第9話 クリス側 少し不穏な話

文字数 1,153文字

 あの夜会の数日後、謁見の間に呼び出されていた。
 僕だけでなく、クラレンスやダグラスも呼び出されている。
 周りには、主だった貴族たちが大勢詰めかけているという、異例さだ。
 
 先日、あの男が言っていた事は、密やかに噂になっていた事。だが何も根拠は無い。
 そもそも、何の能力も無い10歳の女の子が単独でやって来て、この賢者が支配する国でのスパイ活動など出来るはずが無いのだ。

 それよりも今問題になっているのは、『我が国の隣国、リクドル王国に、アルンティル王国が攻め入ろうと画策している』と言う情報。
 これを聞いた、賢者は即座に
『この情報は、デマである』
 と、国王に伝えている。

 理由としてあげられたのは、アルンティル王国とリクドル王国の距離。
 両国の間は、かなりの距離がある。
 その間には、小国といえど無数の国が存在している。
 実際にロザリーは馬車で二か月もの間旅をして、このハーボルト王国入りを果たしている。
 そのハーボルト王国に隣接するリクドル王国。
 軍隊で強行しても(近隣国が素直に通したとしても)三週間はかかる道のりである。
 それを推しても、リクドル王国を落とすメリットがあるならばともかく、海に面した国が故、魚介類が特産というだけの平凡な国だ。何のうまみも無い。

 少し考えればデマだと分かる噂をアルンティル王国が流す理由など簡単にわかるだろう。
 このデマにより、ロザリー姫を処刑させ、正当な理由でハーボルト王国に宣戦布告する。
 この場合、デマに踊らされてきちんと確認も取らず、他国から和平のために寄越された姫を処刑してしまう愚かな国、という烙印をハーボルト王国は押されてしまうことになる。
 我が国の周辺諸国への信頼は失墜する。その状態でアルンティル王国と戦闘になっても、同盟諸国ですら我が国に味方をしてくれないだろう。


 集まった貴族の中には、何の画策があるのか、はたまたアルンティルに買収されているのか、声高(こわだか)に言っている者たちがいる。
「リクドル王国は我が国と隣接している同盟国だ」
「状況によっては、我が国との戦争も辞さぬと言う事か……」
 そう言った声に、冷静になれぬ者たちがざわついていた。

「落ち着かぬか。まだ、憶測の域を出ていない話では無いか」
 国王は、静かに言う。
 さすがに、ざわつきは収まったが……。不穏な空気はそのままだった。

 
 クリスは、やれやれと思う。
 賢者と話した通りだ。
 今、警戒すべきは、デマに踊らされて……もしくは、デマを流し先導し行動しようとしている国内の王族・貴族連中だ。
 現にもう出ている。
 一部の貴族連中から『我が国との戦争も辞さぬということか』という意見が……。



 賢者は言う。
『敵国と見なされた国の姫がどういう扱いを受けるかなんて、火を見るより明らかだろう?』 ……と。
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