第8話 メアリーの結界に自ら飛び込んできた賢者

文字数 1,247文字

「キャロル」
 結界が一瞬揺らぎ、そこに賢者が現れた。
 キャロルを抱き込み、私から距離を取っている。
 自動修復機能が働いて、結界はすぐさま閉じた。
 腕の中にいるキャロルは、何が起こったのか分からないって顔をしてるね。

「随分と遅かったじゃないか」
 笑顔を作って歓迎したのに、賢者からはにらまれてしまう。
 さすがだね。この結界の中でも、君の考えは読めない。
 まぁ、仮に読めたとしても作られたものなのだろうけど……。

「キャロルは、この国の王太子妃だ。返してもらう」
「どうぞ? この空間から出られるものならね」
 この結界に入り込むのにかなり無茶をしたのだろう。
 細かい傷を負っている。衣服もほころびが見える。

「賢者様?」
 ようやく、キャロルが事態を把握したようだった。
「ああ。キャロル、大丈夫だからね。心配しなくても、ちゃんとクラレンスのところに帰してあげる」
 賢者が子どもに言うように、どこか甘い声でキャロルに言っている。
 キャロルを安心させようと思って言ってるのは分かるけど。
 肝心のキャロルは、賢者の事をずるいって、もう二度と会わないって言ったのにって、思っているよ。
 当時はかなり精神的に辛かったのだろうね、キャロル。
 まぁ、賢者はキャロルの心を読む余裕もないようだけど……。

 君にピクトリアンの結界は破れないからね。
 あの当時の君ですら、私より弱かったじゃないか。
 賢者の石に能力を分散させてしまった分、当時よりもはるかに弱くなっているからね。

『メアリー。私だけで良いだろう? キャロルは関係ない。夫と子どものところに戻してやってくれ』
 おっと、この空間で念話を使うか。
 へぇ~、面白いね。
 そう思って、キャロルを抱き込み、私から隠そうとしている賢者を見た。

「キャロル、選んでくれないかな。賢者とあなた、どちらか一人この結界から帰してあげようと思うのだけど、どちらが良い?」
 私は、賢者では無く、キャロルの方に訊いた。
「メアリー!」
 賢者はすかさず非難の声を上げ、キャロルを抱きしめなおす。
 この分じゃキャロルの返事以前に、賢者だけを結界の外に出すのは大変かもしれない。

「この場合、残った方はどうなるの?」 
 何だか、キャロルがのん気に訊いてきた。だから、それに合わせて答える。
「そうだねぇ。この際だから、長年の恨みでも晴らそうかな? 少しずついたぶって、魂ごと八つ裂きになってもらうかな。一瞬で殺すなんて、もったいないよね」
「なるほどねぇ~」
 キャロルは怖がるでも無く。本当に、のほほんと返して来た。

 別に脅しじゃ無いのだけどね。
 実際に過去、ピクトリアンの国民が傷つけられた時に、行っている報復だ。
 傷付けたり、ましてや殺してしまったりした時の、報復には、一切の慈悲は無い。
 先程、私が言ったとおり、なぶり殺しだ。
 しかも、魂まで、もう二度と転生出来ないよう、引き裂いて……。

 1人殺しても、そういう報復が待っている。

 賢者……あの時の王子は、どのくらいの罪無き民を殺してしまっただろうね。
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