第47話 ケガをしたキャロル

文字数 1,803文字

 クリスが結界を張っているのが分かる。
 周りに人が増えても、皆無反応だった。
 私はもう抵抗するのをやめた。涙は止まらないけど。
 体に力が入らないし、クリスの能力が体に(まと)わりついているのがわかる。
 多分、もう何をしても逃れられない。
 私は覚悟を決めて目を閉じていた。


「クラレンス、入るよ」
 侍女が開けるのを待たずに、クリスは扉を開け放ったが、その先はもう結界を解いてしまっていた。
 へ? クラレンス?
「クリス? キャロルをどうした」
 クラレンスは、私がお姫様抱っこされて、泣いているのを見てギョッとしたようだった。
「どうもこうも、なんでこの危ない状況下で、キャロルから目を離すんだ。ちょっと寝室に行くよ。人払いしてくれ」
「あ? ああ」
 クラレンスは、人払いを指示してから、私達と一緒に寝室に入った。

 私はベッドに降ろされながら、ホッとしていた。
 お部屋ってクラレンスの所だったんだ。良かった。

 降ろされた瞬間。ドレスがゆったりとした寝間着に変わる。

「裸にするわけにはいかないからね。キャロル、ちょっと寝間着をめくるよ」
 そう言って、クリスはクラレンスにめくるように促す。
「ほら、お腹のところをめくって。君がいるのに僕がするわけにはいかないだろう?」
 クリスにそう言われて、ああという感じで、私に言う。
「ごめんね。恥ずかしいだろうけど」
 そういって、寝間着をめくった。
 
 私も一生懸命、首を下に向けてお腹を見る。
 下腹の中央くらいが赤黒く腫れあがっていた。なんか……ぐろい。
「なっ。誰がこんな事を」
 クラレンスが、怒りをあらわにしている。
「あのさぁ。噂流れているの知っているだろう? 妊娠してるかもって。事実無根だったから、良かったようなものの、本当に妊娠していたら流産するだけじゃすまないよ」
 クリスがシレッと言ってるけど、要は、お腹の赤ちゃんを殺すためにお腹を殴ったって事?
 そんな事する人がいるなんて……。

「キャロル。もうすぐ医者が来ると思うけど。来たら痛みを戻すからね」
「治療の為ですね。分かりました」
 あの痛みは辛いけど、仕方ない。だって、今でも血の気が引いていってる気がする。手の力も入りづらい。
「いや。医者の証言も必要だから。そのあと、僕が治療するから大丈夫だよ。しばらくは、見た目だけ残すけど」
 あれ?
「クリス……第二王子殿下。の方ですよね?」
「何? その疑問形。王子の方だけど、それが何」
「だって、優しい」
 そう言うと、心底嫌そうな顔をした。そして、クリスはため息を吐く。
「君の事がね。愛しい事には、変わりないんだよ。賢者と同じで。だからね、君を傷つけた奴の事は許さないから」
 クリスは、にこやかにしてるけど、目が笑ってない。

「ああ。クラレンス。キャロルをこんな目に遭わせた犯人は、捕まえたよ。今、地下の牢屋に入っているはずだ」
「分かった。明日にでも取調官を派遣しよう。……だが、自害してしまわないかな」
 クラレンスが、考え込んでる。
 貴族に忠誠を誓って今日みたいな事をする人達は、毒を歯に仕込んでるんだって。
 
「大丈夫だろ? 毒はすり替えたし」
 クリスがこともなげに言う。
「すり替えた?」
 クラレンスが驚いて訊き返していた。
「きっと、驚くと思うよ。死のうと思って、ガリってやったら、口いっぱいに広がる甘味って」
 なんだか、いたずらっ子みたいにクリスが笑っていた。


 なんだかなぁって思うけど……。クリスが笑っているのなら、安心かな?
 その内に、お医者さんが来て、゙侍医とか言うはずだけど、私に合わせてくれてるのかな。
 その、お医者さんが調書を作るために状態を確認して、おしまい。
 
 お医者さんが帰った後、クリスが長い間私のお腹に手を当てていた。
 最初に痛みを取ってくれて、後は何か真剣な顔をして探っている感じだった。
 ある時を境に、スッと体から緊張状態が抜けた気がした。
 
「キャロル。これで体は大丈夫のハズだけど、まだかなりだるいだろ?」
「うん。体が重い感じがする」
 この前、リリーを国外脱出させた時よりは、かなり楽だけど。

 クリスが頭を撫でてくれる。
 なんだか、賢者の方のクリスみたい。優しい。
「体力回復だけは、キャロルの仕事だからね。ここで、ゆっくりさせてもらったら良い」
 
 そうして、クリスが私の顔の上に手をかざすのが見えた。
 それが、今日の最後の記憶。
 私は、クリスに眠らされていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み