第43話 『イル・トロヴァトーレ』・『ナブッコ』

文字数 1,743文字

ヴェルディの楽曲紹介を続けます。


お次はこちら。

『イル・トロヴァトーレ(吟遊詩人)』というオペラも、その激しい内容から大変な人気です。その中から、「炎は燃えて」というアリアを聴いてみましょう!

時は15世紀初め。

スペインのビスカヤ地方の山中で、アズチェーナというジプシーの女が昔話をします。

ところがそれは、自分の母親が魔女狩りで火あぶりの刑になったという内容。

周囲の人々は半信半疑で聴いていますが、おどろおどろしい雰囲気に息を呑んでいます。

炎はうなり声を上げる……

犠牲者は現れる。黒い服で。

着崩れて。裸足で。

激しい叫び。死を迎える叫び……!

こ、これは何か怖いぞ~!
残酷だね。火あぶりの様子を、みんなが喜んで見ているなんて……
それだけ恐ろしい目に遭ったので、彼女は復讐しようとしたんだ
復讐? 何をしたんだ?

アズチェーナの言葉によると……

その魔女狩りの混乱の中、彼女は母親を追い詰めた人間を憎み、その家の息子を盗んできたんだって。子供を殺すことで、敵討ちをしようとしたんだね。


そして、盗んできた赤ん坊を炎の中に投げ込んだんだけど……

何と彼女はここで間違えてしまったの。殺したのは、自分の子供だったんだ

え~、そんなことってある⁉

いくら何でも……

まさにこういう強引さ、不自然さがオペラの物語の弱いところかも(笑)。


だけどアズチェーナは代わりに、盗んできた子に愛情を注ぎ、自分の子として育て上げるの。そういう部分には説得力があるし、ドラマティックな展開に一役買っていると思うよ

不気味だけど、何か惹かれるものがあるね〜
『イル・トロヴァトーレ』は物語が過激なだけでなく、騎士や吟遊詩人など、中世ヨーロッパの雰囲気が盛りだくさんで見ごたえあり。

この演目から「オペラ中毒」になる人も多いんだって

最後に、ヴェルディの出世作『ナブッコ』をご紹介させて下さい!

こちらは旧約聖書のバビロン捕囚を元にした物語なんだけど…

へえ〜。

『アイーダ』は古代エジプトで、『ナブッコ』は古代バビロニアなんだ

そうなの。ナブッコは「ナブコノゾール」の略称で、バビロニアの王、ネブカドネザル二世のことです
古代文明が好きだったんだな、ヴェルディは
スケールが大きい感じがするよね~
バビロンに連れて来られたヘブライ人たちは、失われた故郷を思い、心を一つにして歌います。


ここが重要なの! ヴェルディがイタリアを代表する作曲家になったのは、この歌のお陰だから

ん? その歌に何があったの?
このオペラが作られた頃、今のイタリアにはまだ統一国家がなくて、小さな領国がそれぞれ他国の支配を受けていたの。だけどそんなイタリアでも統一運動が起こり、自分たちの国を立ち上げようとする、まさにそんな時期でした。


だから『ナブッコ』を観た人々は、祖国を想うイスラエルの民に自分たちを重ねたんだよ

『ナブッコ』で有名な歌は、「行け我が思いよ 黄金の翼に乗って」

イタリアでは第二の国歌とも言われる歌で、今も非常に愛されています

それで、ヴェルディ=イタリアっていうイメージができたのか

独立を願う当時のイタリア人は、支配者であるオーストリアの官憲の目を恐れて過激な言動は慎んでいたんだ。つまり「イタリア万歳!」とは言いたくても言えなかったの。

その代わりに「ヴェルディ万歳!」を叫び、この歌を歌ったんだって。イタリア人にとって、この歌が心の故郷になっていったんだね

というわけで、ぜひ見て頂きたいのがこちらの動画。


オペラはイタリアの誇る文化なのに、政府からの助成金が大幅削減……。そんな時に行われた公演の一コマです

オペラでは通常、特定のアリアのみをアンコールで歌うことはありません。

だけどこの時、聴衆の方がどうしても感動を抑えることができず、拍手とアンコールの嵐に。

指揮者のリッカルド・ムーティさんは迷いつつも、応じました。この時だけは特別に、聴衆と合唱団を一緒に歌わせることにしたのです。


画像はやや不鮮明ですが、一部始終を日本語字幕で説明してくれているこちらの動画がおすすめ。

歌いながら、ボックス席、平土間席問わず、全員が立ち上がっていきます。涙を流しながら歌っている姿が感動的です。

何だか羨ましいな。

日本にも第二の国歌があったら良かったのに

いつか、そんな名曲が生まれるといいね
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