第2話 エマとの出会い

文字数 1,561文字

 下町は、水晶で見たとおり結構活気があるようだ。
 石畳で道は舗装されており、砂埃もあまりたたない。
 借りた家を出て、しばらく行くとちょっとした広場が有り、露天が並んでいる。
 雑貨や食べ物の店も並んでいた。
 奥には、食堂や、ちゃんとした小物等のお店もある。
 治安も悪くないようだ。女性の一人歩きや、子ども達だけでも、平気で歩いている。
 役人がちゃんと仕事をしている証拠だ。

 少しお腹がすいた。そろそろ、お昼時か。
 屋台から良いにおいがしている。
 私はそちらに行って、かたまり肉が5個くらいついた串を注文した。
 塩がふってあって、おいしそうに焼かれている。
 ごっつい体格だが、人の良さそうな店主に金貨を渡した。

「おいおい。兄ちゃん。どこのボンボンだ。こんな金額、おつりでねぇよ。それともどっかで盗んできたのか?」
「盗んでなど……」
(これは使えなかったのか? 釣りなどいらぬから、大人しく受け取ってくれないかな。役人にでも捕まったらやっかいだ)

「おっちゃん。代金これでいい? その金貨返して」
 賢者の後ろから、小さな手が出てくる。代金を店の店主に渡していた。
「おう。エマの知り合いかい?」
「そうそう。あんちゃん、ここに来たばかりでね。この辺のことよく知らないのよ」
「それならそうと言いな。ほれ、兄ちゃん」
 気のよさそうな笑顔で店主が、先程渡した金貨と串を渡してくれた。

「すまない」
 エマと呼ばれる少女と、露店の店主に謝る。
「ほら。行こう」
 小さな手で、賢者の手を握って、どこかに連れて行こうとする。
 一瞬、どこに連れて行かれるのかと考えたが、助けてくれた女の子だ。されるがまま、付いていく。

 目の前のエマと呼ばれる少女は、少し縮れた赤褐色の髪をリボンで一つに結んでいる。小柄な少女だ。
 振り返った顔を見ると、さして美人というわけでは無いけど、年相応の可愛らしさはある。普通の少女だと思った。

 エマは、先程の所からそんなに離れていない、丸太のような椅子の所まで連れて行ってくれた。
「座って食べなよ」
 エマは、丸太に座るよう勧めてくれる。
「あ…ああ。ありがとう。先ほどは助かった」
「いいって……冷めないうちに食べたら?」
 賢者だけ座らせて、エマは建物の壁に寄りかかって立っている。
 とりあえず、手に持っている串を食べた。
 一度食べてみたいと思っていたそれは、シンプルな味付けだが、想像以上においしかった。

「あんちゃん。名前は?」
 何気なく、エマは名前を訊いてくる。
「クリスという」
 確か庶民は、ファミリーネームが無かったハズだ。
 先程、思いついた名前を言った。
「クリスね。私、エマって言うんだ。この通りの先の大衆食堂の娘だよ」
「エマ、良い名だ」
「えへへ。そう……、かな」
 クリスが社交辞令で言った言葉に、本気で照れてる。

「エマ、これを」
 クリスがエマの手のひらに、先程の金貨を乗せた。串の代金と助けてくれたお礼をかねて。
 そうしたら、エマから全力で拒否された。思いっきり、突っ返してくる。
「いらないって。さっきの串、銅貨3枚くらいだし」
(やはり、金貨がお礼というのは失礼だったか)
 クリスはそう思い直して訪ねる。

「それでは、これが使えるところを教えて貰っていいだろうか。エマ」
 エマは、少し考えてクリスに言う。
「う~ん。もう少し王宮よりだね。こっからでも見えると思うけど、あの大きなお店とかでは使えるんじゃないかな」
 エマは、少し遠くに見える、レンガ造りの大きな建物を指さしていった。
「連れて行ってもらっても?」
 クリスが、そう言った瞬間、エマはすごく嫌そうな顔をした。
「う~ん。かまわないけどさぁ~」
 なぜか行くのを渋るエマ。
 でも、一度拾ったクリスのことを放ってもおけないと、思ったのか、連れて行ってくれることにしたようだった。
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