第72話 「手紙の二重唱」
文字数 1,125文字
伯爵夫人の口述をもとに、スザンナは伯爵をおびき出すための手紙をしたためます。
愛のささやきを連想させる、詩のような文章で……
※「松の木の下で逢引をしましょうね」という意。
スザンナは伯爵夫人の言葉を繰り返していますが……
このお城では奉公人たちの逢引に「松の木」が使われており、スザンナは伯爵夫人がそれを知っていることに驚いて聞き返した、ということだそうです。
この二重唱は、「そよ風の二重唱」、「そよ風に寄せる」などとも呼ばれ、ゆったりした曲調の美しい歌になっています。導入部のオーボエとファゴットの旋律も印象的。
伯爵夫人を歌っているのは、オーストリアのグンドゥラ・ヤノヴィッツさん。歌手引退後もオペラ監督の座に就くなど、ドイツ圏のオペラ界を引っ張っている大御所です。
(映画『ショーシャンクの空に』について)
無実の罪で投獄されてしまった主人公。
監獄では人権侵害がまかり通る、ひどい世界が待ち受けていました。看守たちの横暴に一矢報いてやりたいと考えた主人公は、放送室を占拠し、オペラのレコードを流して……
一方、オペラなんて聞いたこともない、荒くれ者の囚人たち。でもこの美しさは立ちどころに理解して、ただただ息を呑んで立ち尽くすのです。
汚れ切った世界に舞い降りる天使の歌声。
芸術というものがどんな風に人の心を救うのかを、ドラマチックに描いたシーンです。
ヴェルディやプッチーニも合わないよね(笑)。
このシーンに使われたのも、グンドゥラ・ヤノヴィッツさんの歌声だったそうです(スザンナはエディト・マティス)。優しさマックスといった感じのこの曲をチョイスしたという所に、映画作りのセンスを感じます!
書き終えると、スザンナは手紙を畳みます。
伯爵夫人は自分のピンを差し出します。
手紙のピンには、性的な意味が込められていたのではないか、という見方もあるようです。
(イタリア語のspilla(針)には、隠語としての用法も)
実は「フィガロ」には、隠された性世界がいっぱいなのだとか……。