第70話 お、お母さん⁉

文字数 2,051文字

第3幕 第5~6景
引き続き、大広間にて。

裁判官ドン・クルツィオを招いて、フィガロの裁判が始まっています。

原告マルチェッリーナ、ほかバルトロ、伯爵が立ち会っています。

ほっほ。

わ、私が裁判官のドン・クルツィオである。

(どもり気味のキャラクターです)

(自分の身が可愛いので、アルマヴィーヴァ伯爵の意に沿う判決しか出しましぇーん)

見てろ、私を馬鹿にした者どもめ。

この通り、ちゃんとした裁判をやってやる。

誰も文句は言えないだろう

訴訟は決着です。

(フィガロに対し、マルチェッリーナを指し示す)

借金を返すか、彼女と結婚するか、契約を履行するように

ふふん。やったわ!!
(絶望)オレ、死んじゃう……
見事である。よくやったぞ、ドン・クルツィオ
まことに立派な判決ですな
これのどこが立派なんだよう~(涙)
いよいよお金か、結婚かの選択を迫られるフィガロ。

必死に逃れる方法を考えます。


ここで思いついたのは、身分の高い貴族なら結婚にハードルがあるということ!

じ……実は私、貴族の生まれなんです。

両親の許可がないと結婚できません!

ん? これはどういうこと
どうも当時はそうだったらしいの。

貴族の子は、両親の同意なしには結婚できなかったんだって

聞いたことないぞ、そんな話。

その両親はどこにいる?

もう十年ぐらい探しています!

でももうちょっと、探させて下さい!

(ちょっとドキっとする)

君は捨て子だったのか?

いえ、さらわれたんです
(さらにドキっ)

何てこと……

証拠は
僕がさらわれた時、金と宝石、縫い取りのある服を着ていました。

何より、この腕には絵文字のようなものが……

……右腕に捺された鏝(こて)の跡では?
なぜそれをご存知なのです?
(涙が出そう)

ラファエロ……私の息子……!

もちろん一同は、びっくりです!!
え~、マルチェッリーナはフィガロの母親だったの?
何とも唐突な展開だね
ここで、フィガロの本名についてちょっとだけ。

ボーマルシェの原作ではエマニュエルという名になっているの。

ダ・ポンテがなぜラファエロという名にしたのかについては諸説あるようですが、少年ケルビーノ=智天使ケルビムだったのと同じように、フィガロは大天使ラファエルになぞらえたのでは、と言われています

お、お母さん……!
そうだ。乳母などではないぞ。

お前の母親なのだ……

(バルトロを指さし)

そして彼が、あなたの父親なのよ……!

お父さん……!
三人、胸がいっぱいで抱き合います。もう敵同士ではありません。


だけど裁判官クルツィオと原告の伯爵は、すっかり冷めてしまいました。

お、親子だったのか。

これでは結婚の話は進められぬのう

何ということだ。

私の当ては外れた。ここはもう退散しよう

ここで財布を持ったスザンナが駆け込んできて、伯爵を引き留めます。
お金を持ってきました!

これでフィガロの借金を返します!

※台本通りだとスザンナの資金の出所は不明ですが、演出によっては(場面を入れ替えるなどして)伯爵夫人からもらったという設定になっています。
ところが、振り向いたスザンナの目に飛び込んできたのは……

フィガロとマルチェッリーナが抱き合っている姿ではありませんか!

ひどい! 私を裏切って彼女と結婚する気なのね……!
ち、違う。スザンナ、待ってくれ
パーン!!


スザンナの平手打ちが飛びます。

頬を押さえるフィガロ。

ここで仲裁に入るのが、何とマルチェッリーナというわけです。

怒らないで。

私はあの子の母親なの。これからはあなたの母親にもなるのよ

お、お母さん?
そうだ。それから彼が僕の父親なんだ
お、お父さん?
ふふん
駆け寄って抱き合う四人。

新しい家族の誕生に、思い切り喜びを叫びます。


その片隅で、判決文を持ったまま苦々しい顔をしている人が。

悔しい。思い通りにはいかないものだ
(ここで点数を上げようと思ったのに)
誤解してパーンと平手打ち……昔のテレビドラマみたいなシーンだな。

これの元祖はフィガロなのか?

当時の聴衆は、平手打ちシーンで大爆笑したのかもね
69話のアリアで、伯爵は勝ち誇った気分でいたのに、ここで一気に敗北しちゃったよね。

この落差もまた見どころだったと思われます。

画像がやや不鮮明ですが、この部分の六重唱も有名なのでぜひ!

生き別れになった親子+スザンナの喜び、そして伯爵と裁判官の唖然とした様子の対比がよく描かれています。

(バルトロに向かい)

愛しい友よ。彼はかつての愛の、甘い結実です

遠い日の過ちについては、もう語るまい。

あんたは私の連れ合いだ。私たちも結婚式をしよう

何とバルトロ・マルチェッリーナも結婚することに!

気を良くしたマルチェッリーナは、フィガロに借金の証文を渡します。

お前の結婚資金よ
これもあげる♡

(と言って伯爵夫人からもらったお金を渡す)

ありがとう!
三人からじーっと目を向けられるバルトロ。
(……わ、わかったよ)

これもどうぞ

(と言ってフィガロに自分の財布を渡す)

これにて二組の幸せなカップルができました!

まだ幸せになっていない人は誰でしょう?


そう。伯爵と、伯爵夫人。

それから、あの人と、あの人も……

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