おまけ クリス殿下とロザリー姫の転生前
文字数 2,048文字
本当に今世では色々な事があったわ。
私がハーボルト王国に嫁いできた時には、まだアルンティル王国は国土を広げる為、近隣諸国と戦争をしていた。
私は、この国で死んで戦争の切っ掛けを作る為に、十歳という幼さで嫁がされたのだったわ。
その後、十年くらい経つと父王が亡くなって王太子になっていたフレデリックが王位を継いだの。そして、彼……私の弟フレデリックは、戦争の後始末に奔走していた。
更に十年近く経ってから、可愛らしい王妃を迎えていたけど、ピクトリアンの血を引く姫君だと聞いているから、もう成人していたのかしらね。
私の人生はハーボルト王国に来てから始まったようなもの。
夫のクリスと出会って、キャロルとシルヴィアという親友を得て……。
婦人会でも、随分お友達が出来たわ。
王宮とその政敵を演じるウィンゲート公爵との橋渡し役をするというクリスの、少しでも私は役に立てていたのかしら。
クリスが寿命で亡くなる時に
『僕が待っていると思ったら、死ぬのも怖くないだろう?』
なんて、私が処刑されるかもしれない時のセリフと同じことを言っていた。
私は泣いてしまっていて、返事も出来ないのに、こんな時に限って心を読んでくれない。
ううん。読んでいたから言ったのかもしれないけど。
『だがらなるべくゆっくり、残りの人生を楽しんでおいで』って。
ひどいわよね。私は一緒に連れて行ってって願ったのに。
「誰がひどいって?」
私のすぐ後ろにクリスの気配がした。
もう随分と、感じなかったのに……。
「遅いわ。クリス」
「仕方が無いだろう? 魂が人生の振り返りをしている時は、誰もそばに寄れないんだから」
出会った頃の、若い姿だわ。まだ、私の保護者をしていてくれた頃の。
そう思って、ふと自分の姿を見た。
十歳の子どもの頃の私かしら、手も体も小さい。
「それで、本当に良いの? ロザリー」
「なにが?」
何の確認? 今さら。
「僕と一緒に輪廻転生するっていう事は、二度と他の人間を伴侶に選べないって事なんだよ。以前言った通り、魂を繋げて僕の運命に付き合うんだから」
クリスは、しゃがんで私に目線を合わせて言ってくれる。
大事な話をする時は、こんな風にいつも目線を合わせてくれていた。
「次からは、僕も普通の人間になってしまっているから、離れたいって言われても願いを叶える能力はないからね。よく考えて」
「クリスはイヤなの?」
だって、あの約束をした時は、まだ私たちは出会って半年足らずだった。
私は、王女としての自覚と覚悟があるだけの、子どもだった。
あの時した状況判断は、当時のキャロルですらしたのだと言ったもの。
「奇跡は二度と起こらないんだよ」
クリスは、ため息とともに言う。
「人間の魂の記憶は、一度輪廻転生すると二度と戻らない。戻るとすれば、魂が消滅する時だけだ。だから、君が覚えていないのも無理は無いのだけど。僕の姿も違っていたし」
私の心を読んで答えてくれる。意味が分からないけど。
「もしかしたら、私の前世とかで出会っている?」
「はるか昔にね。本当は僕も気付かないはずだったんだ。君の魂から僕の能力の痕跡が微かに漂ってなければ」
クリスはしゃがんだまま、私を抱きしめる。
「だから、僕には君と一緒でイヤな事なんて一つも無いんだよ」
そう言ってくれるクリスを私は抱きしめ返した。
「だったら、良いわ。私もクリスといてイヤな事なんて一つも無いもの」
クリスの腕の力が強くなる。
私はだんだん意識を保てなくなっていたけど、幸せだった。
だって、記憶が無くなったとしても、私はクリスを愛しているし、クリスもそう思ってくれるのだろうから。
この先の人生。二人の魂が消滅するまで、一緒に居られるのだろうから。
おしまい
ここまで読んで頂いて、感謝しかありません。
実はこのお話は、バッドエンド差分(鳥かごエンド・投獄エンド)があるものがあります。
H.P.の小説の様に、URLで直接飛べます。(カクヨムにログインしなくても読めます)
https://kakuyomu.jp/works/1177354055297278540/episodes/16816452218675106376
バッドエンドが平気で、ロザリーの一人称にする時に抜け落ちてしまった、クラレンスとキャロルのイチャイチャシーンや賢者とクリスの密約シーンに興味がある方は是非ご覧ください。
内容の重複がイヤな方はバッドエンド差分だけでもご覧いただけます。(第10話のクリス殿下の「君は、自分の国。アルンティル王国を捨てることが出来る? 僕の妻として」というセリフの続きからです)
URLで直接飛べませんが、ノベルデイズ版はこちらです。
https://novel.daysneo.com/works/bf341322ee4b75c286a5e6a15b6212d1.html
※明日からは、『 ピクトリアンからの姫君』が始まります。
私がハーボルト王国に嫁いできた時には、まだアルンティル王国は国土を広げる為、近隣諸国と戦争をしていた。
私は、この国で死んで戦争の切っ掛けを作る為に、十歳という幼さで嫁がされたのだったわ。
その後、十年くらい経つと父王が亡くなって王太子になっていたフレデリックが王位を継いだの。そして、彼……私の弟フレデリックは、戦争の後始末に奔走していた。
更に十年近く経ってから、可愛らしい王妃を迎えていたけど、ピクトリアンの血を引く姫君だと聞いているから、もう成人していたのかしらね。
私の人生はハーボルト王国に来てから始まったようなもの。
夫のクリスと出会って、キャロルとシルヴィアという親友を得て……。
婦人会でも、随分お友達が出来たわ。
王宮とその政敵を演じるウィンゲート公爵との橋渡し役をするというクリスの、少しでも私は役に立てていたのかしら。
クリスが寿命で亡くなる時に
『僕が待っていると思ったら、死ぬのも怖くないだろう?』
なんて、私が処刑されるかもしれない時のセリフと同じことを言っていた。
私は泣いてしまっていて、返事も出来ないのに、こんな時に限って心を読んでくれない。
ううん。読んでいたから言ったのかもしれないけど。
『だがらなるべくゆっくり、残りの人生を楽しんでおいで』って。
ひどいわよね。私は一緒に連れて行ってって願ったのに。
「誰がひどいって?」
私のすぐ後ろにクリスの気配がした。
もう随分と、感じなかったのに……。
「遅いわ。クリス」
「仕方が無いだろう? 魂が人生の振り返りをしている時は、誰もそばに寄れないんだから」
出会った頃の、若い姿だわ。まだ、私の保護者をしていてくれた頃の。
そう思って、ふと自分の姿を見た。
十歳の子どもの頃の私かしら、手も体も小さい。
「それで、本当に良いの? ロザリー」
「なにが?」
何の確認? 今さら。
「僕と一緒に輪廻転生するっていう事は、二度と他の人間を伴侶に選べないって事なんだよ。以前言った通り、魂を繋げて僕の運命に付き合うんだから」
クリスは、しゃがんで私に目線を合わせて言ってくれる。
大事な話をする時は、こんな風にいつも目線を合わせてくれていた。
「次からは、僕も普通の人間になってしまっているから、離れたいって言われても願いを叶える能力はないからね。よく考えて」
「クリスはイヤなの?」
だって、あの約束をした時は、まだ私たちは出会って半年足らずだった。
私は、王女としての自覚と覚悟があるだけの、子どもだった。
あの時した状況判断は、当時のキャロルですらしたのだと言ったもの。
「奇跡は二度と起こらないんだよ」
クリスは、ため息とともに言う。
「人間の魂の記憶は、一度輪廻転生すると二度と戻らない。戻るとすれば、魂が消滅する時だけだ。だから、君が覚えていないのも無理は無いのだけど。僕の姿も違っていたし」
私の心を読んで答えてくれる。意味が分からないけど。
「もしかしたら、私の前世とかで出会っている?」
「はるか昔にね。本当は僕も気付かないはずだったんだ。君の魂から僕の能力の痕跡が微かに漂ってなければ」
クリスはしゃがんだまま、私を抱きしめる。
「だから、僕には君と一緒でイヤな事なんて一つも無いんだよ」
そう言ってくれるクリスを私は抱きしめ返した。
「だったら、良いわ。私もクリスといてイヤな事なんて一つも無いもの」
クリスの腕の力が強くなる。
私はだんだん意識を保てなくなっていたけど、幸せだった。
だって、記憶が無くなったとしても、私はクリスを愛しているし、クリスもそう思ってくれるのだろうから。
この先の人生。二人の魂が消滅するまで、一緒に居られるのだろうから。
おしまい
ここまで読んで頂いて、感謝しかありません。
実はこのお話は、バッドエンド差分(鳥かごエンド・投獄エンド)があるものがあります。
H.P.の小説の様に、URLで直接飛べます。(カクヨムにログインしなくても読めます)
https://kakuyomu.jp/works/1177354055297278540/episodes/16816452218675106376
バッドエンドが平気で、ロザリーの一人称にする時に抜け落ちてしまった、クラレンスとキャロルのイチャイチャシーンや賢者とクリスの密約シーンに興味がある方は是非ご覧ください。
内容の重複がイヤな方はバッドエンド差分だけでもご覧いただけます。(第10話のクリス殿下の「君は、自分の国。アルンティル王国を捨てることが出来る? 僕の妻として」というセリフの続きからです)
URLで直接飛べませんが、ノベルデイズ版はこちらです。
https://novel.daysneo.com/works/bf341322ee4b75c286a5e6a15b6212d1.html
※明日からは、『 ピクトリアンからの姫君』が始まります。