第1話 アルンティル王国 出立前の幼い姫君

文字数 1,600文字

 ここはアルンティル王国。
 豊かな自然に囲まれ、中心に向かうとともに賑わいを見せる都市が点在している。
 少しばかりちぐはぐとしている趣もあるが、近隣諸国を侵略し従わせている最中なのでそれも仕方が無いという感じだ。
 その内に統一感も出てくるであろう。
 現国王は、そのような考えを持っているらしかった。

 国の中心である王都の、そのまた中央には広い敷地を持つ王城がそびえ建っている。
 その敷地内には、貴族街も存在し。王族貴族が自給自足できるよう田畑や酪農地も備えられている。
 王城の中の居住区域は細かく分かれており、王宮には国王とその王妃、王太子しか住まう事が許されず。あとは東西南北に分かれる建物に居住していた。

 私、ロザリー・アルンティルは、王妃から産まれた第二子の王女。今年で10歳になった。
 王妃であるエイヴリルに似て、緩くウェーブのかかった金色の髪を持ち、小柄で顔立ちも可愛らしく、先々は美人になる、と侍女たちからは言われているわ。

 国王の子どもは、生まれてすぐに母親から離され、南の建物に移動させられる。
 そこで、必要な一般常識、礼儀作法などを叩きこまれるの。
 それでも、私のような王妃から生まれた王女はとても大切に育てられているわ。
 
 そしてこう教えられるの。
 もし、他国に嫁ぐことがあったなら、その国や夫となるものに従順に従い。たとえ理不尽に命を落とすことがあっても、最後まで王女としての矜持を保ちなさい……と。

 アルンティル王国は軍事大国で、たいていの国には負けないけど、それでも戦いたくない国はあるのだそうだ。
 その国々への貢物にするために、王妃の産んだ女児だけは分かるようにしているのだというの。
 他の子どもは、誰が産んだのか分からないようにしているのが、我が国の特殊事情なのだわ。

 戦いたくない国の筆頭といえば、ピクトリアン王国。
 結界の中移動している国で、国民一人でも傷つけると国を滅ぼす勢いで、攻撃してくるのですって。
 だけど、他国者が国に入る事を拒むので、王女を他国へ嫁がせることがあっても、他国からの王女は受け入れないから、私たちには関係無いの。

 私たちに関係あるのは、同じ軍事大国のグルタニカ王国。
 今はもう穏やかに落ち着いているけど、数百年ほど前には、戦闘狂の王太子がいて近隣諸国を中心に蹂躙していたのだとか。

 そして、そんな国にも余裕で勝ててしまっていたのが、ハーボルト王国。
 数千年も賢者様の下、不敗神話をつくりだしている王国。
 自分から戦争を仕掛けようとしないのが、救いであると言われているのよね。
 だけど、怒らせてしまったら、殲滅戦も辞さない、ある意味怖い国でもあるのらしい。

 他にもあるのだけれど、その二国には我が国の所業を大目に見てもらいたいところ、なのだそうだ。

 先日、私は南の建物内にある、謁見の間に呼び出されていた。
 父王といっても、初対面。だいたい父王がこの建物に来るのは、王太子と定めた子供を王宮に連れていく時か、王女を他国へ嫁がせるときのみだから。

「そなたをハーボルト王国の第二王子クリス殿に嫁がせることが決まった。何事にも、クリス殿を立て従い。我が国を、安泰に導くように」
 父王が玉座から、そう言うのが聞こえた。
 私は礼を執ったまま
「かしこまりました」
 と言うしかなかった。
 お顔を見る事もかなわず、短い謁見は終わったのだわ。

 母がお忍びで来てくれて、相手国の夫になる人との対面式の時に着る正装のドレスを仕立て持ってきてくれた。
 我が国が誇る、デザイナーによる逸品で、少しだけ私の心を少し軽くさせてくれた。
「大丈夫よ。ロザリーなら、ちゃんとクリス様にも愛されるわ。こんなに可愛らしいんですもの」
 母、エイヴリル王妃はそう言ってくれるけど。
 私の心は、不安でいっぱいだった。

 そして、父王との謁見の一か月後、私はハーボルト王国に向け出立をしていた
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