第44話 ハッピーな序曲と、モーツァルトの時代

文字数 2,246文字

皆様、新年あけましておめでとうございまーす
今年もよろしく、なのだ
……うう
ど、どうしたの、ウサギさん⁉

新年早々、腹痛でも?

調子に乗って、モチを食い過ぎたんだろ
ちがーう!

専門家でもないのにモーツァルトを解説するという、あまりの僭越ぶりに、自分でそら恐ろしくなったんだってば

そんな、さんざん偉そうな発言をしておいて、今さら何を
そう、今さら後には引けません……(半泣きの作者)。
あれ、モーツァルトなんだ?

実はサバ君と、新年だからヨハン・シュトラウスじゃないかって予想してたんだけど

そう。喜劇といえばオペレッタだって、テレビで言ってたよ?
二人はウィーン・フィルのニューイヤーコンサート中継をテレビで見て、このような予想を立てていたそうです。
うん。いずれはオペレッタを取り上げるのもアリだね。

でも今回はモーツァルトにさせて下さい(ウィーンつながり、と言えなくもないし)。

何しろこのチャットノベル、ほぼ「上演頻度」順に取り上げていますので

そうだったのか。今さら知った
この大人気作品を取り上げないのは、逆に不自然ってもんでしょ。


というわけで……

三つ目の演目はこちら。新年最初の投稿ということで、どど~んと行っちゃいますよ!


ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトのオペラ、『フィガロの結婚』でーす

初演当時のポスターはこちら。

まずはタイトルをご覧下さい。


この時代、オペラの本場はイタリア。

ドイツ・オペラはまだ勃興期です。というわけでモーツァルトはイタリア語でこのオペラを作曲しましたが、聴衆はドイツ語圏の人々。なのでイタリア語とドイツ語の併記になっています!

いきなりですが、序曲を聴いてみましょう!

ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートでは、シュトラウス家の曲が定番ですが、モーツァルト生誕250年の年には、この序曲が演奏されました。


華やかな雰囲気なので、普段のコンサートのアンコール・ピースとしてもよく使われる曲です。約4分と短めですが、大曲と同様のソナタ形式を踏んでおり、第一主題、第二主題が順に現れます。

この曲、本編の歌のメロディーはまったく出てこないのに、このオペラの顔となっているんですよ!


始まって間もなく、喜びが爆発するようなフレーズがあります。

マニアはここで「ああ、フィガロだ!」「フィガロが始まる!」とワクワクするのです(笑)

世界的に人気が高く、日本での上演回数も多い『フィガロの結婚』。

ただし成立年代が古い(初演は1786年)こともあり、物語にはやや難解なところも。

作品世界に入る前に、モーツァルトの時代についてちょっとだけ触れておきましょう。

さてさて。

これまた唐突なんですが、この絵、見たことある?

ん?

美術の教科書か何かで見たような、見なかったような……

うん、フラゴナールの『ぶらんこ』(ロンドン、ウォレス・コレクション蔵)だね。

ロココ美術について説明される時、大抵この絵が使われます

なんか、ちょっと嫌らしいんだよねえ、この絵(苦笑)。

下の男の人、どう見てもスカートの中を覗いてるでしょ

女の方も、わざと見せてるよな~。

しかも、それを後押ししてる使用人? あいつは何なんだ

まさにロココは官能の時代なんだよ。

エレガントな下ネタが最高にかっこよかったの

え~、何それ~!

下ネタを入れたら、下品になりそうだけど?

今の感覚だと、そうだよね。

ロココの前にはバロック美術の時代があったんだけど、それって大雑把に言えば絶対王政の時代に当たるの。


バロックの芸術では真面目でドラマチックな表現が好まれたんだけど、王様の権力が徐々に弱まってきたロココの時代には、人々はあまりに大げさなものを「ダサい」と感じるようになったんだね。

この一種の「洗練」が、笑いとエロスに凝縮されていくんだ

モーツァルトの話から、エロスかよ
だって、モーツァルトはロココの申し子みたいな作曲家だもん。

下ネタ好きだったんだもん

何かショック。

モーツァルトの音楽って上品なイメージがあるのに……

うん。その気持ちは分かる!


モーツァルトの美しいメロディーを聞いて「どんなに高尚なことを歌っているんだろう?」と日本語訳を見てみると、下世話な内容だったりするんだ(笑)。

でも、そこで冷めてしまうのは、もったいないかな〜

モーツァルトも、何か狙ってたんじゃね?
モーツァルトは多分、恋愛感情や性欲を最も人間らしい、愛すべき特性として捉えていたんじゃないかな。

だからこそ、最高に美しい音楽で包んで表現したんだよ

「天才!」とか「名作!」とか、崇め奉られているうちに、その作品に本来備わっていた「牙」が抜かれてしまうこともあるかもね
う〜ん。

だけど堂々と「エロス万歳!」とまで言われると、今の感覚とはちょっと違うかもな

確かに、前置きなしにいきなりエロいオペラを見たら、「何だこりゃ」って感じになっちゃうかもね
そうなの。オペラに出てくる「エロ」表現にびっくりしないでね(笑)。


それからもう一つ、18世紀後半というと、ヨーロッパでは革命前夜だということも押さえておいて。

啓蒙思想が広まり、市民たちが自分でものを考え、搾取する王侯貴族に厳しい目を向けるようになってきている時代です

啓蒙思想か。そういえば、モンテスキューとか、ルソーとか、世界史で習ったな~
まさに、そういう時代に『フィガロの結婚』は誕生したわけです!

次回はもう一歩、作品世界に近づいてみましょう

参考:許光俊『オペラ入門』講談社現代新書

   岡田暁生『オペラの運命 19世紀を魅了した「一夜の夢」』中公新書 ほか

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