第12話 第三幕への間奏曲

文字数 1,936文字

はい、これで前半部分が終了しました!


長い休憩はこれで最後なので、お茶・お酒を飲みたい人は劇場ロビー併設のカフェへどうぞ。

(※飲食エリアがない場合もあります)

(コーヒーを飲みながら)

は~、ほっとする。

集中して見てると、意外と疲れるもんだね
あのさあ~。

さっきから不思議だったんだけど、『カルメン』はスペインが舞台の話なのに、

みんな、ずっとフランス語をしゃべってない?

そういえばビゼーって、フランスの人じゃなかったっけ?

そうそう! ジョルジュ・ビゼーはパリ生まれ、生粋のフランス人作曲家です。『カルメン』はフランス語で書かれた、フランス・オペラの大傑作なんだよ

36歳で死んじゃったのか……。

もっと長生きしてたら、他にも有名オペラを作ってたかもしれないのにね。

にしても、本当にフランスの人って感じだ~

例えばホセの名前だけど、よ~く聞くとフランス語で「ジョゼ」と歌っているのが聞き取れるよ。日本語訳では昔からスペイン語風に「ホセ」と表記されてきた歴史があるので、今もそのまま使われているんだ
外国語が分からない、という人も大丈夫!

オペラの会場には、どこの席からも見える字幕が用意されており、日本語で鑑賞することができます。

今日三人が観ているホールでも、電光掲示板が持ち込まれて日本語訳が表示されています。

プログラムには、原作の小説があったって書いてあるぞ
うーんと……ほんとだ!

(プログラムをめくって)

原作はプロスペル・メリメ。

オペラの台本はメイヤックとアレヴィだって

そうなの。このオペラは小説を下敷きにして作られたんだ。

だけどメリメの『カルメン』は、もっと残酷で過激な内容。殺人しまくりで、びっくりするよ

原作小説では、ホセとカルメンが夜盗集団を乗っ取る設定です。罪のない人々を皆殺しにするなど、血なまぐさい雰囲気。

こちらを元にした、西部劇風ハリウッド映画もあります(1948年。主演はリタ・ヘイワ―ス)。


しかしメイヤックとアレヴィは、この作品のオペラ化に当たって残酷描写をぐっと減らしました。そしてカルメンと対照的なもう一人のヒロイン、ミカエラを作り出すなど、多くの改変も行いました。これにより感情移入が容易になり、ヒットの土壌が生まれたのです。

今日のオペラ界での人気は、二人の台本作家によるところが大きいですね!

ところで、今日私たちが見ている舞台では、セリフが全部歌になっているよね?
一から十まで、ずーっと歌ってるぞ?
オペラって、全部が歌になっているものじゃないの?
うん。今日の舞台はそう。

だけどオペラには、セリフを普通にしゃべるものもあるんだ

(動画には二種類あったんだけど、気づいたかな?)

(クッキーも動画を見てきました!)

確かに、全部歌っているのと、時々しゃべっているのとがあるみたい

そうなの!

ビゼーは最初「セリフを話すバージョン」の方、いわゆる「オペラ・コミック版」で『カルメン』を作ったんだ。

『カルメン』は物語が過激なだけに、初演は(特に批評家には)不評だったことが知られています。でもお客さんは最初からかなり楽しんでいて、劇場側は手ごたえを感じました。


だからもっとお客さんを呼べるようにと、後年セリフをレチタティーヴォに改めた「グランド・オペラ版」が作られました。

大ヒットしたのはこっちの方! やっぱり全部が歌になっているものの方がオペラらしくて、ゴージャスな感じがするもんね。

オペラ・コミックとは……

喜歌劇とも訳され、民衆的な歌芝居に端を発したもの。初期には滑稽で軽いものが多く、フランス革命前には痛烈な風刺精神で人気を博しました。後期になるとシリアスなものが増え、単純にセリフを含むオペラの総称になりました。

レチタティーヴォとは……

叙唱と訳され、語るように歌われる部分です。多くのオペラでは、レチタティーヴォで状況を説明し、アリア(詠唱)で感情を表現します。レチタティーヴォでは楽譜にテンポやリズムが記されている場合でも、歌手は自由に歌うことが許されています。

最近ではオペラ・コミック版の良さも見直されて、こちらで上演されることも少なくないようですよ
さて休憩が終わったら、また間奏曲があるの?
そうなの。今度の間奏曲は、もともと『アルルの女』(オペラではなく、戯曲のために作られた付随音楽)用に作られ、『カルメン』に転用された曲なんだって。

しっとりとした、抒情的な音楽。これも名曲とされているよ

第三幕への間奏曲は、ハープで始まり、フルートとオーボエが優しいメロディーを奏でます。

激しい曲ばかりの『カルメン』の中で、清涼剤のような爽やかな一曲です。


今はぎゅっと抱き合っているカルメンとホセ。

束の間の、二人の恋と安息が感じられますね。


ベルリン・フィルの演奏でお楽しみ下さい!

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