第22話 お次は悲しい愛の物語
文字数 2,705文字
お母さんは何か月も前からプロのオペラ公演のチケットを取っていました。だけど一緒に行くご友人ともども都合が悪くなってしまい……
何とこの三人に譲ってくれるというのです。
この三人が大変感激した旨を伝えたので気を良くし、どうやら今回は大盤振る舞いをしてくれた、ということのようです。
音響の良さでも知られ、オーケストラピットもある本格的なホールです。
昔オペラの世界には、お客さんの方も「見られる」という前提があったんだ。だから今でも服装を気にする人が多いけど、無理をする必要は全然ありません
見ることにしました。
『椿姫』は、ヴェルディ中期の傑作。
悲劇ではありますが、音楽には華やかで力強いヴェルディらしさがいっぱいです。
パリの華やかな暮らしと、椿の花が大好きですの。ほとんど毎日観劇に出かけるし、どこかのパーティーには必ず顔を出します。自分でも今度、主催しますのよ。
私のサロンは紹介制です。パーティーには招待状持参か、あるいはどなたか貴族の方と一緒にいらして下さいね。
パトロンの人数? ふふっ、それは内緒ですわ。でも今、一番貢いで下さってるのはドゥフォール男爵かしら。
コホッコホッ(咳)……失礼。
いいえ、心配いりませんわ。すぐに良くなりますから。
田舎者ですが、詩を書くのが大好きです。パリには美しいものがたくさんありますね。
それで、もう一年も前になるでしょうか。あの人のことをお見かけしてから、忘れられなくなってしまって……。もちろんヴィオレッタさんに声を掛ける勇気なんてありません。遠巻きに見ているだけでいいんです。
ただ最近は彼女の体調が悪いそうなので、心配のあまり友人のガストーネについ様子を聞いてしまいます。みんなに笑われているのは知ってますけど、気にしませんよ。僕は本気だし、これは真面目な話ですから。
ジェルモン家は南仏プロヴァンス地方の名家です。
パリに出て行ったまま、ろくに連絡も寄越さない息子が心配でたまりません。まったく仕送りをしてやっているのに……。大事な息子が都会の悪い空気に染まらぬことを願うばかり。
親の立場を経験した方なら、この気持ちをお分かり頂けますよね?
そんな息子と違い、地元に残っている娘の方は順調ですよ。ありがたいことに、最近またとない縁談が舞い込みましてね。娘の将来のためにも、これはぜひとも進めたい話です。