第4話 ハーボルトの子どもたち

文字数 1,805文字

 ハーボルト王国に来て私は能力を使っていない。
 敵対するような素振りさえも見せてはいない。
 表向きの私は、実年齢である八歳よりも幼く見える子どもだ。

 少々監視が鬱陶しく思えてきた。

 因縁あるピクトリアンからの姫を警戒する気持ちは、分かるけれど。
 賢者の片割れであるクリスには、能力がある事はすぐにバレたようだし。
 その割には、自分の娘を私に付けるという愚策を(ろう)しているのだけど。
 自分が勉強部屋へ来る口実だろうが、何の恩恵も受けず、何の能力も無い娘。
 クリスが監視していても、彼の実力じゃ娘に何かあっても間に合うまい?

 それより、キャロルとロザリーは賢者たちに面白いものを埋め込まれている。
 彼女たちがどこへ転生しても、分かるように。
 探るまでもなく、一目見てすぐに分かったのだけど、正直なにやってんだかとは思う。
 でも、まぁ。本人たちがそれで良いのなら周りがとやかくいう事では無いのかもしれない。


「メアリー。考えごとかい?」
 私としたことが、ついみんなと居るときにボーっとしてしまっていた。
「あら。いいえ、こんなに楽しく遊べるだなんて思っていなくて」
 
 ここは、私のお部屋。おままごとセットが置いてあった大きな一室。
 キャロルの子どもたちやマリア、そしてギルバートまでみんなに付き合って、おままごとをしている。
 配役は、ギルバートの妹が決めた。

 ギルバートがお父様役で、自分がお母様役。私とメアリーが双子で下に妹がいる設定らしい。
 弟が、飼っている子犬って……。
 お母様役の妹レーナが、木の包丁で木が合わさって出来た野菜を切っている。
 割れ目の所に包丁を入れればザクという感じで、切れる。
 良く出来たおもちゃだ。

「でも、ギルバート様がおままごとに付き合って下さるなんて」
「ギルで良いよ。その内夫婦になるんだ。それにレーナの遊びに付き合うのはいつもの事だし」
 そこで、ギルは言葉を止めたので、不思議に思って顔を見た。
「その。メアリーと仲良くなりたいと思って」
 ギルの顔が少し赤くなった。
「わたくしも仲良くしたいですわ」
 そう、せっかく縁あって夫婦になるのだから、仲良くするに越したことはない。
 
 私は、ギルと……マリアやギルの弟妹達とも、暇さえあれば行動するようになって行った。



 私たちの午後は、男女に分かれてのレッスンがある。
 男の子たちは、主に剣の練習。女の子たちは、刺繍やレース編みをしている。
 ハンカチや飾り襟の贈り物をする時に、手作りしたものを送る事も多いからだ。

 男の子たちの剣の練習は、5歳の弟はともかく、ギルの方はもうすぐ、騎士養成学校の子たちの練習と合流する予定なので真剣そのもののだ。

 私が刺繍の授業を終えて廊下に出た時に、ギルも剣の練習を終えて廊下に入ってきたようだった。
 ギルは、汗だくでチラッと見ると手も痛々しい事になっていた。
「ギル。大丈夫ですか? わたくし、少しなら治癒魔法が使えるので」
 本当はダメなのだけど。
 普通のケガならまだしも、剣の鍛錬で出来た豆が潰れただけだ。
 そうやって、痛い思いをしながら皮膚を厚くし、剣を持つ手は作られる。

 そこまでわかっていて、治癒を提案したのはその魔法に混ぜて、なんでギルからクリスのにおいがプンプンしているのか探ろうと思ったから。
「すごいね、メアリーは。治癒魔法なんて使えるんだ。でも、ごめん。魔法で治療しちゃうと手の皮が強くならないから」
 手だけじゃない、この時期だと体もかなり辛いはずなのにギルは私に笑ってくれている。
 私は、手に持っていた授業で完成させてばかりの刺繍が入ったハンカチで手のひらのケガを覆った。
 少しだけだけど、体が楽になる魔法を使って。

「メアリー。ダメだよ。ハンカチが汚れてしまう」
 刺繍に気が付いたのか、ギルが焦って言っている。
「気にしないで。医務室まで付いて行きましょうか?」
 私のその言葉に、ギルは少し笑いため息交じりに言う。
 十歳の子どもにしては、随分大人っぽい仕草だ。
「私はね、メアリー。君を守る存在でいたいんた。だから、あまり情けない姿を見られたくないんだ。ごめんね」
 じゃあ。と言ってギルは廊下を歩いて行ってしまった。

 もう限界だったのだろう、最後の方は少し情けない表情(かお)になっていた。
 情けなくても良いのに、まだ十歳の子どもなんだから。

 年下の女の子の前では、一人前の男でいたい気持ちは分かるのだけどね。
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