第49話 「あだを討つのは愉快だ」
文字数 1,581文字
第1幕 第3景
フィガロが出て行った部屋に、今度は医師のバルトロと、女中頭のマルチェッリーナが入ってきます。
初めまして、皆さん。私は医師のバルトロだ。
前作『セビリアの理髪師』では、ロジーナ(現伯爵夫人)を我が物にしようと思っていた。なのにフィガロの野郎が邪魔をして、ロジーナをアルマヴィーヴァ伯爵とくっつけてしまったんだ。
私をさんざんコケにしたフィガロめ、許してはおけぬ!
同じく初めまして。私は女中頭のマルチェッリーナよ。
いくつになっても、おばさん呼ばわりは御免だわ。こう見えて私、結構モテるんですからね。
実はバルトロ先生の愛人をしていたこともあるのよ。
今は若いフィガロの方が、私の好みだけどね!
ちなみに医師バルトロの名は、中世の有名な法学者バルトルス・デ・サクソフェラートにあやかったもの。名声を自慢するキャラクターが、名前にも表れています。
マルチェッリーナは、一通の契約書を手にしています。
その内容について、バルトロに話をしているところのようです。
不穏な空気の中、二人の悪だくみが始まります。
バルトロは興味深く、マルチェッリーナの話に聞き入ります。
バルトロは、マルチェッリーナの手から契約書を受け取り、中を見ます。
どうやらフィガロは、マルチェッリーナに借金をしているようです。
ニヤリ、とほくそ笑むバルトロ。
この先はバルトロの独白です。
ここでバルトロによって歌われるのがアリア「あだを討つのは愉快だ」。
賢者に用意された楽しみぞ。
恥辱や不名誉を忘れるとは、見下げたこと。いつ何時も卑しいこと。
慧眼あらば……明敏あらば……
分別あらば……思慮あらば……
できようぞ、この一件。容易ならぬが、信じて頂こう。事はなる。
すべての法典を繰らねばならぬとしても、
くまなく目次を読まねばならぬとしても、
多義語により、同義語により、何らかのもつれを見つけられよう。
セビリア中に知られたこのバルトロ様が、フィガロをやっつけてやるぞ!