第4話 「ハバネラ」・「手紙の二重唱」

文字数 1,895文字

カランカラン、と鐘の音が響きます。

タバコ工場が、昼休みになったのです。広場の男たちは急にそわそわし始めます。

さあ、女を引っかけるぞ。

早く出てこい、女工たち!

続いて、しどけない姿の女工たちも出てきます。

もちろん、男たちが手ぐすね引いて待っているのを知りながら……

(やれやれ、やっと午前の仕事が終わったわ)

この一服が最高ね。

タバコの煙はふっと消えて、まるで一瞬で終わる恋のようだわ……

あれっ。前から三番目の女工はうちの母ちゃんか!?

母ちゃん、胸元を出し過ぎだよ……。

オレもう恥ずかしくて学校に行けねえ……。

ここで突然流れる、不穏な音楽。
待て。カルメンシータがいないぞ! どこだ?
いた。あそこだ!
さっと人垣が割れ、ようやくヒロインが現れます。

にんまりと笑う、黒髪の美女。

……

男たちは待ってましたとばかりに、カルメンに群がります。

カルメン、いつになったら愛してくれるんだ?
答えてくれ、カルメン! いつになったら振り向いてくれるんだ?
いつ、だって?
そんなの分かんないよ。一生ないかもしれないし、明日かもしれないし。

でも、今日でないことは確かだね

みんながっくり。でも笑っちゃいます。
うわ~。やっぱりカルメンの登場シーンってインパクトあるなあ。

劇場の空気が変わっちゃったよ

こんなにモテる女って、いるかあ~?
「ハバネラ」は名曲中の名曲だね。

よろしければ、こちらの動画もぜひ! コンサート映像ですが、フランス語と日本語の歌詞が字幕で出るので、分かりやすいです。

歌手はウサギが大ファンの、エリーナ・ガランチャさんです。

「ハバネラ」とは「ハバナの」という意味(とうがらしのハバネロも同じ意味です)。


実はこの曲、盗作疑惑があります。この曲を聞いたイラディエルという作曲家が、自分の作品と同じメロディーだと訴えたところ、ビゼーは借用を認めました。著作権のない時代ですが、悪いという認識はあったようです。ビゼーは民謡だと思い込んでいたとか。


でも聞いてみると、原曲は全く趣が異なります(長調で、明るいイメージ)。「ハバネラ」は短調で始まる、暗くドラマティックな曲なので、まったく別物と言って良いのではないでしょうか。悪女カルメンの性格や生きざまを表現できており、これ以上このシーンにふさわしい曲はありません。

なおもカルメンに群がろうとする男たち。


だけど当のカルメンの視線は、自分のことなど見向きもしない一人の男に吸い寄せられていくのです。

(あら。いい男じゃない。

でも何で鎖なんかいじってんの? このあたしを見ようともしないなんて、かわいくないわね!)

胸元から一本の花を、悩殺ポーズで取り出すカルメン。

(しかも、チュッとキス)

そして、その花をホセに投げつけます!

……!
カルメンは走り去りますが、ホセは地面に落ちた花を拾ってしまいます……。
むむむ?

これは意味ありげなシーンですね

クッキーちゃん、鋭い!

その通り。ホセの運命がここで決まってしまいました。

拾わなければ良かったのに……というニュアンスが、この後に続くオーケストラの切ないメロディーで表されます。


この時のホセの気持ちは、第二幕の「花の歌」で切々と歌われます

な……何だよ、あの悪魔のような女は!

目つきも厚かましいな(激しく動揺)

絶妙なタイミングで、再びミカエラが登場!
ドン・ホセ!
ミカエラ!

(……と、慌ててさっきの花をポケットへ)

お母様のお使いで来たの

ここで歌われるのが、ホセとミカエラが故郷を懐かしむ「手紙の二重唱」。

先ほどの「ハバネラ」の不気味さと対照をなすような、穏やかで美しい旋律です。

この後も二人の故郷を思い出させるシーンでは、繰り返しこの旋律が出てきます。

日本人と西洋人の歌手が交じっていると、最初は違和感を覚えるかもしれませんが、すぐに見慣れます。オペラの世界では、ビジュアルより声が重要。
次の動画は、字幕は英語ですが同じ場面です。

こちらはもう少し時代設定が新しい印象ですね。ミカエラの斜めがけバッグは、メッセンジャーである彼女の役割を表しているんでしょう

お互いの額(二つ目の動画ではお母さんの写真)にキスをし合う二人。

これは「伝言」です。ミカエラのキスは、ホセのお母さんから。

お返しにホセは「お母さんに」と言って、ミカエラにキスを返すのです。


心からほっとしたように微笑むホセ。

ああ、良かった。

母さんのキスが、僕を悪魔から守ってくれた……
悪魔? 何のこと?
何でもない! 何でもない!(汗)
ちょっとお~。

ホセってば、本当にミカエラのことを想っているなら、さっきの花を捨てるべきなんじゃないの?

捨てられないところが、カルメンの魔力なんだろうねえ~
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