第40話 号泣!フィナーレ・ウルティモ……

文字数 2,374文字

近くの教会に行くことも叶わぬ自分の体力。ヴィオレッタは厳しい現実に打ちひしがれます。

ここで歌われるのが「こんなに若くして死ぬなんて」という曲です。

こんなに若くして死ぬなんて!

あれほど苦しんだ末に

涙を拭う暇もなく

希望はただのはかない夢

守り抜いた愛の報いを受けることもなく

ヴィオレッタの死は免れない。

アルフレードも悟りますが、到底受け入れられるものではありません。首を振り、焦ったようにヴィオレッタを励まします。

君は僕の吐息、僕の胸の鼓動、僕の心の歓び

そうして流す涙も僕のもの

心を閉ざしてはいけない!

希望に向かうんだ。さあ気をしずめて

もう悲しい終わりが……
君の苦悩が僕にはつらい。

気を強く持つのだ!

「こんなに若くして死ぬなんて」。

アメリカのルネ・フレミングさんは、ソプラノ歌手として「当代随一」とも評される方です。

メトロポリタン歌劇場の映画館配信「METライブビューイング」では、解説と案内役として登場することも。

グランヴィル医師とアンニーナ、それからジェルモンが部屋に入ってきます。

苦しい息の下で、必死に笑顔を見せるヴィオレッタ。

……お義父様! 私をお忘れにならずに?
約束通りに、やって来ました。

けなげなあなたを、娘として胸に抱こうと、こうしてここへ

……少し遅すぎました。

でも、うれしゅうございますわ

……

(無言で脈を診る)

先生……私はうれしい。

こうして、この世の親しい方に看取られて

ヴィオレッタの病状が、ここまで悪くなっているとは知らなかったジェルモン。驚いて目を見開きます。
そんなことは!
そんな父親を、アルフレードは涙の下から見つめます。
いかがですか、お父さん。

これをどうお思いになるんです?

これ以上、責めないでくれ!

私は後悔の念に苛まれている。まるで稲妻が襲うようだ

あのときの言葉、浅はかだった。

自分が招いた結末を、今こうして目にしている

こちらへいらして……

聞いて下さいな……

アルフレードが近づいていくと、ヴィオレッタは震えながら、小さな肖像画を差し出します。
愛するアルフレード……


受け取ってくださいな、この絵姿。私の過ぎた面影を……

これで思い出して。あなたをこんなに愛した女を

アルフレードは受け取りますが、涙を振り飛ばすように激しく首を振ります。
君は生きなければ!

神が僕をここへ寄越したのは、こんな悲痛のためではない

ジェルモンも部屋の片隅で悲嘆に暮れています。
尊い愛だったのだ……

私はそれを奪ってしまった

ヴィオレッタは、アルフレードに最後の言葉を残します。
……もしどなたか、慎ましく清らかな乙女があなたに心を捧げたなら、

どうか花嫁にしてあげて。


そしてその方に、この絵姿を。

ある人からの贈り物だと伝えて。

その人は天の高みで、二人のために天使たちと祈っていると……

泣き叫ぶアルフレード。
死に僕たちを引き離させやしない。

君は生きるんだ!

この絵姿を……
死ぬなら、僕も一緒に……!
そのとき、ヴィオレッタは急に眼を開け、ゆらりと立ち上がります。
妙だわ……
止まったわ。いつものつらい苦しさが
ヴィオレッタの異様な姿。全員、固唾を飲んで見つめます。
戻ってきたの。動いているの。いつにない力が。

私、きっと生きられるのね。

ああ、うれしい!

全力で喜びを叫ぶヴィオレッタ。

しかしその直後、くずおれます。


アルフレードが抱き止め、その腕の中でついにヴィオレッタは息絶えるのです。

華やかなノベデイ劇場を後にし、駅に向かう三人。

さっきまで鼻水をすすり上げていたクッキーちゃんも、ようやく機嫌を直してくれました。

今日のヴィオレッタ役の人、ステキだったね。

あの人がいたから、感動できたような気がする

ホントだね~。

昔から『椿姫』が成功するかどうかは、ヴィオレッタ役を誰がやるかにかかっていると言われているんだって

カーテンコールでヴィオレッタが生きて出てきたから、何かほっとしたよ
ホントに死んでるわけないでしょ!

でも、そう感じさせるところがすごいよね

しかし、ヴィオレッタは結核なのに、感染対策も何もあったもんじゃなかったな
グランヴィル医師も、最後までヴィオレッタを診てくれていい人だったけど、医療行為っぽいことは何もしていなかったような……
ま、19世紀だしね。

周囲の人々に感染していないことを祈りましょう(笑)

あ、そういうオチ?
にしても、女性がここまで痛めつけられる話って、見ていてちょっとつらいよね
確かに。

でもオペラでは、アルフレードはヴィオレッタの死に目に間に合ってるから、まだ救いがあると思う。小説では全然間に合ってないから。

え、マジ⁉
そこが原作とオペラの大きな違い!

原作では彼女の遺品が競売にかけられて、ようやく主人公はその死を知るんだよ。

でもヴェルディや台本作家たちは、見捨てられたまま孤独死させたんじゃヒロインがあんまり可哀想だから、せめてもの思いであの第三幕を作ったんじゃないかな

ヴィオレッタも少しは幸せだったって、言えるのかな
そう思いたいよね。

アルフレードとジェルモンはあんな親子だったけど、ヴィオレッタはそれでも彼らに会えて幸せだったんだよ。

パトロンたちは誠実に向き合ってなんかくれないからね

なんか、しんみりしちゃったから……


ウサギさん! 次は明るいのにして!

何⁉ 明るい演目とな?
そうだな。笑えるやつがいい
笑える、ねえ……


笑いと言っても、昔の笑いだからね。今の感覚とは違うことを了承してもらえれば、もちろんオペラにもコメディー系はいっぱいあるよ。

そして上演回数の多さでいくと……

あれ、行っちゃうか?

あれって何だ?
それは、次の演目に入ってからのお楽しみということで!
これにて『椿姫』の章は、完結。


次の演目は、年が明けてからの公開を予定しています。

その前に年内は「おまけ」として、ヴェルディの他のオペラをちょっとだけご紹介する予定です。よろしくお願いします(作者より)。

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