第37話 第三幕への前奏曲

文字数 1,405文字

さてさて、間奏曲のない『椿姫』だけど、この第三幕にだけ特別に前奏曲が付いているんだ
特別? 第三幕だけ?
何でまた、そんな構成にしたんだろう?
たぶんヴェルディは「狙って」そうしてるんだよね~。

最初の前奏曲の、最初の旋律がまた出てくるよ。だけどより静かで悲し気に演奏されるの。そして喜びを表す旋律は、もう出てこないんだ

こちらの動画、指揮者は故ゲオルク・ショルティさんです。

ショルティさんはユダヤ系だったこともあり、戦争の時はずいぶん苦労をされたそうです。戦後は音楽の力で平和を実現しようと、さまざまな試みをしたことが知られています。

第三幕
一か月後。薄暗い、ヴィオレッタの病室。


シーツや寝間着には、吐血した跡が。

咳き込むヴィオレッタ。急速に病状が悪化していることが感じられます。


……アンニーナ
(居眠りをしていて、ビクっと目覚める)

……すみません

お水を、一口
慌てて駆け寄り、ヴィオレッタに水を飲ませるアンニーナ。
もう日は高くて?
7時です
明るくして。窓を開け、光を入れて
アンニーナが光を入れると、同時に来客が。

少しして、アンニーナはグランヴィル医師を連れて部屋に戻ってきます。

グランヴィル先生……! うれしいわ。お優しいこと
……

(必死に笑うものの、ヴィオレッタの痛々しい姿に言葉が出ず)

ヴィオレッタは立ち上がろうとし、グランヴィル医師は慌てて彼女を椅子に座らせます。

他に見舞いに来てくれる客はほとんどいないので、ヴィオレッタはグランヴィル医師に対しひたすら恐縮しています。

先生……私のために、朝早くから……
ご気分は
……体はつらいのですけれど、気持ちは落ち着いていますの。

神父様が、ゆうべ慰めて下さいましたから。信仰は救いですわね

……あとはお気持ち次第。

きっと良くなりますよ

情け深い嘘をお付きね
グランヴィル医師を見送りつつ、アンニーナはこっそり聞きます。
先生……いかがでしょう?
結核もここまで進んでは……

もはや時間の問題です

わっと泣き崩れるアンニーナ。
うわ~ん。キレイだったヴィオレッタが、急に痛々しい姿になっちゃった
フローラのパーティーから一か月後なんだろ?

ずいぶん急速に悪くなったんだな

そうなの。こういうことって、現実にあるんだよね
アンニーナが病室に戻ってくると、ヴィオレッタは一通の手紙をじっと見つめています。

(手紙の朗読は次回で!)

暗い病室と対照をなすように、外からは賑やかな声が聞こえてきます。

今はお祭り?
謝肉祭です
バカ騒ぎの様子が聞こえてきます。

ヴィオレッタは昔、自分もそういう狂乱の中に身を置いていたことを思い出します。

楽しい騒ぎの陰で、どれだけの人が苦しんでいることでしょう
手元にいくらあって……?
20ルイほど
10ルイ、貧しい人に届けて
手持ちの資金は、ほとんど底をついています。

アンニーナは当然戸惑います。

すると、残りがいくらも……
私には、それで十分
残された時間がわずかだと気付いているヴィオレッタ。

今の望みは、愛するアルフレードにもう一度会うことだけです。

ねえ、手紙を見てきて。

いいから、見てきて!

アンニーナを急かし、外へ行かせるヴィオレッタ。

アルフレードからの連絡をひたすら待っているのです。というのも、彼がいずれここへ来ると聞いているから。

ん?

アルフレードはろくに見舞いにも来ていないようだけど……

連絡はあったってこと? さっき手に持ってた、あの手紙かな?

そうなの。

事情は次回、手紙の朗読で分かります!

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色