第2話 ロザリー姫とクリス殿下

文字数 2,518文字

 アルンティル王国からの二か月の長旅を経て、わたしはハーボルト王国に着いた。
 着いてすぐお相手のクリス様とお会いできるわけもなく、私は王宮内にあるお部屋に案内されていた。

 可愛い。
 お部屋自体は、このお部屋と寝室があるだけだけど、なんだかすごく可愛らしい部屋。
 壁紙は淡いピンクとベージュ。
 ソファーには、クッションと一緒にぬいぐるみまで置いてある。
 ドレッサーもテーブルも椅子も、このお部屋の家具はみんな白で統一されていた。

 部屋の少し奥に、大きな机があるけれど……。
 お勉強用かしら? あれだけは木製なのよね。

 寝室はオレンジに近い茶系でまとめられているのね。
 ベッドがものすごく広いわ。ここにもウサギさんのぬいぐるみが置いてあるのね。
 こっちは、抱き枕に出来そうな感じで、いい具合にくったりしている。
 嬉しい。
 クリス様が私の為に用意してくださったのかしら。

 私は侍女たちによって、湯あみをされ、早々に就寝をした。
 明日は、婚約者であるクリス様との対面式の日だからちゃんと睡眠をとらなきゃ。
 私の事を、気に入って下さいますように……。



 対面式は、謁見の間で行われた。
 湯あみをし、侍女たちによって着付けられ髪は……後ろにリボンを着け、垂らす感じにされた。
「お化粧はしない方が良いでしょう。クリス殿下は、ロザリー様のご年齢の方がお化粧をするのを、好みません」
 そう言われたので、その通りにした。

 対面式は国王と王妃。そしてクリス様。
 両脇には、多分この国の主だった貴族の方々がいらしたのだと思う。
 事前に聞いて練習していた型通りに、滞りなく終わった。

 対面式後に、私のお部屋にクリス様が引っ越してきたのには驚いたけど。
「今日からよろしくね。ロザリー」
 クリス様は、御年21歳。金髪碧眼(へきがん)でスラっと背が高く。
 格好良い大人の男性だ。
 穏やかな表情をしているけど、なんで同じ部屋に……。

 今回の縁談は、ハーボルト王国のご機嫌を損ねないためのもの。
 国家間の取り決めは何もない。
 どうぞ、そちらのご自由になさってくださいと、私は自分の国から渡されてしまったんだ。
 だから、私の年齢は考慮されないのは、分かっていたのだけど。

「あのね、ロザリー。知っているかもしれないけど、僕は第二王子だからね。我が国では、王太子以外は、婚姻後、公爵として独立しないといけないんだよ。だから、今の内に、お互いを知るためにもよろしくね」
 心を読まれてしまったかのような、タイミングでクリス様が言ってきた。
 そう……なんだ。

「クリス様。末永く、お可愛がり下さいませ」
 私は同じ部屋になった時に言うのだと習った挨拶をした。
 クリス様は、一瞬変な顔をしたけど。少し笑った。
「うん。そうだね。出来れば、そうするよ」
 
 そう言うやり取りをしていたら、侍女の一人が私たちの方にやってきた。
「クリス殿下。ロザリー様のお召し替えを致しますので」
「ああ。もうそんな時間か……。どうぞ、着替えさせてあげて?」
 そう言って、クリス様はソファーに座り他の侍女にお茶を入れさせていた。
 別に私の着替えに興味が有るとかじゃ無く、知らん顔しているけど。

 それでもしばらくは、抗議の眼差しで侍女たちが、クリス様の座っているソファーの近くにたたずんでいたのだけど、諦めたように私の方にやってきた。
「ロザリー様。なるべくわたくしたちが、隠しますのでご辛抱ください」
 そう小声で言って、侍女たちの制服で私を隠しながら着替えさせてくれた。
「あの。大丈夫です。子どもの体なんかに興味無いでしょうし」
 私は、侍女たちにそう言ったのだけれど。

「だと、良いのですけどね。夜会の度に、デビュタントしたばかりのご令嬢たちを侍らせてますので」
 分かりませんよ……とまでは、不敬になるので言わないのでしょうけど。
 ……遊び人なんだ。
「さて、ロザリー様。出来ましたよ」
 そう侍女が言ったので、私はクリス様の下に戻った。

「女性は面倒くさいね。何かあるたびに着替えないといけないんだから。おいで。食事の間に案内するよ。多分、キャロルたちも来ている」
 キャロル様? 突然出た女性の名に、戸惑っている内にクリス様はさっさと部屋を出て行った。
 お……おいて行かれる。追いかけなきゃ。
 慌てて私も部屋を出ていく。
 ゆっくり歩いてくれているので、すぐに後ろに追いついた。

 食事の間に入ると、男女二人がもうすでに席に着いていた。
 女性の方が、私を見るなりギョッとして立ち上がり、こちらにやって来る。
 私、何か失敗したのかしら。
 そう思ってたらいきなり抱きつかれた。
 胸のふくらみが顔に押し当てられて苦しい。

「大丈夫。もう大丈夫だからね。わたくしが守ってあげる」
 ぷはっ。やっと、顔が上げれた。
「あの……えっと?」
「それで? クリスに何されたの? 何か意地悪な事でも言われた?」
「いえ……あの」
「だって、あなた。こんなに怯えているじゃない。顔色だって悪いわ。どんな酷い事をされたの?」
 そういって、また抱きしめられ直された。
 せっかく脱出できたのに、また胸で息が出来ない。

「キャロル。君ねぇ。僕を何だと思ってるの? 僕だってさっき謁見の間で紹介されたばかりなんだよ。それより、ロザリーが死にかけてる」
 言われて気付いたとばかりに、私を解放してくれた。
 ……死ぬかと思った。

「とりあえず座ろうか、キャロル。その方がアルンティル王国のロザリー・アルンティル姫なんだね」
 席に着いている男性が、クリス様に確認をしていた。
 私は慌てて挨拶をする。
「ロザリーと申します。よろしくお願いいたします」
「よろしく。私はこの国の王太子のクラレンスだ。それと私の横に座っているのが婚約者のキャロル・アシュフィールド。数日後には、身内でちょっとしたガーデンパーティーを開いて紹介があるだろうから、とりあえず名前と立場だけね」
「はい」
「まぁ、子どもも参加するものだから、気楽にね」
 私の緊張をほぐすように言ってくれる。
「さぁ、クリスの横がロザリーの席だからね。座って」
 クラレンス様は優しいのだけど、クリス様は私の方など見ないまま、さっさと自分の席に着いていた。
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