第39話 「獣様のお通りだ」・「パリを離れよう」

文字数 1,516文字

悲嘆に暮れるヴィオレッタ。

謝肉祭が行われている町からは、楽し気な歌が聞こえてきます。

さあ、どいた。道を開けろ!

祭の主のお通りだ

角に花とブドウのお牛様

仮装してる陽気なみんな

お牛様に祝いの歌を

パリのみんな、どいたどいた

角笛吹いて、迎えよう

絶望しているヴィオレッタは、聞きたくないとばかりに頭を抱えます。
「バッカナーレ」は「バカ騒ぎ」を意味し、酒神バッカスの熱狂的な祭、またはその喧噪を表現した楽曲を指します。


こちらの動画はバッカナーレ「獣殿のお通りだ」の曲の部分。

弱り切ったヴィオレッタはベッドに横になっていますが、夢うつつといった感じで狂乱の宴を感じ取っているところです。

アンニーナが部屋に戻ってきます。
奥様! 今日は本当にご気分がよろしいのですね?
ええ……なぜ?
興奮しないとお約束を!

思いがけない良いことがあるものですから

はっとするヴィオレッタ。
……アルフレード? いらしたのね?
そうです!
お通しして!
ほぼ同時に、アルフレードが部屋に入ってきます。

二人は同時に叫びます。

会いたかった……!
うれしい……!
急ぎヴィオレッタの元へ駆け寄るアルフレード。

力の限り、ヴィオレッタを抱きしめます。そして涙を流しながら言い聞かせるのです。

僕が悪かった。何もかも分かっている
この胸のときめきで、僕の愛を分かって欲しい。

君なしでは生きられない

命あるうちに、また会えた。

こんなにうれしいことはないわ

どうか悲しみを忘れて欲しい。父と僕を許して欲しい
許す……?

すべては愛のためだったのよ

天も地も、もう僕たちを引き離すことはできない。

もう誰も、決して!

ここで歌われるのが、「愛しい人よ、パリを離れよう」という曲です。

もう絶対に別れるようなことはしない。これからはパリの喧噪を離れ、二人静かに幸せに暮らそうという歌詞になっています。

パリを離れよう。二人して暮らそう、愛の日々を。

そうしたら、これまでの苦しみは償われ、君の健康も蘇るだろう。

僕の命となり、光となり、未来は僕たちに微笑むだろう

パリを離れましょう。二人して暮らしましょう、愛の日々を。

そうしたら、これまでの苦しみは償われ、私の体も良くなるでしょう

二人が再会を喜び、ヴィオレッタの快復とこれからの幸せを信じる歌。でもその背後には、死の陰が忍び寄ってきています。聴衆はかえって深い悲しみを覚える部分です。

瀕死のヴィオレッタがアルフレードにもたれかかりながら絶唱するシーンなので、ここも演じるのは大変難しいそうです。


こちらは再び、METオペラの映像から。

ディアナ・ダムラウさんは、オペラ界のメリル・ストリープと呼ばれているそう(確かに似てる?)。胸を締め付けられるような、美しい歌声です。ぜひ聞いてみてください!

切ないけど……ヴィオレッタがまだ息のあるうちにこうして会えて良かったね
死の前の、束の間の幸せを噛み締めるシーンだね。


……あっ、サバ君が泣いてる!

うるせーよ。

泣いてねーよ(ティッシュを2,3枚わしづかみ)

いいんだよ~。この感情の高ぶりがオペラだもの
さあ早く、教会へ行きましょう。

あなたがお戻りになったお礼に

ダメだ、顔色が悪い
大丈夫よ。あまりに突然の歓びなので、寂しさに慣れた心が驚いただけ。

着替えよ、アンニーナ。

今は無理だ
行きたいの!
アンニーナが差し出した服を受け取り、ヴィオレッタは必死に着替えようとします。

しかし体に力が入らず、その場に倒れてしまいます。

……先生に申し上げて、アンニーナ
……
アルフレードが戻ったから、私、まだまだ生きたいの!
アンニーナはグランヴィル医師を呼びに走ります。

悔し泣きをするヴィオレッタは、アルフレードにすがり付いて叫びます。

あなたの他に、誰が私を救うことができて!
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