第10話 賢者の間にて、これからの事
文字数 1,798文字
「賢者。もう一人の賢者も呼んでもらえないか? 本題に入りたい」
私は、キャロルの腕の中から這い出てそう言った。
「恨みは、もう良いのか」
仕方が無いのだけど、まだ、警戒をしているな。
「自分の愚かさに対する恨みはあるけれどね。先ほど、キャロルが言った通りだよ。きちんと調べもせず、他国の王族を引き入れ歓迎したのは、他ならぬこの私だからね。愚かな王の所為で、随分国民を苦しめてしまった」
苦い思い出をかみ殺して、私はそう言いながら結界を解いた。
そして、賢者の間に降り立つ。
「わたくしの部屋では無かったのね」
「結界ごと移動するのは、得意でね。なにせ国ごと、何千年もの間、移動させているから」
そう言って、キャロルに笑って見せた。
「さて、キャロル。明日会う時は、私は八歳の女の子で、ギルバートの婚約者。そして、あなたの娘だよ」
「そうね。いっぱい抱っこしてあげる」
嬉しそうに言っている。
やっぱり、私はキャロルに窒息死させられる運命なのかもしれない。
「キャロル!」
バタバタと走る音がしたと思えば、クリスが駆け込んできた。
賢者と一緒にいるキャロルを見て、ホッとした表情をしている。
「良かった。無事だった」
そして私を見付け、やっぱり警戒をしている。元は同じだから、仕方ないか。
まぁ良い。訊きたい事があったんだ。
「クリスに訊きたいことがあるんだけど」
「何? メアリー姫」
警戒しまくってるな。
「なんで我が婚約者のギルバートから、君のにおいがプンプンしているのかな?」
「は?」
本当にこれだけが、気になっていた。
キャロルがクリスと浮気した過去が無いにもかかわらず、クリスの子と言っていい程においが染みついている。
なんだか、すごく間の抜けた顔をしているね。クリス。
キャロルは、「そうなの?」って訊き返してくるし。
「あ~。あれは、クラレンスの所為だろう? 婚礼の儀の時に、キャロルがつわりでどうしようも無くて。お腹にギルバートいるのに、ガンガン能力使って体調を整えたから」
婚礼の日につわり……。
「なるほどね。うん、わかった。キャロル、クラレンスの部屋まで送るよ。また明日、かあさま」
「また明日ね。メアリー」
キャロルは、私を軽く抱っこしてきた。
そして離れたのを確認して、クラレンスの部屋まで転移させた。
「さて、本題なのだけど。ピクトリアンの国民を、少しずつハーボルトの方で引き取ってもらえないかな」
「それは、かまわないけど。何百人も一度には受け入れなれないよ。物理的にも、国民の心情的にも無理だろう? お互い」
賢者はまた、当たり前のことを、当たり前に言う。
当然だ、そんな事。純血種に至っては、寿命すら違うから、すぐには不可能だ。
「何も今すぐにという訳では無い。何百年かけてでも良いんだ。ゆっくり結界を縮小して。王族ももう、純血種をつくらない。そしてピクトリアン王国は、結界と共に消える」
そうだ。私はその為に生まれてきた。自国の終焉をとどこおりなく、迎えられるように。
賢者たちの視線を感じ、意識を戻す。
「その代わりという訳では無いが、そちらの制度改革にも協力しよう。ギルバートを夫として、国王として立て、付き従う王妃を立派に努めて見せよう」
演技はいらない気がする。ギルバートは優しい夫、そして立派な国王になれるだろう。
「僕には決定権は無いな。この体の寿命が来たら、ロザリーと一緒に輪廻の輪に戻るから。でも、生きている間は協力するよ」
もうクリスも私を警戒していない。
「ああ。それで自分の能力……賢者の石の欠片を、魂に埋め込んでいるんだ。キャロルにも、賢者が何か埋め込んでいるし。何をやっているんだか、二人して。ストーカー? 魂レベルの」
「大きなお世話って、何でストーカーなんて言葉を知っているんだ」
「ユウキの記憶から」
ユウキの読んでいた書物からも、映像からもその言葉が出てきた。
「良いよ。今の条件で。私は最後まで付き合う。少しずつ、二つの国を融合していこう」
融合。どちらが上でなく、下でなく。共に共存しようと言ってくれるのか。
それは有難い。
話し合いが終わり。クリスも賢者の間を出て行った。
賢者と二人になる。
「賢者。先ほど結界の中で、何にでもしてくれて構わないって言ったよね」
「ああ。私に対してだけなら、かまわないよ。メアリー」
「じゃあ、ねぇ」
私はこの日、賢者とある密約をした。
私は、キャロルの腕の中から這い出てそう言った。
「恨みは、もう良いのか」
仕方が無いのだけど、まだ、警戒をしているな。
「自分の愚かさに対する恨みはあるけれどね。先ほど、キャロルが言った通りだよ。きちんと調べもせず、他国の王族を引き入れ歓迎したのは、他ならぬこの私だからね。愚かな王の所為で、随分国民を苦しめてしまった」
苦い思い出をかみ殺して、私はそう言いながら結界を解いた。
そして、賢者の間に降り立つ。
「わたくしの部屋では無かったのね」
「結界ごと移動するのは、得意でね。なにせ国ごと、何千年もの間、移動させているから」
そう言って、キャロルに笑って見せた。
「さて、キャロル。明日会う時は、私は八歳の女の子で、ギルバートの婚約者。そして、あなたの娘だよ」
「そうね。いっぱい抱っこしてあげる」
嬉しそうに言っている。
やっぱり、私はキャロルに窒息死させられる運命なのかもしれない。
「キャロル!」
バタバタと走る音がしたと思えば、クリスが駆け込んできた。
賢者と一緒にいるキャロルを見て、ホッとした表情をしている。
「良かった。無事だった」
そして私を見付け、やっぱり警戒をしている。元は同じだから、仕方ないか。
まぁ良い。訊きたい事があったんだ。
「クリスに訊きたいことがあるんだけど」
「何? メアリー姫」
警戒しまくってるな。
「なんで我が婚約者のギルバートから、君のにおいがプンプンしているのかな?」
「は?」
本当にこれだけが、気になっていた。
キャロルがクリスと浮気した過去が無いにもかかわらず、クリスの子と言っていい程においが染みついている。
なんだか、すごく間の抜けた顔をしているね。クリス。
キャロルは、「そうなの?」って訊き返してくるし。
「あ~。あれは、クラレンスの所為だろう? 婚礼の儀の時に、キャロルがつわりでどうしようも無くて。お腹にギルバートいるのに、ガンガン能力使って体調を整えたから」
婚礼の日につわり……。
「なるほどね。うん、わかった。キャロル、クラレンスの部屋まで送るよ。また明日、かあさま」
「また明日ね。メアリー」
キャロルは、私を軽く抱っこしてきた。
そして離れたのを確認して、クラレンスの部屋まで転移させた。
「さて、本題なのだけど。ピクトリアンの国民を、少しずつハーボルトの方で引き取ってもらえないかな」
「それは、かまわないけど。何百人も一度には受け入れなれないよ。物理的にも、国民の心情的にも無理だろう? お互い」
賢者はまた、当たり前のことを、当たり前に言う。
当然だ、そんな事。純血種に至っては、寿命すら違うから、すぐには不可能だ。
「何も今すぐにという訳では無い。何百年かけてでも良いんだ。ゆっくり結界を縮小して。王族ももう、純血種をつくらない。そしてピクトリアン王国は、結界と共に消える」
そうだ。私はその為に生まれてきた。自国の終焉をとどこおりなく、迎えられるように。
賢者たちの視線を感じ、意識を戻す。
「その代わりという訳では無いが、そちらの制度改革にも協力しよう。ギルバートを夫として、国王として立て、付き従う王妃を立派に努めて見せよう」
演技はいらない気がする。ギルバートは優しい夫、そして立派な国王になれるだろう。
「僕には決定権は無いな。この体の寿命が来たら、ロザリーと一緒に輪廻の輪に戻るから。でも、生きている間は協力するよ」
もうクリスも私を警戒していない。
「ああ。それで自分の能力……賢者の石の欠片を、魂に埋め込んでいるんだ。キャロルにも、賢者が何か埋め込んでいるし。何をやっているんだか、二人して。ストーカー? 魂レベルの」
「大きなお世話って、何でストーカーなんて言葉を知っているんだ」
「ユウキの記憶から」
ユウキの読んでいた書物からも、映像からもその言葉が出てきた。
「良いよ。今の条件で。私は最後まで付き合う。少しずつ、二つの国を融合していこう」
融合。どちらが上でなく、下でなく。共に共存しようと言ってくれるのか。
それは有難い。
話し合いが終わり。クリスも賢者の間を出て行った。
賢者と二人になる。
「賢者。先ほど結界の中で、何にでもしてくれて構わないって言ったよね」
「ああ。私に対してだけなら、かまわないよ。メアリー」
「じゃあ、ねぇ」
私はこの日、賢者とある密約をした。