第55話 「幸せな娘たち」

文字数 2,235文字

第1幕 第8景
フィガロが、農民の男女をぞろぞろと引き連れてやってきます。


フィガロは白いヴェールを、村人たちは籠を手に持っています。

籠には摘んできた花がいっぱい。

どうもどうも~。

お殿様にお礼の歌を差し上げま~す

……?
訳が分からず、呆気に取られる伯爵。

フィガロの合図で、村人たちは晴れやかに合唱します。

幸せな娘たち、花をまけ。

気高い我らの、ご領主様の前に

歌が始まると、音楽家バジリオはじっとしていられません。

ノリノリで指揮をしてしまいます。

イエーイ!

その偉大なお心は、

美しい花のかけがえのない純潔のため、触れずおかれるのだ

伯爵は、突然始まったこの音楽に唖然としています。
こ、この茶番は何だ、フィガロ?
(小声でスザンナに)

もう踊りは始まってる。僕に調子を合わせてくれ!

(独白)

うまくいくのかしら……不安だわ

お殿様。我々の気持ちをお拒みなさいますな。

お殿様が不愉快な権利を廃止して下さったので、我々はそれにふさわしいお礼をしたいのです!

う、うむ。あの権利はもう存在しない。

で、お前は何が望みなのだ?

お殿様の素晴らしいご決断によって、最初に恩恵を蒙るのは私どもなのです!

というのも、婚礼の準備はすでに整えられました。今すぐにでも結婚式ができますから!

フィガロは白いヴェールを掲げ、スザンナを抱き寄せます。
この娘を、貴方様は無垢のままにお救い下さいました!

この白い衣は、貞節の証です!

村人がじっと見つめています。

この状況では、伯爵も結婚式の許可を出さざるを得ません。

(独白)

クソっ。フィガロめ、やりやがったな。

これは悪魔の策謀か⁉

だが素知らぬふりをするより他はない

気を取り直し、伯爵は人々に告げます。
皆の者、誠意のこもった贈り物、ありがとう。

しかし礼には及ばぬぞ。

不正な権利を我が領内で廃止するのは、当然のことであろう

(ヒクヒク、顔がひきつっちゃう)

人々は待ってましたとばかりに大喝采。
いいぞ。それでこそ、我らがお殿様!
万歳! 万歳!
(意地悪~く)

何と素晴らしい徳でしょう

何と素晴らしい正義!
こうなっては致し方ありません。

伯爵はしぶしぶ、フィガロとスザンナに約束します。

よろしい。そなたらに式を挙げることを許す。

ただし、少し時間をくれ。私の最も信頼する人々の前で、より盛大な式を挙げさせてやるからな

(独白)

マルチェッリーナを見つけてこなければならん……

(クソっ。結婚式など、中止に追い込んでやるぞ)

みんな、下がりなさい
何だかまだ気を抜けない雰囲気ですが、フィガロ達はあくまで歌でその場を盛り上げます。
(残りの花をまきながら)

幸せな娘たち、花をまけ。

気高い我らの、ご領主様の前に

その偉大なお心は

美しい花のかけがえのない純潔のため、触れず置かれるのだ

なるほど、権力者もこれじゃ形無しだね。

庶民の知恵は強い!

伯爵にはまだ考えがあるようだが?
そう。マルチェッリーナがフィガロの結婚を阻止する手立てを持っていたでしょ?

伯爵はそれを利用するつもりなのです(そこまでするということは、スザンナのことは遊びではなく、けっこう本気のようですね)。


マルチェッリーナ達が巻き起こすドタバタは、第二幕から第三幕で。

そちらもぜひお楽しみに~!

こちらの動画では、伯爵が結婚式の延期を告げる際にヴェールを投げ捨てます!

しかもバジリオに「マルチェッリーナを呼んで来い」と命じる流れ。バジリオは伯爵の意図を心得、楽し気に指揮をしながらも伯爵にうなずいて合図を返していますね!


そんなただならぬ雰囲気を感じ取って、フィガロとスザンナ、村人は少し深刻な顔つきをしています。

負けじと「万歳」を連呼するフィガロとスザンナ。

バジリオも空気を読んで、同じようにします。とりあえず伯爵を称える言葉なので、彼にとっても不都合はないのです。

(部屋の隅で落ち込んでいるケルビーノに向かって)

君は万歳してくれないんだね?

……
可哀想に。沈んでいるのよ。

お城から追い払われるんだもの!

フィガロとスザンナは、ケルビーノのことも助けてやろうと頑張ります。
こんなめでたい日に!
婚礼の日に!
誰もが貴方様をたたえております時に!
ケルビーノも何とか挽回を試みます。彼は伯爵の前にひざまずくのです。
お許しを、お殿様
そちは、それに値せぬ
彼は、まだ子供でございます!
そなたの思うほどではないぞ
仰る通り。僕は過ちを犯しました。

だけど、いざとなったら、この口から……

(僕が知ってること、全部しゃべっちゃうぞ!)

(いやいや、それは困る!)
慌ててケルビーノに手を貸し、立たせる伯爵。

実はケルビーノも、元は貴族の出なので、そう簡単にクビにはできないのです。

よし分かった。私はそなたを許すぞ。

いや、それ以上のことをしてやろう。


我が連隊の士官の口に、一つ空きがある。そなたを任ずることにする

伯爵としては、自分の恋の邪魔になる少年を追い出せるし、士官のポストなら彼の実家の面子も立つので、一石二鳥といったところです。
すぐに出立せよ、ケルビーノ。さらばだ!
言い捨てて伯爵は出て行こうとし、フィガロとスザンナが引き留めます。
ああ、せめて明日にしてやって下さい
ならん。すぐに出立するように
これは不意打ちぞ!

(やった。いいこと思いついちゃった)

(これは受難だ……)

仰せに従います。お殿様。すでにそのつもりです

さあ、これが最後だ。スザンナを抱きなさい
……
……(ああ、可哀想なケルビーノ)
ケルビーノは、困惑しているスザンナを抱きしめます。

しかしここでフィガロが、また一案をひねり出すのです!

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