第14話 ロザリーとキャロルの幸せ

文字数 2,104文字

 穏やかに晴れた良き日に、クラレンス様とキャロル様の婚礼の儀が執り行われた。
 王太子殿下の婚礼らしく、各国の王族や貴族の方々が参列する華やかな舞台。
 国を挙げての一大イベントになっている。

 成婚パレードなんかもあって、あちらこちらから『おめでとう』と言う声が聞こえる。
 私も婚礼の儀では、キャロル様と同じ衣装を着てブライズメイドを務めた。
 ベールを持つエイミー様とベティ様も、可愛らしかったわ。
 っと、エイミー様と私は同じ歳だった。

 今は、衣装を着替えて、花嫁のお世話をしている。
 もうそろそろ、晩餐会場に入る準備をして頂かなきゃ。
 
 そう思って、私はキャロル様の控室に入って行ったの。
 え? 何これ?
 いえ、気分がずっと優れないのは知っていたけど。

「クリス。もう一回魔法をかけて……。吐きそう」
 キャロル様が、晩餐会用のドレスを着て真っ青な顔をしている。
「キャロル様。吐いてはいけません。ドレスが」
 世話役の侍女たちが、慌てて濡れタオルや吐くための容器を持ってきている。
 つわりってこんな風になるんだ……。

「これ……大丈夫なの? 僕の魔法って、賢者の石の能力なんだけど。おなかの赤ちゃんに影響ない?」
 珍しいわ。クリス様が、オロオロしている。処刑されるかどうかわからない時ですら、冷静だったのに。
 朝から何度も見ている、クリス様がキャロル様のお腹の上で手をかざしている姿。

 よく見たらクラレンス様もいるわ。
 ご自分の控室から出てきてらしているのね。なんだかこちらも、情けない顔をしてるけど。

 その内に、クリス様がクラレンス様を、キッと(にら)んで怒鳴る。
「この節操無し。何やってんだよ。婚礼の儀まで、我慢出来なかったのか」
「返す言葉も無い……が」
 魔法をかけてもまだ具合の悪そうなキャロル様の方を見ながらクラレンス様は言っているけど。

 クリス様が、私に気付いたわ。
 キャロル様を連れて行って良いか訊かなきゃ。
「あの」
「ロザリー。僕はちゃんと待つからね。こんな無様な婚礼の儀はごめんだ」
 クリス様? 何をわかんない事を……。
 キャロル様の方を見ると、今にも吐きそう。これじゃ、会場に連れて行けない。
「よく分からないですけど。クリス様。ちゃんとキャロル様に魔法をかけてください」
 偉そうな物言いになってしまったけど。今はそれどころじゃない。

「はい」
 クリス様は、意外にも素直に返事をしてキャロル様に魔法をかけだした。
 さっきまでとは違う。キャロル様の体を覆うような光が出ている。
「もう。魔法使いが生まれても知らない」
 なんて、ブツブツ言っているわ。

 クラレンス様とキャロル様の婚礼の儀及び披露の晩餐会それに続く夜会は、こんな感じで終わったのだけど。
 次は、ダグラス様とシルヴィア様。そして、クリス様と私の婚礼の儀が待っている。
 王太子殿下の婚礼みたいな派手さは無いだろうけど、しばらくはお祝い続きなのだわ。

 こんな平和が長く続くと良いのだけど。


 キャロル様たちの婚礼の夜会まで終わって、私達は部屋に戻っていた。
 クリス様の言った通り、慌ただしくとんでもない婚礼の儀だったけど、これも時が経てば良い思い出になると思う。
 お互い正装から、寝間着に着替えて人心地着いた時にはもう真夜中になっていた。
 いつもだったら、クリス様から「子どもがこんな時間まで起きて」と、小言を言われる時間。
 今日は大目に見てくれるみたい。だってお祝い事の後だもの。
 
 私とクリス様はソファーに並んで座り、それぞれ、ホットミルクと紅茶を入れてもらって飲んでいた。
 来たばかりの時は、こんな風に過ごす時間なんて、想像もつかなかったわ。
 もうあれから半年も経つのね。
 最初は緊張でどうにかなりそうだったのに、今ではクリス様の横が一番安心できる。

 私の横で、クリス様がカップをテーブルに置き、こちらに体をずらしたのが分かった。
 だから、私も同じようにマグカップを置いて、クリス様の方に向いた。

「クリス様?」
 どうしたのだろう。クリス様が少し緊張しているみたい。
「ねぇ、ロザリー。牢屋では、君の運命に付き合うって言ったけど、僕の運命にも付き合ってくれるかな」
「良いですよ」
 私は即答した。運命の内容も聞かないで。
 クリス様が目の前で驚いている。
「良いの? そんなに軽く約束をして」
「だって、クリス様は、私が処刑されるような運命にも付き合ってくれるって言ったんですよ」
 だから、たとえクリス様がいう運命が、破滅に向かっていても私は付いて行くわ。

「そうだったね」
 クリス様は穏やかな表情に戻った。
「そういえば、そうだった。先に僕が約束をしたんだったね。だけど、心配しないで破滅に向かう訳じゃないから」
 クリス様って、そういえば私の心を読めるんだっけ。

「それじゃあ。僕の願いなのだけど……」
 クリス様は、人払いした部屋の中なのに私の耳元で、密やかに願い事を言った。

 私は、その願いを聞いてすごく嬉しくなって笑った。
 今、この瞬間の私より幸せな人間なんていないんじゃないかな? なんて思って。

                               おしまい
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