第24話 「乾杯しよう、美が花開く」

文字数 2,103文字

真面目で大人しいアルフレード。

こんな華やかな場で、乾杯の音頭を取るような柄ではありません。


とはいえ憧れのヴィオレッタの前ですから、アルフレードは覚悟を決めます。

こうなったら、少しでもこの場を盛り上げよう!


彼は、魂を込めて歌い出すのです。

乾杯しよう、美女が花を添える杯に

そして束の間の時を、快楽で酔いしれるように

……!(いい声じゃない)
きっぱりと、しかし流れるようなワルツのリズムに乗って、声を響かせるアルフレード。

その見事さに、ヴィオレッタも他の人々も息を呑みます。

乾杯しよう、愛が引き起こす甘美な身震いの中で

ある瞳が(ここでヴィオレッタを見る!)

絶大な力をもって僕の心に向けられるから

アルフレードは、ヴィオレッタが自分にとって女神に等しいと言っているのです。

本人は遠回しのつもりでも、ヴィオレッタは苦笑もの。

(……あらま。何てストレートな人なの)
だけどアルフレードの歌には、なかなかの力があります。

雰囲気に呑まれたように、人々の合唱が入ります。

(合唱)

乾杯しよう、愛は杯の中で

より熱い口づけを手に入れるだろう

ヴィオレッタにとっては、愛の駆け引きなんて手慣れたもの。

アルフレードに秋波を送られたようではありますが、彼だけに注目するような野暮な態度は取りません。

他の人々を置き去りにしないよう配慮しつつ、盛り上がった雰囲気に呼応するのです。

皆さまとなら、楽しい時間を分かち合うことができるでしょう


楽しくないものなんて、くだらないわ

遊んでいた方がいいじゃない

愛の歓びは束の間で一瞬なのよ

楽しみましょう

こんなに楽しいのは今だけよ

花は咲いて散りゆき、二度と楽しむことはできないの

人々はヴィオレッタの歌に、さらに盛り上がります。

ここへ来るのは、刹那の快楽を求める人ばかりなのですから。

(合唱)

楽しみましょう

グラスと歌と笑いが、夜を美しくする

この楽園の中で、我々は新しい日を迎えるのだ

享楽的な雰囲気になりましたが、ここで引き下がるアルフレードではありません。


歌の後半で、彼はヴィオレッタと言葉の掛け合いをします。

快楽が一番と歌うヴィオレッタと、人はみな真実の愛を求めるべきだというアルフレード。どちらが勝つのでしょうか?

人生は快楽の中にあるわ
まだ本当の愛を知らないから、そんなことが言えるんだ

愛とは無縁の私に、そんなことを言っても無駄よ

これが僕の運命なんです!
アルフレードはすでに告白に近いことをしています。

でもヴィオレッタにとって、この歌はあくまで余興の一つ。ここは恋愛ごっこをする場なので、本気で受け止める気はありません。

だけれども、パーティーを上手に盛り上げてくれたアルフレードには、かなりの好感を持つのです。

大人気の曲、「乾杯の歌」に関しては、さまざまな動画が公開されています。ぜひお好みのものを見つけてみて下さい(Brindisi、またはLibiamoで検索!)。


こちらは落ち着いたナイトクラブ?風な演出。

貫禄さえ感じさせる「ママさん」ヴィオレッタと、初々しいアルフレードとの対比が良いです。

イギリスの王立オペラハウス(コヴェントガーデン)での公演です。

打って変わって、こちらは「極彩色」でファンタジックな演出。すべてはヴィオレッタの夢の中の出来事、という設定のようです。


メトロポリタン歌劇場です。アメリカでは、とにかく大規模で豪華な舞台が好まれるとか。

ひゃ~。これが有名な『乾杯の歌』か~!

三拍子で、ノリノリな歌だね

なんか、オレも歌えそう……


リビア―モ リビアモ ネリチ カー♪

ちょ……ちょっとやめて

(音程外れてるし)

歌詞は短いので、カタカナで覚えて歌える人も多いみたいだね。

コンサートなどで「さあ皆さんご一緒に」と聴衆が巻き込まれることもあります

隣の部屋から、音楽が流れてきます。
皆さん、ダンスはいかが?

どうぞあちらへ。

人々を促しておきながら、自分は苦し気に座り込んでしまうヴィオレッタ。
く……苦しい……
どうしました?
いいえ、先にあちらへどうぞ。

私もすぐに参りますから

人々を隣の部屋へ追いやり、ヴィオレッタは苦しそうに呼吸をします。

心配のあまり、その場から動けずにいるアルフレード。

一方ヴィオレッタは、自分だけがその場に残っていると思い込んでいます。

鏡を覗き込み、自分の顔を両手で覆うヴィオレッタ。

な、何て蒼い顔なの……
お酒の力を借りて、病気のことを忘れようとしているヴィオレッタ。

だけど死の陰は、確実に近づいてきているのです。

ここでヴィオレッタは、部屋の中にアルフレードが残っていることに気づきます。
ま……まだ、こちらに?
ご気分は?
……
こんな生活をしていたら、体が持ちませんよ!

もっとご自分を大切になさって下さい

お説教……? 大きなお世話よ
破滅へと向かっている自分に、ヴィオレッタはすでに気づいていますね。

娼婦の人生など、どうせそんなものだと彼女は思っています。

誰もが無関心を装い、自分の人生に口出しなどしてこない。ヴィオレッタはそう思っていたのに……
アルフレードという、とんでもないお節介野郎が現れたわけだな?
そういうことですね。

次回、アルフレードとヴィオレッタのせめぎ合いがますます激しくなります。

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