第6話 結果報告と疑われたキャロル

文字数 1,929文字

 私が泣き止んで、しばらくしたらキャロルの父親……今は私の父……で良いのかな? のアシュフィールド公爵と王妃様のご実家のご当主ムーアクロフト宰相が、こちらにやって来た。
 うん。今度はちゃんとキャロルの知識が入って来ている。意識すると頭に浮かんでくる感じ。

 宰相はいかにも文官って感じで、落ち着いた雰囲気がする。
 銀髪なので父と並んだら白黒って感じで面白い。
 
 二人を見ると、クラレンスが立ち上がった。
 クラレンスとダグラスに向かって、二人が礼を執る。
 そして宰相がおもむろに口を開いた。

「結論から申し上げます。クラレンス王太子殿下」
「ああ」
昨日(さくじつ)、宣言成された婚約破棄は無効です。当然ですが王族の婚姻は、国益に沿ったものでないとなりません。個人の感情で破棄など、出来ようはずもございません」
 クラレンスは、下を向いて拳を握りしめてる。
「今回は、アシュフィールド公爵も、殿下のお心に従うとの事でしたが。キャロル様。貴女もこの婚約の継続を望まれていないのでしょうか」
「……はい」
 クラレンスとダグラスが、驚いた顔をしている。

「よろしければ理由をお伺いしても?」
 宰相は優しい口調で私に訊いてくる。昨夜の事を父から聞いてないのかな?
 思わず父の方を見ると
「キャロルが思っていることをそのままお伝えしてかまわないよ」
 そう優しく言ってくる。

 良いのかな? 政略結婚が当たり前の人達には理解してもらえないと思うけど。
 そう思うと自然にうつむいてしまった。
「わたくしに……何の愛情も無く。悪意を向けてくる人の側にいるのは、怖くて辛いです」
 下を向いてるからか、自分の手が震えているのが見える。

 少し間が空いた後
「そうですか」
 という、宰相の声が聞こえた。私の言葉を肯定も否定もしてない感じだ。
 
「それではクラレンス王太子殿下。結論は出ましたのでこれで……」
 呆然としてるように見えるクラレンスに向かってそう告げた。
「ただ、キャロル様もこの縁談を望まれていないという事は陛下の耳にも入っております。その事をお忘れなきように。殿下には、立場に合った言動をするようにとの、陛下の意向にございます」
 そう言って、クラレンスに書類を渡していた。

「こちらが今回の話し合いの顛末です。目を通されておいてください」
 クラレンスに冷たく言い渡す。身分を考えなければ、宰相はクラレンスの身内。伯父の立場だ。勝手な事をしたクラレンスに怒りを感じてるのかもしれない。

「キャロル様。こちらにご同行願えますか?」
「はい」
 殿下たちを残して、私は宰相と父に連れられ、王宮の奥に入っていった。
 やがて、小さな部屋にたどり着く。

 部屋に着くと座るよう促された。
「さて、キャロル様。この国、ハーボルト王国の歴史の概要を言えますか?」
 歴史……歴史ね。
「はい」
「それでは、外国の……そうですね。隣国のリクドル王国の言葉で……」
 私は言われた通り、リクドルの言葉でこの国の歴史書に載っていることを伝えた。

 それから色々なしきたりや、マナー。部屋を移動して、ピアノを弾かされたり、ダンスをさせられたり。主だった貴族の方々の経歴や好みを言わされたり……って、すごいわキャロル。完ぺきに出来ている。もうこれはチートスキルと言って良いのでは?

「別人ではないようですね。キャロル様」
 宰相がホッとしたという感じで言ってきた。

 あっ、やっぱり別人じゃないかと疑われてたんだ。別人だけど。

「歴代の王妃様は、賢者様に選ばれたご令嬢が、幼い時より教育を受けてなるものなのです。それをあのような……」
 宰相は怒りが収まらないと言った感じで、体をわなわなと震わせている。
「キャロル。すまんな。一応、陛下には婚約の破棄を進言したのだが、難しくてな」
 父は本当にすまなそうにしてくれている。

 だけど、賢者様って……、昨日ダグラスも同じような事言っていた気がするけど。
 会う事が出来たら、何か分かるのかな。

「あのっ。宰相様。その賢者様と会う事はできますか?」
「いえ。賢者様は……」
 宰相は、何か言いかけて思いなおしたように、言いなおす。
「大丈夫だと思います。日程の調整をして、後ほどご連絡いたしましょう」
 にこやかにそう言ってくれた。
「ありがとうございます」
 
 賢者が何者かは、分からないけど。かなり権限があるみたいだから、会えば何か分かるかもしれない。
 ゲームの世界から、戻る方法も分かれば良いな。

 そう思って、私はお屋敷に戻る馬車に乗った。



 数日後、賢者様に会う段取りがついたと宰相から連絡があった。
 賢者の間の入室は、案内役の宰相と私しか認められなかったのだと聞いた。

 結局、王宮には私一人で行くことになった。って、心細いんだけど。
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