第29話 リリーの捜索 負担のバランス

文字数 1,934文字

 クラレンスは、私の手を取った。なんだか、戸惑っているみたい。
 何か言いたそうにしたけど、意を決したように、私を賢者の石がある布の方へ連れて行く。
 そして、二人で布の中に入った。

 キレイ。
 
 賢者の石は、楕円形でクラレンスの背より少し高く、ダイヤモンドのようにカットがされているせいか、色とりどりの光を放っていた。
 多分、宝石とかに興味ない人でもこれはキレイだと思うんじゃないかな。

「キャロル……いや、ユウキ嬢。抱きしめるけど」
 クラレンスが遠慮がちに言ってきた。
 いけない。ここに入った目的を忘れてしまうところだった。
「あっ、はい。どうぞ」
 改めて言われると少し照れる。
 ふわっという感じで、本当に優しく抱きしめられた。なんだか暖かい。
 私は目を閉じてしまったから分からないけど、クラレンスの方は、クリスに合図を送ったみたいだった。

いきなり、賢者の石からぶわっと光が増す。目を閉じていても関係ないくらいの光。
息が出来ない。体がバラバラになりそうなくらいの痛みと衝撃が来た。
時々、クラレンスが私の背中を撫でてくれている。それが無かったら、私は意識が無くなっているところだ。

 それでも、少しずつその感覚が軽減されている。
 その代わりと言うように、私を抱きしめるクラレンスの手に力が入っているようだった。
 思わず、クラレンスの顔を見る。
 目を強く閉じ。歯を食いしばって耐えてる。顔には脂汗が浮かんでいた。

「クラレンス殿下」
 私が名前を呼ぶと、そんな状態なのに目を開き、笑ってくれる。
 その次の瞬間、
「うぐっ」
 と、呻き声をあげ、体をのけぞらせた。すごい衝撃が来たみたい。
 私には全く来なかったから、全部引き受けてくれたんだ。
「クラレンス殿下」
 なんで私にコントロールが出来ないの? このままじゃ、クラレンスが死んじゃう。
 
 焦っていたら私の後ろから、にゅっと手が出てきて、クラレンスに触った。
「全部、引き受けるような真似をするなって言ったろ」
 その瞬間、クラレンスの体から力が抜けた。
「もう少しの間、頑張ってくれるかな? ユウキ」
 そう言いながら、私をクラレンスから引き離している。
「クリス様?」
「これだけは、誰も肩代わりできないから。クラレンス、ユウキを離して」
 クラレンスは、何か不穏なものを感じていたのだろう。クリスが引き離そうとしたのに、私を抱きしめたままでいた。
「しかし……」
「君がいたら賢者(わたし)が入れない。おいで、ユウキ」

 え? 体が勝手に、クリス様の下に行ってる。何? なんで……。
 怖い。
 そう思っても、勝手にクリスの腕の中に体がおさまってしまった。
 その瞬間。バチッと何かが弾けた気がした。体が裂けてしまったかのような。
 声も出せなかった。
 賢者の石からの光が無くなっても、クリスの腕の中でぐったりしていた。

「もうっ、無茶するなぁ。賢者の奴」
 クリスが怒ってる。
「クリス……殿下?」
 雰囲気もだけど、服装も変わっている。第二王子を賢者がこっちに引き寄せたのかもしれない。

「しゃべらないで、キャロル。そうだよ、僕は第二王子の方。賢者は今君の中にいるからね」
 なんだか、体の内側から暖かくなって痛みが和らいでいくような感じがする。
 私を支えたまま、クリスはクラレンスの方を向いて
「ああ。もう良いよ、帰って」
 私の腕をクラレンスの方にかざす。賢者の間から、クラレンスが消えた。

「何をしたんですか? クリス殿下」
「執務室に戻しただけだよ」
 信じらんない。だって、さっきまで私の分まで衝撃と痛みを受けてたんだよ。
 それを、そのまま帰すなんて。
「あのまま、戻したんですか?」
 クリスはうるさいなぁって顔をしている。

「あのさぁ。もともと、あいつのせいだろ? 庇うのなんて当たり前だよね」
 やっぱり、賢者と情報共有している。クラレンスの状態を知ってて帰したんだ。
「そうかもしれないけど……そうだとしても」
 今、リリーが追いかけられているのは私の所為だ。
「いい加減にしてくれないかな。僕だって、賢者からリリー捜索の為に呼び出されたんだ。なんで、あいつの為に僕がただ働きしないといけないんだ」
 最後の方は、もう独り言のようになってるけど。何だか態度が、冷たい。
 クリスは、手をかざし大きな水晶を出す。
「国中探さないといけないかもしれないのに」
 そう言うともう、こちらの方なんか一切見ずに、水晶で探索を始めた。
 そんなクリスの態度に、思わず涙が出そうになるけど、私の内側から『大丈夫だよ』って聞こえる。

 さっき、私の腕を持って能力を使ってた。
 大丈夫、私の中には賢者の能力がある。
 お願い。私の中の賢者様、クラレンス殿下の所へ連れて行って。

 次の瞬間、私は賢者の間から消えていた。
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