第49話 「あだを討つのは愉快だ」

文字数 1,581文字

第1幕 第3景
フィガロが出て行った部屋に、今度は医師のバルトロと、女中頭のマルチェッリーナが入ってきます。
初めまして、皆さん。私は医師のバルトロだ。


前作『セビリアの理髪師』では、ロジーナ(現伯爵夫人)を我が物にしようと思っていた。なのにフィガロの野郎が邪魔をして、ロジーナをアルマヴィーヴァ伯爵とくっつけてしまったんだ。

私をさんざんコケにしたフィガロめ、許してはおけぬ!

同じく初めまして。私は女中頭のマルチェッリーナよ。


いくつになっても、おばさん呼ばわりは御免だわ。こう見えて私、結構モテるんですからね。

実はバルトロ先生の愛人をしていたこともあるのよ。

今は若いフィガロの方が、私の好みだけどね!

お、何?

この人たち、悪役?

いかにも悪役っぽいし、実際フィガロ達の前に敵として立ちはだかるんだけど、だんだん情況が変わってくるよ。

このオペラ、本当に悪い人は出てこないんだ
ちなみに医師バルトロの名は、中世の有名な法学者バルトルス・デ・サクソフェラートにあやかったもの。名声を自慢するキャラクターが、名前にも表れています。
マルチェッリーナは、一通の契約書を手にしています。

その内容について、バルトロに話をしているところのようです。

では、あんたはこの日を待っていたわけか?

あいつの婚礼の日に、私にこの件を話そうと

私としては希望を失っちゃいませんよ。

結婚式なんて、ぶち壊してやるわ。

不穏な空気の中、二人の悪だくみが始まります。
これよりもっと差し迫った状況だって、一つの口実があれば十分よ。

フィガロは私に借りがあるの。この証文の他にも、あれこれ責務がね

スザンナを脅せばいいんです。うまい具合にね。

彼女が伯爵を拒むように仕向ければいいんです

ほう?
バルトロは興味深く、マルチェッリーナの話に聞き入ります。
で、お殿様は仕返しあそばすために、私のお味方になってくれるはず。

フィガロは私の夫になるしかないでしょうよ

げげっ。

このおばさん、フィガロのことを狙ってるのか⁉

ぞっとする(笑)?

バルトロも伯爵夫人を狙っていたということだけど、悪びれもしない態度だよね。「年甲斐ない」っていう感覚は、この時代には希薄だったのかも

伯爵がスザンナを狙っていることも、みんながすでに知ってるみたいだね

バルトロは、マルチェッリーナの手から契約書を受け取り、中を見ます。

どうやらフィガロは、マルチェッリーナに借金をしているようです。


ニヤリ、とほくそ笑むバルトロ。

よろしい。私が何でもしよう。

包み隠さず、私にすべてを明かしなさい

この先はバルトロの独白です。
フィガロの野郎に、私の昔の女を娶らせたら、さぞや溜飲が下がろう。

かつて私から、いい女を奪い取らせよった奴にな!

ここでバルトロによって歌われるのがアリア「あだを討つのは愉快だ」。
復讐とは、ああ、復讐とは!
賢者に用意された楽しみぞ。

恥辱や不名誉を忘れるとは、見下げたこと。いつ何時も卑しいこと。


慧眼あらば……明敏あらば……

分別あらば……思慮あらば……

できようぞ、この一件。容易ならぬが、信じて頂こう。事はなる。

すべての法典を繰らねばならぬとしても、

くまなく目次を読まねばならぬとしても、


多義語により、同義語により、何らかのもつれを見つけられよう。

セビリア中に知られたこのバルトロ様が、フィガロをやっつけてやるぞ!

何じゃ~、この歌は!

このおっさん、頭おかしいんじゃねえの?

いやいや、これは滑稽な「悪だくみ」の歌でしょ!


知識人ぶりたい、ペダンチックな人は、いつの時代にもいるよね。

この歌詞、法律をこねくり回して利用するって言ってるから、いかにも悪徳弁護士って感じ~!

まさにこれが、モーツァルトの遊び心だよね。やたらと気取った歌詞が、かえってバルトロのお馬鹿な間抜けっぷりを強調しています。

ちなみにバルトロは医師なので、プロの法律家としてはこの後に別の人物が出てくるよ

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