第30話 「時が経って美貌があせれば」

文字数 1,978文字

ジェルモンにアルフレードと別れるよう命令され、ショックのあまり半狂乱になるヴィオレッタ。
嫌です!

ぜったいに嫌です!


ご存知ないでしょう?

この胸にどんなに大きな愛があるか……!

私の身は病にむしばまれています。

長くはないのです

ヴィオレッタの目から、涙がボロボロとあふれ出ます。
それでもご子息と別れろと?


だったら死んだ方がましです……!

そうよ、いっそ死んだ方が……

ああ、別れるぐらいなら、死んだ方がましです……!
ヴィオレッタは何度も訴えますが、ジェルモンは聞く耳を持ちません。

「死」の言葉も、混乱したがゆえの、ものの例えだと思うのです。

つらい犠牲でしょう。よくわかりますよ。

でもあなたは、強く生きなければなりません

死んだ方がまし……
心静かに、私の話を聞きなさい。


あなたは若く美しいが、

いつかその美貌は時とともに失われていく

さっそく飽きが頭をもたげることでしょう。

その時、どうするか?

天に祝福されなかった絆なら、余計につらいのですぞ

今なら、あなたは天使になれます。

我が家の救いの天使となって下さい。


こうした言葉をのたまうのは、神です。

神が私の口を借りて、語っているのです!

これは神様の意思だと聞かされ、ヴィオレッタはそれ以上反論できなくなります。
ひとたびつまづいた、哀れな女……


そんな女に、立ち上がる希望はないのね。

たとえ神が許してくれても、人は許してくれないのだわ

ひ、ひどいよ~。

ヴィオレッタは人生をやり直そうとしてるのに、その気持ちをくじくような真似をするなんて!

「よくわかりますよ」なんて言ってるけど、全然わかってねえよ、この親父!


しかも自分が神様を代弁してるみたいな言い方をしやがって……

本当だよね。ウサギも悔しいし、悲しいよ……。


でもジェルモンの言い分に、説得力を覚える人も多いはず。祝福されない結婚というのは、どうしても困難の多い道になっていくから。

身分の隔たりが厳しかった時代、こういうことはいくらでもあったんじゃないかな

ヴィオレッタの悲痛な叫び。

ここで表題の「つまづいた女」という言葉が初めて出てきます。

「時が経って美貌があせれば」は、言うことを聞かないヴィオレッタを説得するための、残酷な歌です。

しかし歌詞の内容には真実味があり、メロディーにも耳に残る強さがあります。

運命を受け入れる覚悟をしたヴィオレッタ。自分が愛を諦めるしかないのです。


次に歌われるのが「美しく清らかなお嬢さんに伝えてくださいね」という曲です。

お伝えください

美しく清らかなお嬢さんに

この世に不幸にも、犠牲になる女がいると

ただ一筋だけ幸福の光が残されながら、

それをお嬢様に捧げ、死んでいく女がいると

お泣きなさい。お気の毒に

お泣きなさい。思い切り

この犠牲はあまりに大きい。それを承知で頼んだのです。


どうか勇気を。強くあって下さい。

あなたの苦悩はよく分かります。気高い心で、どうか強く

でも、どうしたら?
息子に、愛が冷めたと言ってください
彼は信じませんわ
ではあなたが立ち去ってください
追ってきますわ
泣き崩れるヴィオレッタ。
せめて、あなたの娘として抱いて下さい。強くなれますから
ジェルモンは言われた通り、ヴィオレッタを抱きしめます。


その後、ヴィオレッタは毅然として、一通の手紙を書き始めます。

ジェルモンに内容を聞かれますが、明かせません。

ただ、この覚悟のほどは分かってもらいたい。その悲痛な叫びを口にします。

私は死にます!


せめて、私の苦悩をあの方に分かって頂けますよう……

首を振るジェルモン。
あなたは幸せに暮らしてください。

あなたの犠牲は、きっと報われます

私の、最期の吐息までも、あの方のものです。

この犠牲、どうかあの方に分かって頂きますよう……

人が来ます。あちらへ!


……もうお会いすることもないでしょう

どうかお幸せに
お幸せに
ジェルモンが去った後、泣きながら手紙を書くヴィオレッタ。
神よ、私に力を与えてください……!
ベルを鳴らし、アンニーナを呼びます。
これを届けて

(手紙を差し出す)

(宛名を見て、驚き、とまどう)

え!? で、でも……

いいから! すぐに!
そして、今度こそアルフレードに別れの手紙を書くのです。

テーブルに向かい、ほとんど号泣しながら……

ヴィオレッタがアンニーナに託した手紙は、誰に当てたものだったの?
それは後で分かることなんだけど……確かに何通もの手紙が出てくるので分かりにくい部分だよね。ここだけ先に明かしちゃいましょう!

一度は縁を切ったドゥフォール男爵に、よりを戻して欲しいと頼む手紙なのです。アンニーナは事情を知っているから、戸惑ったんだね

え、あの感じの悪い男爵とまた付き合うのか⁉
仕方がなかったんだ……ヴィオレッタはアルフレードと別れる覚悟をしたんだもん。また男爵の囲われ者になり、以前の生活に戻るしかないんだよね。

この後、ヴィオレッタの運命はさらに暗転していきます。

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