第80話 勘違いの嵐

文字数 1,674文字

第3幕 第12~14景
最悪のタイミングで、伯爵がやってきます。
さあ、我がスザンナはこの辺りにいるかな?
わわっ!

やっぱり来ちゃったよ、この人!

全く気付かず、スザンナ(に見せかけた伯爵夫人)に迫るケルビーノ。
ねえ~、僕とキスしてよ、スザンナ~
(小声で必死に)

ダメ、ダメ!

あっちへお行き!

いいじゃ~ん、これから伯爵とするんでしょ~?

僕とも、キスぐらいしてくれたって

伯爵はケルビーノの存在に気づき、かっとなって近づいていきます。

おのれ、悪戯小僧め(怒)!
スザンナを守ろうとして、二人の間に割って入る伯爵。


しかし……


ブチュ。


……ケルビーノと伯爵は、思いっきりキスをしてしまいました。

ひい〜!
ううっ……何でこうなるんだ
一方、別方向から近づいてきたフィガロ。

スザンナと伯爵はこれからお楽しみを始めるところだと、まだ思い込んでいます。

クソっ。二人の邪魔をしてやるぞ
おのれ、小姓め。

二度とこのようなことをせぬよう、これを喰らうがいい!

パーン!


平手打ちを食らわせますが……

あれあれ? 叩いた相手はケルビーノではなくフィガロではありませんか。

また訳の分からんことが。

何でこうなるんだ?

しかし気づけばケルビーノは逃げていったようですし、フィガロも頬を押さえて退散していきます。

こうなったら、伯爵はにんまり顔。

まったく、詮索好きのために大したもらいものをしたな。

まあ良い。邪魔者はこれで消えた。


おいで、私の想い人よ

(すすっと伯爵に近づいていく)
ああ、素直だね。良い子だね。

(夫人の手を取り)

なんと可愛らしい手だ。そそられてしまうよ

持参金の他に、ダイヤモンドもそちにやるぞ

(と言って自分の指輪を外し、夫人の指にはめる)

(声色を変えて)

スザンナはすべてもらいます

今夜はやけに積極的だな。

でも最高潮はまだこれからだぞ

甘ったるい声で伯爵はスザンナを誘い、館へ連れ込もうとします。

ところがここで、まだ周囲をうろうろしているフィガロの姿が見えてしまうのです。


見とがめられてはなりません。別々に館に入って行こうということになり、いったんこの二人は別れます。

ああ……ギリシア神話のヴィーナス、マルス、そしてウルカーヌスのように、僕は不倫の真っ最中の二人を捕らえねばならないのだ
フィガロは大真面目に言っているのに、近くの茂みの中から咎める声が。
ちょっと、静かになさい、フィガロ!
フィガロの目に入ったのは、伯爵夫人の被り物です。
こ、これは奥方様ではありませんか。

ちょうど良かった。二人の不倫現場に、一緒に飛び込みましょう!

だから、もうちょっと小声で話しなさいよ(地声)
(独白)

あ、あれ……スザンナ?

(まだ伯爵夫人に扮しているつもり)

復讐してやりましょう。わたくしとそなたも不倫をやって見せるのよ


(ああ、フィガロ。イエスと言ったら許さないからね!)

(騙されているフリ)

奥方様!

嬉しいです。実はずっとお慕い申し上げておりました…

何ですって(怒)!

パン、パン、パン!


怒り狂ったスザンナの平手打ちが(台本に従えば7〜9回)フィガロを襲います。
さっき伯爵からもパンチを喰らったのに。

フィガロ、ちょっと可哀想~

これを喰らえ!
イテテテ

やめろ、スザンナ。本気じゃない。

声で君だとわかって、わざとからかったんだ。


でもこれは、愛の鞭だね…

僕は何て幸せなんだ

や、やだもう、フィガロったら♡
すぐに仲直りした二人。

暗闇でギュッと抱き合います。

二人の歌声が混じり合い、オーケストラが盛り上げます。



ところがまた、近くからあの人の声が…

スザンナ、どこだ?

見失ってしまったぞ

あの人を懲らしめてやらねば気がすみません。二人は夫人のためにも「伯爵夫人とフィガロ」の不倫現場を演じ続けることにします。
あーん、悪い人ね。

わたくしをその気にさせて…

奥方様、僕も興奮しまくりです。

さあ館に入って、ゆっくり続きを…

ぎょっとする伯爵。

この人にとって、夫人の浮気は耐えられるものではありません。

フィ、フィガロの奴〜!

妻を誘惑するとは!


成敗したいが、ちきしょう、剣の持ち合わせがない

怒り狂った伯爵は、どうするのでしょうか。

次回、いよいよ最終回です。

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