第56話 「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」

文字数 1,754文字

伯爵が見ている前で、フィガロは大げさな仕草でケルビーノに近づきます。
さて大尉殿。私めにも別れの握手を
……(泣きながら応じる)
(小声で)

君に話がある。出発する前に

……?
フィガロは、伯爵に聞こえるよう大声で叫びます。
さらば、愛しのケルビーノ。

何と一瞬にして変わることか、君の運命は!

ここで歌われるのが、フィガロの二つ目のアリア「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」

このオペラを代表するような、有名な曲です。


「蝶々」は浮気者、伊達男の意味。ケルビーノを激励する形で、からかっている歌です。でも本当のところは、脇にいるあの人への当てつけだったりして……

もう飛ぶまいぞ、この蝶々

夜も昼もあたりを飛び回り、美女たちの憩いを惑わす

可愛いナルシス、愛のアドニスよ

※ナルシス、アドニス、ともにギリシア神話中の美少年で~す!
もう許されまいぞ、こんなきれいな羽根飾り

軽やかな、洒落たその帽子

その長い髪、その雅な物腰


そのバラ色の女のような顔が、まさかまさかの兵士の中へ!

……!(軍隊って、そんな厳しい世界なの?)
大きな口髭、へばりつく背嚢

肩には銃、腰にはサーベル

高い襟、勇ましい顔つき

大きな鉄兜、それとも大きなターバン

名誉は多く、金は少なく!

ファンダンゴの代わりに、泥んこ道の行軍だ

……(マ、マジで⁉ 僕にはきつそうだ)
山越え、谷越え、

雪の中を、酷暑の中を、

ラッパの響きと、臼砲、大砲、重なり合い、

弾丸、轟音限りなく、耳をつんざき鳴り渡る!

……(そんなあ~。僕には無理だ~)
ケルビーノよ、いざ勝利へ!

軍人の栄光へ向けて!

軍隊式に全員が退場し、第一幕が終わります。
ケルビーノ、ビビりまくってんな
悪戯っ子ケルビーノも、こうなると可哀想だね~。

あの子は本当に軍隊に入れられちゃうの?

ケルビーノのことはご心配なく。フィガロには別の目論見があるのです。

少年はスザンナのことも誘惑しようとしていたので、フィガロとしてはちょっとお仕置きが必要と考えたのかもね。

お城での浮ついた生活とはまったく異なる、厳しい軍隊の生活。

稲垣俊也さん演じるフィガロは、力強くこの歌を歌います。ケルビーノはグルグル回され、小突かれ、突き飛ばされて、軍隊の過酷さを知らされますが……


この動画の演出の場合、ケルビーノは歌の途中で大事なことに気付きます。フィガロはちゃんと、伯爵への仕返しを考えてくれている!

ケルビーノは恐怖を乗り越え、フィガロと一緒にノリノリで軍隊ごっこを始めます。

伯爵は不機嫌になって、途中で出て行ってしまいます。フィガロ、ケルビーノ、スザンナの3人はやったー、と大喜び。

確かにこの解釈はアリ。秀逸な演出だと思います!

よろしければもう一つ、こちらの動画もご覧ください!

名曲「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」が誕生する瞬間を描いたワンシーンです

アカデミー賞を受賞した映画『アマデウス』より。

サリエリが作曲した「ダサい」行進曲が、モーツァルトのセンスにかかると、どんどん洗練された曲に生まれ変わり、ついにフィガロの歌うこの曲が誕生。そんなシーンです!

こ、これは……

面目丸つぶれのサリエリが、可哀想になっちゃうなあ

モーツァルトって本当に天才だったんだな

名曲をたくさん生み出したので、天才には違いないけど、実際にはモーツァルトも譜面の書き直しなど結構やっていたみたいだよ

そういえば、サリエリによるモーツァルト毒殺説っていうのも聞いたことがあるけど?
アントニオ・サリエリは、神聖ローマ皇帝、オーストリア皇帝に仕える宮廷楽長として楽壇の頂点に立っていた人物。モーツァルトよりもずっと高い地位にいました。彼の薫陶を受けた有名作曲家がたくさんいます。
モーツァルトと対立してしまったので、サリエリによる毒殺説は当時からささやかれていましたが、今は否定されているようです。

なので、サリエリはたぶん冤罪だね

えー! そりゃサリエリが可哀想だ……

悪いことばかりじゃないよ。この映画がきっかけで、サリエリの曲の良さも見直されているんだって。


というわけで、この映画は史実とはやや異なるようですが、モーツァルトの天才っぷりの描写、そして人間の嫉妬心にフォーカスした着眼点は素晴らしいですね!

これにて登場人物の対立軸を描いた第1幕が終了。

第2幕は、フィガロによる解決策と、その失敗に焦点が当てられます!

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