第2話 夢なら覚めて! 乙女ゲームの悪役令嬢なんて無理だから

文字数 1,272文字

 私、斎藤由有紀は生まれた時に、心臓に欠陥があるとお医者様から言われたそうだ。
 それでも幼少期までは、普通に生活が出来ていたのだと両親は話してくれた。
 小2で心臓発作を起こしてからは、入院をしていて少し体調が良くなると自宅で過ごす、そんな生活を送っていた。
 そして暇つぶしに、昨日まで隣のベッドのお姉さんから借りた乙女ゲームをしていたのだけど、そのゲームの悪役令嬢の断罪シーンにさっきの場面がそっくりだったのだ。

 ヒロインの名は初期設定のままだったらリリー・ブライアント伯爵令嬢。そして悪役令嬢の名前はキャロル・アシュフィールド公爵令嬢。
 そして攻略対象は、先ほどの王太子クラレンス殿下。第二王子のクリス殿下。そして側室の息子にして国王の第三王子ダグラス殿下。

 涙が廊下に落ちる。体の震えが止まらない。
 だって、クリスとダグラスのルートなら、キャロルは関係無いけど。
 さっきの場面から考えたらどう見ても、クラレンスルートだ。断罪イベントあってたし。

 ゲーム内のキャロルは、性格は悪く無いのだけど無機質でどこか近寄りがたい。
 それだからか家族との関係もあまり良くないものだったハズ。
 そしてヒロインの行いにいちいち文句をつけて、婚約者のクラレンスとも険悪になっていくんだっけ。
 この先、ゲームの中では追放されるか処刑されるか……とにかくロクな事になっていない。
 テロップで一行程度出ただけで、どういう経緯でそうなったのか全くわからないけど。

 まずいよ。処刑される未来しか見えない。夢なら覚めてよ。
 さっきのクラレンスの悪意のこもった冷たい目。キャロルの処刑を簡単に決めてしまいそうだよ。
 私はもう動く気力もなく、泣いてしまっていた。


「大丈夫?」
 思わずその声に、ビクッとなってしまう。
 さっきの近衛騎士? 私を捕まえに来たの?
 後ろにしゃがみ込むような気配がした。いつまでたっても触って来ない。
 おそるおそる後ろを振り返ると、知らない……いえ、ゲームの画面越しに見たことがある男の人が私に合わせて座り込んでいた。
 心配そうにこちらを見ている。

 私は思わず縋ってしまった。
 だって、怖かった。ずっと怖かったから縋って思いっきり泣きだしてしまった。
「どうしよう。怖いよ~」
 そうやって縋って泣いていると背中が暖かくなった。
 そっと私の背中に手をまわしてくれて、軽く抱き寄せてくれているのがわかる。
 そして、誰かに指示を出している声が聞こえた。

 どうしよう。この人も攻略対象だ。
 第三王子のダグラス。クラレンスに引き渡される可能性もあるんだ。
 そう思ったら少し体に力が入った。
「大丈夫だよ。もう怖くない。キャロル嬢。お屋敷に戻ろう」
 私の様子に気付いたのか優しく声を掛けてくれる。なんだかその声にすごく安心感を覚えた。

 私に合わせてゆっくり立ち上がらせてくれる。
 そして馬車の用意をして、そのまま私の横に乗り込み泣いている私を抱き寄せてくれた。
 
 多分馬車は、キャロルの屋敷に向かっているのだろう。家族の反応が怖いけど、今だけは安心して泣いていられた。
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