第77話 バジリオのアリア

文字数 1,240文字

第4幕 第7景
バジリオとバルトロの二人がその場に残ります。

怒り狂ったフィガロを見送り、呆れて首を振るバジリオ。

あれは悪魔が乗り移っておりますな
あいつは上に楯突いてばかりで大丈夫なんだろうか。

もちろん妻を愛人として差し出すなんて、我慢できるものではないだろうが

(パパは心配だぞ)

多くの者がその程度の理不尽に耐えておりますよ。

身分の高い人と対立してしまったら、おしまいです。逆らったところで、何の得があります? 裁判で争ったって、絶対に偉い人が勝つ世の中なんですから

あ~。これは、切ないぐらいによく分かるなあ!
身分なんかとっくになくなったはずの現代でも、実は見えない所に差別が残っているよね。だから現実派のバジリオに共感する人は少なくないはず
18世紀の「しがないサラリーマン」バジリオ。

彼の「あの年頃、怠惰でバカだった頃」もまた省略されることが多いアリアなのですが、ここで歌われる彼の哲学は、現代人にも「刺さる」言葉となっています。

あの年頃。怠惰でバカだった頃。

若かった頃はねえ、こんな私にも情熱というものがありましたよ。

そう、今のフィガロと同じように

ある時、賢い女性に出会ったんです。

彼女は私にロバの毛皮をくれました。


こんな物が何の役に立つのかと思っていたら……

その後、雨が降ってきたんですよ。だから毛皮を傘の代わりにできました

さらにその後、猛獣に襲われたんですよ。

だけど毛皮の発する嫌な臭いのお陰で、私は助かった

「ロバ」は「愚か者」の隠喩でもあります。

バジリオは、偉い人の前では愚か者の仮面をかぶることでうまくやりおおせると、自分なりの処世術を語っているのです。

つまり運命が教えてくれたんです。

辱め、危険、死は、

ロバの皮で避けることができると!

ゴマすりも、ここまで腹をくくってると、逆にすがすがしいかも
でも何だか切ないな~。

弱い者は自分を押し殺して、愚か者のフリをしないと生きていけないの?

バジリオは伯爵に媚びへつらい、スザンナを口説くための協力までしてたよね。どれもこれも、彼にとっては自分が生き残るための知恵。もはや崇高な理念と化してるようだね
いやでも、理不尽に対してはフィガロみたいにがっつり戦って欲しいよ
フィガロは能力のある部下なので、伯爵を怒らせても何とかやっていけそうだよね。

だけどバジリオのような人はどうかな? 卑屈にならざるを得ない人の悲しみが、この曲に表れているんじゃないでしょうか

嫌われ者バジリオが、処世術を歌い上げるアリア。

卑怯、日和見主義の礼賛にも見えますが……この後に来るフィガロのアリアを引き立てる存在でもあります。若く、血気にはやるフィガロに対し、自分は冷静な大人だと言っているのです!

確かに、こういうオヤジはいるよな。

熱血漢の若者を、鼻で笑うタイプ?

バジリオは長い者に巻かれろタイプ。フィガロは熱しやすく冷めやすいタイプ。

どっちも女性から嫌われちゃいそうだけど?

女性にも、それぞれのタイプがいるってば(笑)。どっちもどっち、というところじゃないかな
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