにしてもらえないかな」
私は目に少し冷たさを持たせて、賢者を見た。
そんな事で、静かになるはずもないんだけどね。
まぁ、うるさい賢者は無視して、キャロルに話しかける。
「怖く無いの? キャロル」
「怖いわよ。当たり前でしょう?」
怖いと言っている割には、心は平静を保っている。
この中で、普通の人間が心を偽れる
ああ。そうか。
キャロル……ユウキは一度、魂が消滅してもかまわないと、そんな覚悟をしたことがあるから。
あの時は、クラレンスが庇ったけれど、それだって庇ってもらえると思わずに痛みと衝撃を耐える覚悟をしていた。
それでか。それで、そんなにも心が穏やかなのか。
「でも、メアリーは怖くないわよ」
にっこり笑って、キャロルが言ってくる。
もう、ため息しか出ない。
「キャロル。こちらに来てくれないだろうか」
私は、キャロルを自分の側に呼んだ。
キャロルは、何のためらいも無く。私の目の前に来た。
その肩越しに、物凄い形相をした賢者が見えるけど。
私は、ニッコリ笑っていつぞやの勉強部屋での事をくりかえす。
「かあさま。抱っこ」
私は両手をいっぱいに広げて抱っこを待つポーズをした。
「きゃ~! かわい~」
キャロルは、もう辛抱たまらんという顔で、私を思いっきり抱きしめた。
「あなたの無防備さには本当にあきれるね」
抱っこされたまま、キャロルの耳元で囁いた。
「私はあなたを八つ裂きにするって言ったんだよ。このまま、直接衝撃を与える事も、殺すことだって出来るのに」
「聞いたけど……あれ? あっ、そうか。これからは、気を付けるわ」
相変わらず、危機感が無い。
キャロルは、最後まで私に対して何の警戒もしなかった。
「もう
キャロルの危機感や警戒心の無さは、賢者たちに再教育をしてもらうとして。
このキャロルの側にいる