第71話 「あの美しい時はどこへ」

文字数 1,686文字

第3幕 第7景
初めまして。あたしはバルバリーナ。

庭師アントニオの娘だよ。頭がいいスザンナと違って、あたしはバカだけど、ケルビーノ君のことは本気だから、そこんとこ、よろしくう!

あ、あれ? まだいたの、新キャラ
そう、この演目は登場人物がたくさんいるんです!

バルバリーナについては、前に名前だけ出てきました。ケルビーノとイチャついている現場を伯爵に取り押さえられた、という件で(笑)

ね、あたしの家に行こうよ。

お城中のかわいい女の子が来てるよ。もちろんあなたが一番かわいいだろうけど

伯爵が僕を見つけたら大変なんだぞ。

君は知ってるよね? 僕はセビリアに行ったことになってて……

んもう~。お殿様があなたを見つけたって大丈夫よ。

初めてのことじゃないでしょ!

ねえ、あたしたち、あなたに女の子の恰好をさせたいの……

ケルビーノはまたもや女装させられるのでしょうか?


この美少年にお城にいて欲しいと考えるバルバリーナは、彼を女性に紛れさせてしまえば何とかなると思っています。

ケルビーノ自身も、バルバリーナのために危険を冒しても良いとは思っていますが、うまくいくかどうか不安なのです。


これからどうすべきか。議論をしつつ、二人は退場。

第3幕 第8景
今度は伯爵夫人が一人で現れます。

他のみんながおふざけモードなのに、この人だけは深刻な雰囲気。

スザンナは来ないわね……。

気になるわ。あの人がどんな風に誘いを受けたのか

こんな企みは大胆かもしれないけど、血の気の多いあの人には荒療治が必要なの。

私の服と、スザンナの服を取り換えて。夜の闇に紛れてあの人を騙すのよ

ここまでがオーケストラ伴奏のレチタティーヴォ。

これだけでも重厚な雰囲気ですが、ここからはさらに研ぎ澄まされたアリアに入ります。


伯爵夫人の胸にあるのは、かつて夫がささやいてくれた愛の言葉。

どこなのでしょう、あの美しい時は

甘さと喜びのあの時は


どこへ行ったのでしょう、あの誓いは

偽りの唇から出たあの誓いは

あの幸せの思い出は、なぜ私の胸から去りゆかなかったのでしょう?

ああ、せめて私の真心が

あの無情な心を変えてくれたなら

この場面での伯爵夫人のアリアは、69話の伯爵のアリアと双璧をなす重厚な曲になっています。

『フィガロの結婚』は「オペラ・ブッファ」であり、ドタバタ喜劇と評されることが多いのですが、この伯爵夫人の存在だけは「オペラ・セリア」的だと言われます。

よろしければ、こちらもどうぞ!

「20世紀最高の伯爵夫人」と言われた、エリーザベト・シュヴァルツコップ(マリア・カラスと双璧をなしたソプラノ歌手)の50年代の録音です。音楽関係の本には、必ずと言っていいほど「この人の歌を聴け」と書いてあります。

高音域のピアニッシモを響かせる技術がすごいですよ

歌い終えると、伯爵夫人は退場。
第3幕 第9景
伯爵と、帽子を手にしたアントニオがやってきます。
申し上げます、お殿様。

ケルビーノはあっしの家におりますです。

その証拠が、この帽子ですだ

な、何? あいつはセビリアに行ったはずであろうが
それが今日は、セビリアはあっしの家でして。

奴はそこで女の恰好をして、男の服を置いていきやした

何だって! どいつもこいつも、不忠者めが
激高する伯爵。二人は連れ立って、アントニオの自宅へと向かいます。
第3幕 第10景
再び伯爵夫人が入ってきますが、今度はスザンナも一緒。
まあ、そんなことがあったの⁉

で、伯爵は何と言われて?

お顔に読み取れました。悔しさとお怒りが

(私の誘惑は嘘だとバレてるかもしれません)

いいわ。後はわたくしが何とかします。

あの人とは、どんな約束をしたの?

ただ、庭で会おうと
場所を決めましょう。書いてちょうだい
手紙をしたためるため、スザンナは羽根ペンを取り出します。
目まぐるしく場面が変わるな~
伯爵夫人は最初のフィガロの計画通り、夫の浮気現場を取り押さえようとしてるのかな?
伯爵夫人は受け身的な立場だったけど、だんだん行動に出るようになってきたよね。フィガロに任せておいてもうまくいかないし、自分でやった方が早いと思ったのかも
というわけで次回、有名な「手紙の二重唱」で~す!
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