第43話 『イル・トロヴァトーレ』・『ナブッコ』
文字数 1,743文字
時は15世紀初め。
スペインのビスカヤ地方の山中で、アズチェーナというジプシーの女が昔話をします。
ところがそれは、自分の母親が魔女狩りで火あぶりの刑になったという内容。
周囲の人々は半信半疑で聴いていますが、おどろおどろしい雰囲気に息を呑んでいます。
アズチェーナの言葉によると……
その魔女狩りの混乱の中、彼女は母親を追い詰めた人間を憎み、その家の息子を盗んできたんだって。子供を殺すことで、敵討ちをしようとしたんだね。
そして、盗んできた赤ん坊を炎の中に投げ込んだんだけど……
何と彼女はここで間違えてしまったの。殺したのは、自分の子供だったんだ
まさにこういう強引さ、不自然さがオペラの物語の弱いところかも(笑)。
だけどアズチェーナは代わりに、盗んできた子に愛情を注ぎ、自分の子として育て上げるの。そういう部分には説得力があるし、ドラマティックな展開に一役買っていると思うよ
このオペラが作られた頃、今のイタリアにはまだ統一国家がなくて、小さな領国がそれぞれ他国の支配を受けていたの。だけどそんなイタリアでも統一運動が起こり、自分たちの国を立ち上げようとする、まさにそんな時期でした。
だから『ナブッコ』を観た人々は、祖国を想うイスラエルの民に自分たちを重ねたんだよ
独立を願う当時のイタリア人は、支配者であるオーストリアの官憲の目を恐れて過激な言動は慎んでいたんだ。つまり「イタリア万歳!」とは言いたくても言えなかったの。
その代わりに「ヴェルディ万歳!」を叫び、この歌を歌ったんだって。イタリア人にとって、この歌が心の故郷になっていったんだね
オペラでは通常、特定のアリアのみをアンコールで歌うことはありません。
だけどこの時、聴衆の方がどうしても感動を抑えることができず、拍手とアンコールの嵐に。
指揮者のリッカルド・ムーティさんは迷いつつも、応じました。この時だけは特別に、聴衆と合唱団を一緒に歌わせることにしたのです。
画像はやや不鮮明ですが、一部始終を日本語字幕で説明してくれているこちらの動画がおすすめ。
歌いながら、ボックス席、平土間席問わず、全員が立ち上がっていきます。涙を流しながら歌っている姿が感動的です。