第62話 謁見の間の賢者様
文字数 2,337文字
謁見の間。今回の騒動の関係者たちが集められていた。
前方の一段高いところに、国王陛下が玉座に座っている。
その横にクラレンス王太子殿下。反対側の横にクリス王子殿下とダグラス王子殿下が立っている。
段を降りたところの、賢者の間の廊下に近いところに宰相閣下が立っていた。
謁見の間の中央よりかなり前方にキャロル・アシュフィールドとローレンス・ウィンゲート公爵が並んで跪いている。その後ろにマドリーン・ウィンゲートがやはり同じように跪いていた。
「面 を上げよ」
国王の言葉で、私達は顔を上げる。
「さて、そろそろこの騒動を終わらせたいと思っておるのだが。騒動の責任者は、ローレンス・ウィンゲートとキャロル・アシュフィールドという事で、間違いは無いか?」
国王のその言葉に、宰相が反応する。
「恐れながら申し上げます。賢者様へのキャロル様拝謁の噂は、私が流したものでございます。キャロル様は、まだ成人もされていないお歳。責任は私が」
「良いのです、宰相様。陛下の仰せの通り、その噂はわたくしの責任で流れております」
私は、宰相の言葉をさえぎり、真っすぐ国王を見て言う。
そして、私に続きウィンゲート公爵も賢者死亡の噂は自分の責任で流れていると伝える。
「そうか。それで、噂の真偽はどう証明いたす?」
「私の噂は簡単でございます。賢者の間さえ開けて頂ければ……。ああ、キャロル様も同じでございましょうな」
ウィンゲート公爵が、私の方をチラッと見て言う。
私は……ここに来る前に、私の中にいる賢者のクリスと打ち合わせをしていた。
ここから先は、私ではなく。賢者が私の体を少しの間だけ支配すると。
この世界に来たばかりの時の様に、上から見るのでは無く。奥に引っ込んだ感じで自分の言動を見てる。
「その前に、わたくしたちに何度も毒を盛った者たちを召喚したいですわ」
私 はおもむろに立ち上がった。
その様子に、ウィンゲート公爵は思わず非難の声を上げた。
「不敬ですぞ。許可も無く立ち上がるなど」
ウィンゲート公爵を一瞥して、私 は右手をあげる。
何もない空間から、トルネード伯爵とその子飼いの者たち数名が落ちてきた。
自分たちがいるところを、確認すると、みんなひれ伏してしまっている。
そして、私 の手に資料が出現していた。
「こちらが取調官たちが、取りまとめた資料でございます。ご確認くださいませ」
私 は、国王に向かいそう言った。
宰相が、近くまで資料を取りに来る。そして、私 の前で跪く。
「有難く使わせて頂きます。初代英雄王。賢者様」
宰相がそう言った途端、私の体がふわっと光に包まれ斜めになり倒れていく。
それを、光の中で賢者のクリスが抱き留めてくれた。
長身でスラッと背が高く、幾重にも布が重なったような長くて白い服を着ていた。金色の長い髪をしているその先が、質素で色あせたリボンで結ばれているが。
以前、宰相が一目で賢者様と言った通り、肖像画の初代王にそっくりだった。
「英雄王……か。大量殺戮 をして国を創りし者の代名詞だな」
賢者のクリスがぽつんと言う。
突然の賢者の出現に、国王は玉座を降り、王子たちも近くまで来て跪いた。
私は、自分の意識が浮上するのを感じながら、賢者のクリスの腕の中で、目を開ける。
「大丈夫だったかい? キャロル」
「賢者様」
私は、目の前にクリスがいる事に随分とホッとしていた。
賢者のクリスは、私を抱き寄せたままウィンゲート公爵の方を見た。
「まさか、君が私の死亡説を唱えて逆らってくるとはね。ウィンゲートとは、良い関係を築いていたと思っていたけど、私の勘違いだったようだ」
賢者のクリス……いいえ、賢者の横顔が少し寂しそうに見える。
「良い関係……ですか」
ウィンゲート公爵は、そう言いながらどこか呆然としているようだった。
「もともと何もない時は、賢者の間は開かない。扉が開くのは、国王就任の時と、数か月おきの定期報告。後は戦争が起こるような時のみだ。本来、私があの扉の外に出る時は、この国が戦時中。戦いを指揮する時のみだからね」
そう言って、賢者は目を細めた。何だか怖い感じがする。
私の方には、なるべく暖かい気を送ってくれているのが分かるのに、それでも少し怖い。
「ウィンゲート公爵家の事を、人は色々言っていたようだが、私は嫌いではなかったよ。いつだって、退屈な日々に終止符を打ってくれたからね」
そう言いながら、賢者は私の体制を立て直してくれていた。
「だから、チャンスを上げるよ。王妃はね。今、キャロルがしていたみたいに、私と一体化出来ないとなれない。君の娘にそれが出来たら、君の罪も不問にするし、娘も王妃候補にしてあげるよ」
「わたくしを、王妃候補にしてくださるのですね」
父親が何か言う前に、マドリーンが賢者を見据えて言った。
「そうだよ。覚悟があるならおいで」
賢者は、穏やかな顔でマドリーンを誘 う。
その顔は、まるで悪魔のようで……。
「ダメ。マドリーン様、来ちゃダメです」
思わず叫ぶ。
だって、分かってしまった。
賢者は、マドリーンを現場処刑する気だ。
「賢者様。お願いです。やめてください」
私は、必死に賢者に縋って頼んだ。
そんな私に、賢者は穏やかに笑ってくれる。
「クラレンス。こちらへ来てキャロルを引き取ってくれるかな」
「かしこまりました」
クラレンスは、賢者から私を引き取り、抱きかかえるようにして元の位置に戻った。
「見ていたくなかったら、私の方を向いて目を閉じていたら良い」
賢者と引き離されて呆然としている私に、クラレンスは優しく言ってくれる。
みんな、これから何が起こるか分かっているんだ。
なのに、誰も目をそらさない。
私だけが、何もわかっていなかった。
前方の一段高いところに、国王陛下が玉座に座っている。
その横にクラレンス王太子殿下。反対側の横にクリス王子殿下とダグラス王子殿下が立っている。
段を降りたところの、賢者の間の廊下に近いところに宰相閣下が立っていた。
謁見の間の中央よりかなり前方にキャロル・アシュフィールドとローレンス・ウィンゲート公爵が並んで跪いている。その後ろにマドリーン・ウィンゲートがやはり同じように跪いていた。
「
国王の言葉で、私達は顔を上げる。
「さて、そろそろこの騒動を終わらせたいと思っておるのだが。騒動の責任者は、ローレンス・ウィンゲートとキャロル・アシュフィールドという事で、間違いは無いか?」
国王のその言葉に、宰相が反応する。
「恐れながら申し上げます。賢者様へのキャロル様拝謁の噂は、私が流したものでございます。キャロル様は、まだ成人もされていないお歳。責任は私が」
「良いのです、宰相様。陛下の仰せの通り、その噂はわたくしの責任で流れております」
私は、宰相の言葉をさえぎり、真っすぐ国王を見て言う。
そして、私に続きウィンゲート公爵も賢者死亡の噂は自分の責任で流れていると伝える。
「そうか。それで、噂の真偽はどう証明いたす?」
「私の噂は簡単でございます。賢者の間さえ開けて頂ければ……。ああ、キャロル様も同じでございましょうな」
ウィンゲート公爵が、私の方をチラッと見て言う。
私は……ここに来る前に、私の中にいる賢者のクリスと打ち合わせをしていた。
ここから先は、私ではなく。賢者が私の体を少しの間だけ支配すると。
この世界に来たばかりの時の様に、上から見るのでは無く。奥に引っ込んだ感じで自分の言動を見てる。
「その前に、わたくしたちに何度も毒を盛った者たちを召喚したいですわ」
その様子に、ウィンゲート公爵は思わず非難の声を上げた。
「不敬ですぞ。許可も無く立ち上がるなど」
ウィンゲート公爵を一瞥して、
何もない空間から、トルネード伯爵とその子飼いの者たち数名が落ちてきた。
自分たちがいるところを、確認すると、みんなひれ伏してしまっている。
そして、
「こちらが取調官たちが、取りまとめた資料でございます。ご確認くださいませ」
宰相が、近くまで資料を取りに来る。そして、
「有難く使わせて頂きます。初代英雄王。賢者様」
宰相がそう言った途端、私の体がふわっと光に包まれ斜めになり倒れていく。
それを、光の中で賢者のクリスが抱き留めてくれた。
長身でスラッと背が高く、幾重にも布が重なったような長くて白い服を着ていた。金色の長い髪をしているその先が、質素で色あせたリボンで結ばれているが。
以前、宰相が一目で賢者様と言った通り、肖像画の初代王にそっくりだった。
「英雄王……か。
賢者のクリスがぽつんと言う。
突然の賢者の出現に、国王は玉座を降り、王子たちも近くまで来て跪いた。
私は、自分の意識が浮上するのを感じながら、賢者のクリスの腕の中で、目を開ける。
「大丈夫だったかい? キャロル」
「賢者様」
私は、目の前にクリスがいる事に随分とホッとしていた。
賢者のクリスは、私を抱き寄せたままウィンゲート公爵の方を見た。
「まさか、君が私の死亡説を唱えて逆らってくるとはね。ウィンゲートとは、良い関係を築いていたと思っていたけど、私の勘違いだったようだ」
賢者のクリス……いいえ、賢者の横顔が少し寂しそうに見える。
「良い関係……ですか」
ウィンゲート公爵は、そう言いながらどこか呆然としているようだった。
「もともと何もない時は、賢者の間は開かない。扉が開くのは、国王就任の時と、数か月おきの定期報告。後は戦争が起こるような時のみだ。本来、私があの扉の外に出る時は、この国が戦時中。戦いを指揮する時のみだからね」
そう言って、賢者は目を細めた。何だか怖い感じがする。
私の方には、なるべく暖かい気を送ってくれているのが分かるのに、それでも少し怖い。
「ウィンゲート公爵家の事を、人は色々言っていたようだが、私は嫌いではなかったよ。いつだって、退屈な日々に終止符を打ってくれたからね」
そう言いながら、賢者は私の体制を立て直してくれていた。
「だから、チャンスを上げるよ。王妃はね。今、キャロルがしていたみたいに、私と一体化出来ないとなれない。君の娘にそれが出来たら、君の罪も不問にするし、娘も王妃候補にしてあげるよ」
「わたくしを、王妃候補にしてくださるのですね」
父親が何か言う前に、マドリーンが賢者を見据えて言った。
「そうだよ。覚悟があるならおいで」
賢者は、穏やかな顔でマドリーンを
その顔は、まるで悪魔のようで……。
「ダメ。マドリーン様、来ちゃダメです」
思わず叫ぶ。
だって、分かってしまった。
賢者は、マドリーンを現場処刑する気だ。
「賢者様。お願いです。やめてください」
私は、必死に賢者に縋って頼んだ。
そんな私に、賢者は穏やかに笑ってくれる。
「クラレンス。こちらへ来てキャロルを引き取ってくれるかな」
「かしこまりました」
クラレンスは、賢者から私を引き取り、抱きかかえるようにして元の位置に戻った。
「見ていたくなかったら、私の方を向いて目を閉じていたら良い」
賢者と引き離されて呆然としている私に、クラレンスは優しく言ってくれる。
みんな、これから何が起こるか分かっているんだ。
なのに、誰も目をそらさない。
私だけが、何もわかっていなかった。