第27話 「ああそはかの人か」・「花から花へ」

文字数 1,926文字

人々が帰った後、物思いにふけるヴィオレッタ。
……どうしたのかしら。

変だわ。


彼の言葉が、頭から離れない

それは、愛し愛される歓びをヴィオレッタが初めて知った瞬間でした。

さっきは彼の愚かさを笑ってしまったけれど、自分にそんな資格はありません。


派手な生活をしていても、心はむなしい。

彼の言った通りです。

本物の恋なんて、私には不幸だわ

どうしたらいい?

こんな気持ち、初めてよ

は~い。ここからヴィオレッタの長い長い独白が始まりま~す
なんか、ものすごく葛藤がありそうだけど?

そうなの。彼女は胸の内の葛藤と激しく戦うんだ。

この部分は、二曲続けての表現となっているよ。感情の起伏が激しく、そこを高音のコロラトゥーラで表す難曲です。


ソプラノ歌手にとっては、一人で歌を聴かせ、一人でヴィオレッタの悩みを演技しなければならないという、ものすごく大変なシーン。でも聴衆にとってはまさに聴きどころです! ヴィオレッタを歌える人がいかにすごいか、動画から感じ取ってみて下さい。

コロラトゥーラとは……

「彩色」の意。速いフレーズの中に装飾を施し、華やかにしている音節のこと。

「鈴を転がすような」と言い表されることも多いです。

ここからが「ああ、そはかの人か」という歌に当たる部分。

ヴィオレッタが愛を確信するアリアです。

……きっと、あの人なんだわ。

孤独に打ち震える私が、ずっと求めてきたのは

秘かに、心のうちで、

あの方は慎ましく病める者の元を訪れ

心を熱くし、愛を目覚めさせた

まだ純真な娘だったころ

甘い不安を抱きながら、こんな優しい人ならと

未来の御主人様を思い描いたわ


そんなとき、大空にその方の美しい姿が見えるような気がしたわ

そして、その幼い空想に心とろかせていたわ

遠いものとなってしまった記憶が、切なさを呼び起こします。

しかしその一方で、甘いときめきがヴィオレッタの全身を貫きもするのです。

先ほどアルフレードが繰り返していたフレーズが、今度はヴィオレッタの口を突いて出ます。


今度は、うっとりとするヴィオレッタ。

甘いときめき。

天も地も揺り動かすときめき。

神秘的で、尊く、悩みと喜びをもたらすの

お待たせしました!

「ああ、そはかの人か」は、アンナ・ネトレプコさんの歌声で聴いてみてください!

ここまで容姿も歌唱力も抜群の人っているんですね。ため息ものです。

だけど、そう単純にはいきません。

ヴィオレッタはすぐに我に返ります。


ここからは「花から花へ」という歌に当たる部分です。

馬鹿げてる! 馬鹿げてるわ!

私ったら、何を考えているのかしら

捨て置かれて

パリという砂漠に、独りぼっち

こんな私に何が望めて?

千々に乱れる心を、ヴィオレッタは狂ったように叫びます。

そしていつもの現実逃避のやり方を思い出すのです。

快楽よ!

孤独を紛らわせるには、快楽に身を任せるのが一番よ!

必死に、自分に言い聞かせます。

この身が果てるまで、お酒を飲んで快楽を楽しむのだと。

オーケストラの伴奏も、明るくなったり暗くなったり、彼女の心境変化を巧みに表現しています。

花から花へ、自由自在に飛び回り

快楽の小道をたどる毎日を送ればいいの

夜が明け、日が暮れても

いつも快楽の宴の中

新たな快楽を求めて

私の心は飛んでいく

(一人、楽しく踊り出す)

せっかく楽しい気分に戻ったのに、アルフレードの歌声が頭の中に響きます。

はっと息を呑み、踊りをやめるヴィオレッタ。


(ヴィオレッタの幻聴)

ああ、恋の甘いときめき

天も地も揺るがす、甘いときめき

首を振り、幻影を追い払おうとするヴィオレッタ。

それでもアルフレードの声は離れません。

神秘的で、尊く

苦しみと、喜びをもたらす

悲鳴のように再び歌い出すヴィオレッタ。
馬鹿げてる! 馬鹿げてるわ!
花から花へ、自由自在に飛び回り

快楽の小道をたどる毎日を送ればいいの

それでもなお、頭に響くアルフレードの声。

気違いのように葛藤したまま、第一幕が終了します。

「花から花へ」は、アンジェラ・ゲオルギューさんの動画で。

ドラマティックな葛藤が感じられます。

に、人間わざじゃねえ~!

いくら訓練したって、こんな声が出るもんか?

超絶技巧の難曲っていろいろあるんだよ。

また出てきたら、ご紹介しましょう~!

イタリア・オペラの伝統には「カバティーナ・カバレッタ形式」と呼ばれる歌の形があります。この二曲はまさに、この形式の最高傑作とされています(前半のゆったりした部分と、後半の早い部分)
カバティーナとは……

ゆったりとした抒情的なメロディーで、登場人物が内面を吐露する部分


カバレッタとは……

急速なテンポで、物語が進められる部分

この二つは、セットで使う前提で考えられています。

専門用語まで知る必要はありませんが、何となく知っておくと歌の魅力がより身近になりますね

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