第14話 「ミカエラのアリア」

文字数 1,281文字

先ほどカルメンたちが通った暗い山道。

今度は、被り物で顔を隠した女性がやってきます。

おい、お嬢さん……オレの案内はここまでにさせてもらうぜ。

この先はやばいぞ。本当に一人で行くのか?

ええ。ここまででいいわ。ありがとう

(被り物を取り、お金を払う)

……気をつけてな

(心配そうにしながらも、自分はそそくさと帰る)

え、え~!!

ミカエラちゃん、もしかして一人でホセの所に行こうとしてる?

これはヤバいぞ! 若い女が一人でヤクザのアジトに行くなんて、正気の沙汰じゃねえ
まさにその通り。

だけどミカエラは、危険を承知でこうしなければならなかったんだ。

その理由は後で分かります

思いつめた表情で山道にたたずみ、一人で歌い出すミカエラ。
怖くないわ。

何を恐れることがあるでしょう

もちろん、本当は怖い。

怖くて死にそうだわ。


だけど、あの女の顔を近くで見てやるの!

危険だけれど美しい女。

私の大事なあの人を駄目にしてしまった、あの憎らしい女。


恐れてちゃいけない。

私、がつんと言ってやるわ。


ああ。

主よ、私をお守りください


恐怖心と戦うミカエラの心情を歌い上げる「ミカエラのアリア(何を恐れることがありましょうか)」。

こちら、日本人ソプラノの大村博美さんの歌が素晴らしいです。ぜひご覧下さい

主要登場人物の中では、比較的陰の薄いミカエラ。

だけどこの歌の出来次第では、「今日はカルメンよりもミカエラが良かったー!」という感想を抱きながら帰ることもあるぐらいです。


ソプラノの歌では可愛らしい声が求められるけど、ここでは決意を示す歌なので力強さも必要。キンキン声にならずに覚悟のほどを表現できていたら、その歌手の方に大拍手を!

ミカエラは今回も、ホセのお母さんに頼まれてやって来たって言ってるね

それって本当か?

ホセのお母さんがどんな人か知らんが、若い女の子にこんな無茶をさせるかな

事情は後で明かされるので、もうちょっと待ってね。


それから、舞台ではあまり過去の説明はされないんだけど……

実はミカエラは孤児で、ホセの家に引き取られて一緒に暮らしてきたんだ。だからホセが出奔した後も、彼のお母さんと同居しているの。


ミカエラは育ててもらった恩もあるし、敬虔なキリスト教徒だから、すすんでお母さんの面倒を見ているのかもしれないね

いや、そういう事情があるにせよ……

元カノに実母の介護を押し付けるだあ~!?

ふざけんな、ホセ。お前、すぐに実家に戻れ!

そうなんだけどね。

ホセは、自分がどんなに悪いことをしているか、分かってるんだよ。

だからこそ、彼の苦悩も深いんだよね

可哀想だよう~……

頑張れミカエラ! 応援するよ!

焚火の跡を見つけるミカエラ。

熱が残っているので、まだ時間が経ってはいないようです。

ええっと……。

この辺、よね……?

あ!

岩の上にいるのは、ホセだわ!

そのとき。

ホセが銃を構え、ダーンと銃声が響きます。

びくっと体を震わせるミカエラ。

あー!!

やっぱり駄目。

怖い。怖すぎる!

自分が撃たれたわけではないけれど、ミカエラにはもう耐えられません。

耳をふさぎ、泣き出しそうになって物陰に隠れます。


すると、今度はまた別の人物が現れるのです。

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