第28話 「君のいない生活なんて」・「この恥辱」

文字数 1,664文字

さてさて。

あれから二人はどうなったの?

気になるのは、そこだよね。

でも大丈夫。このすぐ後に、アルフレードが事の顛末を教えてくれます。


『椿姫』には間奏曲がなくて、休憩後にそのまま第二幕が始まりますよ~

第二幕・第一場
冬。パリ郊外の、ヴィオレッタの別荘にて。

狩りに出かけていたアルフレードが帰宅します。つまらなそうに、銃を召使いに渡すアルフレード。

彼女が側にいないと、楽しくないな
もう三月になる。

ヴィオレッタは富も名声も、華やかな生活も捨てたんだ。

あんなに人々のお世辞を浴び、その美貌で男という男を服従させていたのに


今ではこの田舎の静かな暮らしに満足している。

僕のために、彼女は全てを捨ててくれたんだ

おー、そうだったのか。

ヴィオレッタはあんなに悩んでいたけど、やっぱりそっちへ行ったんだな

二人は同棲してるの?

アルフレードは幸せそうだけど……。

ヴィオレッタは愛人稼業だったんでしょ? 

パトロンが去って行っちゃったら、生活の方は大丈夫なのかな

いや、まさにそこなのよ。

この後、じわじわと現実の厳しさが二人を襲ってきます

僕は生まれ変わったようだ。

彼女の愛の息吹でよみがえり、

彼女の愛のために、過去のすべてを忘れたんだ

僕の燃えたぎる魂の、青春の情熱を

彼女の愛が鎮めてくれた。

彼女は告げてくれたんだ。あなたのために誠実に生きたいと

幸せで胸いっぱいのアルフレード。

しかしヴィオレッタの召使い、アンニーナが旅装でこそこそと戻ってくると、何かおかしいと気付きます。

アンニーナ、どこへ行ってた?
……パリです
誰に頼まれて?
……奥様です
アンニーナをしつこく問い詰め、アルフレードは事態を理解します。

ヴィオレッタは二人の生活費を捻出するため、自分の馬や馬車、その他の財産を処分していたのです。

なぜ黙ってた(怒)?
(怒りたいのはこっちよ)

口止めされていたんです!

(はあ~っとため息)

差し当っていくら要るんだ?
……1000ルイほど
よし。僕は今すぐパリへ行くぞ。

今なら取り返せるだろう


(アンニーナに向かい)下がって良いぞ

一人になったアルフレードは、経済状況を把握していなかった自分を恥じます。
おいおい、アルフレード。

あんた、生きている以上は生活費がかかるって知らなかったの⁉

お坊ちゃん魂、炸裂!だな
うん、まあ、そういうツッコミを受けるであろうことを、

アルフレード自身もすぐに気づくんだよね。

だからこの直後、極端なほど反省するの

真面目なアルフレードは、ヴィオレッタのみに苦労を背負わせてしまった自分を激しく恥じ入ります。

ここで歌われるのが「ああ、この恥辱、悔やまれる」という歌です。


最後の部分、「この汚名はきっとそそいでみせる」という歌詞は何度も繰り返されますが、ここも後の伏線になっています。

ああ、この恥辱、悔やまれる

だが事実が、僕の愚かな目を覚まさせてくれた

彼女に養ってもらうなんて

このような生活に甘んじるとは……

この身の誇り、この不名誉、きっと挽回してみせる

恥辱で顔が赤らむ

この汚名は、きっとそそいでみせる

アルフレードは慌ててジャケットを羽織り、パリへ出かけて行きます。
こちらの動画は二曲続けてのもの。イタリアのジュゼッペ・フィリアノーティさんはリリック・テノール(軽めで優雅さや甘さのある声質)の名手だそうです。


一曲目は、幸福の絶頂のアルフレードによる「君のいない生活なんて考えられない(燃えたぎるような青春の情熱を)」。


自分たちの生活実態を知るアンニーナとの会話をはさんで、


二曲目は「後悔してもし切れない(ああこの恥辱、悔やまれる)」。慌てて身支度を整え、パリへ向かうところまで。


男声は、まずは高さでテノール・バリトン・バスなどと分類されますが、さらに声質に応じて細かく分類されます。

テノールの場合、リリック・テノール、スピント・テノール、ドラマチック・テノールの順で軽い声質→重い声質となります。他にブッフォ・テノール、キャラクター・テノールなどがあります。作曲の時点で声質までが考慮されていることが多いので、歌手によってそれぞれ演じられる役柄が異なります。

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