第3話 …とその前に「前奏曲」

文字数 1,920文字

あおぞら市文化会館は、ごく普通の多目的コンサートホール。

地域のイベントにも使われます。

建物、設備ともにかなり老朽化しており、住民の評判は芳しくありませんが……


……今日はせっかくのオペラ公演。楽しんでいきましょう!

今日は一階客席の前の方を、オーケストラピットとして使うみたい。

楽団員がすでに入って、音合わせをしているよ。

お父さ~ん。頑張ってね~。

(と、手を振るが気づいてもらえない)

オペラ専門の「歌劇場」の場合、舞台の手前に半地下の空間「オーケストラピット」があります(例:東京都渋谷区の新国立劇場)。

本来、楽団員はそこに入って演奏するのです。客席からはあまり見えません。

さあ、指揮者が入場してきました。みんな拍手で迎えます。

一瞬の静寂。いよいよ始まります!


まずは「前奏曲」です。聴いてみましょう!

(小声で)

すご~い。「高速」な前奏曲でした。

クッキーちゃんのお父さん、シンバルがバッチリ決まってたね。

お父さ~ん! よくやった(涙)!
オレもこの曲なら知ってる。小学校の音楽の授業で聞いたからな。
劇音楽の始まりに、まだざわめいている聴衆の注意を引くために演奏された器楽曲を「序曲」(オーヴァーチュア)といいます。劇全体の性格や、あらすじを説明するような曲で、次第に表現方法が固定化されていきました。

後に作曲家がもう少し自由な形式で作ったものを、「前奏曲」(プレリュード)と呼ぶようになります。『カルメン』の場合はこちらですね。「即興」に近いイメージです。

舞台が明るくなりました。

見えてきたのは、古い町並み。

第一幕
セビリアの町の広場。貧しい人々が行き交っています。

目の前にはタバコ工場。王宮も近いので、衛兵が守備についています。

兵士の一人が、人々を眺めて歌い出します。

人々が行ったり来たり。

暇だなあ……。

おっ。

なんか、軽薄な感じの男が出てきたよ?

この人がホセだっけ?

まあまあ、そう焦らないで。

この人はモラーレスといって、ホセの同僚だよ。

今日はアマチュア歌劇団の中の、トップクラスの方が演じているそうです

※以下、物語部分は

安藤元雄訳『オペラ対訳ライブラリー カルメン』音楽之友社

を参考にさせて頂きましたが、アレンジを加えており、台本に忠実ではありません。

また台本には各種の版があることが多く、演出の違いでも細部がかなり異なることをご了承下さい。

清楚で可愛らしい女の子が広場に登場します。

明らかに戸惑っています。

……
あの娘、キョロキョロして、困ってるみたいだ。

これはチャンス! 助けてあげよう。


…………

お嬢さん。何かお探しですか?

ええ。伍長さんを探しているんです

(マジかよ!)

伍長は私ですが
私の伍長さんは、ドン・ホセよ。ご存知?
ミカエラは田舎から出てきたところ。恋人のホセは、モラーレスとは別の隊にいるので、今はここにいないようです。ミカエラはがっかりしつつも、また出直してくると言います。


だけどまだ彼女と話したいモラーレス。衛兵の交代の時間まで、自分たちの詰め所に入って待つようにと強く勧めます。

い、いえ……それはちょっと
なあ、いいだろ? 君に悪さはしないからさ
気付けば他の衛兵たちも寄ってきており、ミカエラはすっかり取り囲まれています。
あ~、ミカエラちゃん、やばいよ?

男だらけの部屋に入ったら、何をされるか分かんないじゃん!

大丈夫。ミカエラは見かけよりしっかりしてるんだ
お気持ちは有難いけど、やっぱりまた来ます。

さよなら、兵隊さんたち!


(……と、歌いながら猛ダッシュ!)

ちっ。小鳥は逃げちまった。

仕方ない、また暇つぶしだ

ここで、ラッパの音が高らかに響きます。

衛兵の交代の時間です。

だけど最初に入ってきたのは子供たち。

新しい衛兵と一緒に

僕らも来るぞ 僕らはここだ

響け 輝くトランペット
タッタララッタッター!
子供たちがどっと入ってきた!

列を作って行進をしてる。これは兵隊さんごっこだね

教会の聖歌隊を前身とする、少年合唱団。登場シーンのあるオペラ演目も多く、見どころの一つとなっています。
今は「児童合唱団」とか「少年少女合唱団」という名前になっていることが多く、変声期前の男の子の他、女の子も入れます。

今日はあおぞら市内の小学生から募ったんだって。

子供たちとともに、銃を肩に担いだ「本物の」衛兵たちも入ってきます。

ずらっと整列し、今までの衛兵たちと交代するシーンもかっこいい。


やがて、じっと向き合う、ホセとモラーレス。

おい。かわいい女の子がお前を訪ねてきたぞ?

金髪にお下げ髪の……

きっとミカエラだ!
(な~んだ。こいつの彼女だったのか。残念)
わ~、ビックリ!

ホセはまだ一言しか発していないのに、何だか声の響きが全然違う!

それを感じさせるのが、歌手の力量だね
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