第78話 「すべて準備は整った」

文字数 1,471文字

さて。今回はいよいよ、フィガロによる最後のアリアです!
フィガロの独唱っていうことだと、前に「もし踊られたくば」(48話)、「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」(56話)があったよね
そうです!

で、前の二曲と、今回の曲「すべて準備は整った」とで、違う所があるんだ。どこだと思う?

もったいぶらんで、結論だけ言ってくれ

そう焦るなって(笑)。

聞いてみると、何とな~く分かると思うよ。今までより豪華で、「格」が上がった感じがするから!


今回はオーケストラが伴奏をする、レチタティーヴォ・アコンパニャート(用語については46話参照)から、アリアに引き移ります。

18世紀のオペラにおいては、この形式を踏むことができるキャラクターは、神様か王様、貴族のみと決まっていたんだよ

フィガロは、フツーの庶民だよな?
そうなの。要するに音楽の使い方で、小さな革命が始まっているというわけです!
とはいえ、ここも伯爵のアリア等と同じ。

音楽は立派でも、歌詞の内容は女性の浮気心に対する怒りに終始しています。

まずはフィガロの怒りに、耳を傾けてみましょう!

第4幕 第8景
フィガロが一人、怒りに震えて立っています。

逢引の約束をしたスザンナと伯爵がいつやってくるのか。

異様なほど緊張し、身構えています。

すべて準備は整った。もうすぐ二人がやって来るだろう。


誰か来た! 彼女か? 

フィガロが辺りを見回しても、誰もいません。

暗いので、よく見えないのです。


再び、つぶやきに入るフィガロ。

ひどいよ、スザンナ。結婚式の最中に、伯爵にラブレターを出すなんて。


ああ、スザンナ。スザンナ。

罪のない顔をして、君はどこまで僕を苦しめるんだ

ここから、アリアに入ります。

不実な女性と、そんな女性に恋をしてしまう愚かしさについて歌っています。

うかつにして愚かな男たちよ。

少しばかり、その目を開け、女どもを見るがいい!

惑わされた情欲によって、こんなものをお前たちは女神と呼ぶ

お前たちの頼りない脳みそは、こんなものに香を焚くんだ


女は僕らを苦しめる魔物

僕らを溺れさせようとする人魚

ぶはは(笑)!

「頼りない脳みそ」って。

本人は真面目に言っているんだよね

あらゆる言葉を尽くし、フィガロは女という生き物への怒りをぶつけます。
羽根を引き抜くフクロウだ

光を奪う彗星だ

棘のあるバラ

愛嬌を振りまく狐

慈愛あふれる熊

悪意ある鳩

騙しの名人だ

苦悩の友だ

そしてとぼけ、嘘つき、愛を感じず、憐れみを感じない


この他は言わぬ

もう誰しも知っている

う~ん。こりゃ相当怒ってるね〜

罵詈雑言も、ここまで徹底してると感心するな
ここで「女対男」みたいな図式になってきたよね。


最後の「この他は言わぬ」「もう誰しも知っている」は、何度も繰り返されます。

ここにある悪口は、実はどうでも良くて、その先にある「何か」が大事だということです。そして、言葉の先の「何か」を表現するのは音楽の役目というわけだよね

というわけで、実際に音楽を聴いてみましょう!


ドイツのバリトン歌手、ヘルマン・プライさんは「濃い」キャラクターで強く印象に残ります。ドイツ歌曲、特にシューベルトを得意としたそうですが、モーツァルトのオペラでも有名です。

ここでは『フィガロの結婚』のタイトルロールであるフィガロ(バス)ですが、伯爵(バリトン)も歌えたそう。ロッシーニ『セビリアの理髪師』のフィガロ(バリトン)でも高い評価を受けています。晩年には『フィガロの結婚』演出も手掛けました。「フィガロ」のスペシャリストという感じですね。


こちらの動画(映画版)では、二人のフィガロが言い合う形で胸の内の葛藤を表現しています!

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