第31話 「プロヴァンスの海と大地」
文字数 1,960文字
パリから戻ってきたアルフレード。
泣きながら書き物をしているヴィオレッタを見て、不思議に思います。
ヴィオレッタの不自然な様子を、アルフレードは怪訝な表情で見つめます。
泣き笑いをしながら、両手を広げ、あとずさりをするヴィオレッタ。
ジェルモンから何を命じられたのか、言うわけにはいきません。この上ない苦しみです。
やがて彼女は、力の限り叫びます。
ヴィオレッタは走り去ります。
様子が変だと思いながらも、黙って見送るアルフレード。
まさかこれが別れの時だとは、知る由もありません。
呑気に構えているアルフレードの元へ、ジュゼッペがやってきて報告します。
さらに使いの者がやってきて、手紙が届けられます。
お礼を言って受け取るアルフレード。
出かけたはずの、ヴィオレッタからの手紙です。
そのとき初めて、彼は胸騒ぎを覚えます。嫌な予感がするのです。
震える手をどうにか抑え、手紙を開いたアルフレード。
そして、衝撃を受けます。そこにはかつての生活に戻るから、あなたとは別れるというヴィオレッタの言葉が書き連ねてあったのです。
アルフレードは慌てふためき、とっさに出て行こうとします。
しかし入口には、戻ってきたジェルモンがいました。
目を見開き、父親を見つめるアルフレード。
何が起こったのか、おおよそ理解するアルフレード。
呆然としながら首を振ります。
ショックを受けてしまった息子を、何とか落ち着かせようとするジェルモン。
ここでジェルモンによって歌われるのが、「プロヴァンスの海と大地」という曲。
美しい故郷を思い出させる内容で、バリトンの歌の中でも、名曲中の名曲とされています。コンサートでもよく歌われる曲です。
しかし今のアルフレードには、どんなに美しい歌も、どんなに懐かしい思い出も、受け入れる余裕はありません。
この説得の最中に、アルフレードはあるものを見つけます。
それは置きっぱなしになっていた、フローラのパーティーの招待状。
絶望の中にあるアルフレードは、思わずかっとなってしまうのです。
ヴィオレッタは、派手で享楽的な生活が恋しくなってしまった。だから自分と別れようとしているんだ。
アルフレードはそのように思い込みます。
父親の制止を振り切り、アルフレードは乱暴に足を踏み鳴らして出て行きます。
ジェルモンは後を追いかけますが、怒り狂った息子にはとても追いつけません……。