第53話 キャロルとウィンゲート公爵
文字数 1,908文字
「クリス殿下。あの……」
意地悪とかそういう問題ではない。クリスは、このままの私ではクラレンスの身が危ないと言ってるんだ。
「うん。返事はいいや。君の答えを訊きたいわけじゃないからね。ああ曲が終わる、戻ろうか」
そうクリスが言って、私達は曲の終わりと同時に礼を執り、クラレンスたちの方に戻って行った。
「ただいま。さぁ、あっちの立食コーナーに行こうか」
クリスは、令嬢たちを引き連れて行ってしまった。
その後ろ姿を見送ってから、クラレンスは疲れたように言った。
「クリスも、よくあんなの引き連れているよな」
「そうね」
私も同意した。だけど、これ以上の事は、夜会の場では言えない。
クリスが、自分の派閥の令嬢 たちを、よからぬ連中から保護しているなんて……。
そんな会話をしていると、スッと誰かが近づいてきた。
「これはこれは、王太子殿下とキャロル様ではないですか」
私のすぐ前にローレンス・ウィンゲート公爵が来ていた。
現国王の寵愛厚い側室の子ダグラスの伯父だけあって、少しダグラスに似ている。
茶色の髪に、少しだけ白髪が混じっているロマンスグレーのおじ様という感じかな。
「王太子殿下には、ご機嫌うるわしゅ存じ上げます」
「うるわしいように見えるか?」
クラレンスは不機嫌を隠していない。
「まぁ、そうでしょうな。だが、私などは羨ましくてなりませんぞ。若い女性に囲まれるなど、この歳になれば中々無いですからな」
そう笑いながら言っている。
「ウィンゲート。よく証拠を集め、犯人を捕まえてくれたな。感謝する」
クラレンスは、改まって礼を言っている。
「もったいないお言葉。痛み入ります。臣下として当然の務めでございます」
ウィンゲート公爵の方も、表情を改め、礼を執っていた。
「わたくしからも、お礼申し上げますわ」
当事者だもんね、私。
「キャロル様には、お元気になられたようで何よりです。本当に犯人には腹が立ちますなぁ、女性のお腹を殴るなど」
本当に憤慨しているように見える。こうしてみたら、気の良いおじさんの様な感じがするのに、クリスの警戒ぶりが無かったら、疑いもしなかった。
「もう犯人も捕まった事ですし、いつまでも引きずっていても仕方のない事ですわ」
私は、力なく笑って見せた。
「それで? 何か用なのか?」
「いやですなぁ。挨拶に伺っただけです。噂の真相も知りたい事ですし」
「噂? どれだろう」
今、王太子関連の噂ってすごく多くて、もうカオス状態なんだよね。
クラレンスが、う~んって悩むのも分かる。
この前の、腹パンされた事件で、私の懐妊説が消えたくらいだもの。
「王太子殿下の私室で、クリス殿下がキャロル様と逢引きをしているという噂ですよ。実際に足蹴く通われていたそうですな」
「単なる噂だな。確かにクリスには薬を調達してもらっていたから、頻繁に来ていたが。キャロルと二人であったという事実は無い。人払いもしていないからな」
まぁね。聞かれて悪い会話をするときはクリスが結界張るから、必要ないもんね。
「そうでしょうな。それともう一つ。あの事件の黒幕は、両殿下のどちらかの指示では無いかと。無論、側室の子のダグラス殿下も疑われているのですがな」
そうなんだよね。今の噂のメインはさっきのクリスとの逢引きと事件の黒幕。
他はねぇ。無責任に言っている分には面白い噂ばかり。
クラレンスとクリスのBL疑惑に至っては、つい妄想してしまってクリスから白い目で見られたもの。
「クラレンス殿下」
私は少し甘えるように、クラレンスを見上げた。
「わたくしに、赤ちゃんが出来たら困りますか?」
「いや。むしろ喜ばしい事だよ。婚礼前だけど、前例が無いわけではないからね」
クラレンスは、優しい顔で私を見て言ってくれる。
「ウィンゲート公爵様。クラレンス殿下にわたくしを襲う理由などございませんわ。そもそも、自分の子どもでしょう? 欲しく無ければ、わたくしとそういう事をしなければ良い話ですもの」
私は、ウィンゲート公爵を見据えて笑顔でハッキリ言ったのだけど。
なぜだか、クラレンスまで焦っていた。少し、顔が赤い。
「まぁ。それは、そうでしょうな。その通りですな」
ウィンゲート公爵も、咳ばらいをしながら、そう言った。
何だっていうのよ。二人して……。
「クリス殿下とダグラス殿下のお考えは、分かりませんわ。でも、ウィンゲート公爵もでしょう? 疑わしいのは。だって、あれだけ捜査したのに何も見付からなかったものを、あっさり見つけてしまうのですもの」
そう言ったところで、クラレンスから不意に肩を抱かれる。
顔を見上げたら、『それ以上はやめなさい』と 無言で言っていた。
意地悪とかそういう問題ではない。クリスは、このままの私ではクラレンスの身が危ないと言ってるんだ。
「うん。返事はいいや。君の答えを訊きたいわけじゃないからね。ああ曲が終わる、戻ろうか」
そうクリスが言って、私達は曲の終わりと同時に礼を執り、クラレンスたちの方に戻って行った。
「ただいま。さぁ、あっちの立食コーナーに行こうか」
クリスは、令嬢たちを引き連れて行ってしまった。
その後ろ姿を見送ってから、クラレンスは疲れたように言った。
「クリスも、よくあんなの引き連れているよな」
「そうね」
私も同意した。だけど、これ以上の事は、夜会の場では言えない。
クリスが、自分の派閥の
そんな会話をしていると、スッと誰かが近づいてきた。
「これはこれは、王太子殿下とキャロル様ではないですか」
私のすぐ前にローレンス・ウィンゲート公爵が来ていた。
現国王の寵愛厚い側室の子ダグラスの伯父だけあって、少しダグラスに似ている。
茶色の髪に、少しだけ白髪が混じっているロマンスグレーのおじ様という感じかな。
「王太子殿下には、ご機嫌うるわしゅ存じ上げます」
「うるわしいように見えるか?」
クラレンスは不機嫌を隠していない。
「まぁ、そうでしょうな。だが、私などは羨ましくてなりませんぞ。若い女性に囲まれるなど、この歳になれば中々無いですからな」
そう笑いながら言っている。
「ウィンゲート。よく証拠を集め、犯人を捕まえてくれたな。感謝する」
クラレンスは、改まって礼を言っている。
「もったいないお言葉。痛み入ります。臣下として当然の務めでございます」
ウィンゲート公爵の方も、表情を改め、礼を執っていた。
「わたくしからも、お礼申し上げますわ」
当事者だもんね、私。
「キャロル様には、お元気になられたようで何よりです。本当に犯人には腹が立ちますなぁ、女性のお腹を殴るなど」
本当に憤慨しているように見える。こうしてみたら、気の良いおじさんの様な感じがするのに、クリスの警戒ぶりが無かったら、疑いもしなかった。
「もう犯人も捕まった事ですし、いつまでも引きずっていても仕方のない事ですわ」
私は、力なく笑って見せた。
「それで? 何か用なのか?」
「いやですなぁ。挨拶に伺っただけです。噂の真相も知りたい事ですし」
「噂? どれだろう」
今、王太子関連の噂ってすごく多くて、もうカオス状態なんだよね。
クラレンスが、う~んって悩むのも分かる。
この前の、腹パンされた事件で、私の懐妊説が消えたくらいだもの。
「王太子殿下の私室で、クリス殿下がキャロル様と逢引きをしているという噂ですよ。実際に足蹴く通われていたそうですな」
「単なる噂だな。確かにクリスには薬を調達してもらっていたから、頻繁に来ていたが。キャロルと二人であったという事実は無い。人払いもしていないからな」
まぁね。聞かれて悪い会話をするときはクリスが結界張るから、必要ないもんね。
「そうでしょうな。それともう一つ。あの事件の黒幕は、両殿下のどちらかの指示では無いかと。無論、側室の子のダグラス殿下も疑われているのですがな」
そうなんだよね。今の噂のメインはさっきのクリスとの逢引きと事件の黒幕。
他はねぇ。無責任に言っている分には面白い噂ばかり。
クラレンスとクリスのBL疑惑に至っては、つい妄想してしまってクリスから白い目で見られたもの。
「クラレンス殿下」
私は少し甘えるように、クラレンスを見上げた。
「わたくしに、赤ちゃんが出来たら困りますか?」
「いや。むしろ喜ばしい事だよ。婚礼前だけど、前例が無いわけではないからね」
クラレンスは、優しい顔で私を見て言ってくれる。
「ウィンゲート公爵様。クラレンス殿下にわたくしを襲う理由などございませんわ。そもそも、自分の子どもでしょう? 欲しく無ければ、わたくしとそういう事をしなければ良い話ですもの」
私は、ウィンゲート公爵を見据えて笑顔でハッキリ言ったのだけど。
なぜだか、クラレンスまで焦っていた。少し、顔が赤い。
「まぁ。それは、そうでしょうな。その通りですな」
ウィンゲート公爵も、咳ばらいをしながら、そう言った。
何だっていうのよ。二人して……。
「クリス殿下とダグラス殿下のお考えは、分かりませんわ。でも、ウィンゲート公爵もでしょう? 疑わしいのは。だって、あれだけ捜査したのに何も見付からなかったものを、あっさり見つけてしまうのですもの」
そう言ったところで、クラレンスから不意に肩を抱かれる。
顔を見上げたら、『それ以上はやめなさい』と 無言で言っていた。