第72話 「手紙の二重唱」

文字数 1,125文字

伯爵夫人の口述をもとに、スザンナは伯爵をおびき出すための手紙をしたためます。

愛のささやきを連想させる、詩のような文章で……

(羽根ペンで書きながら)

旋律に乗せた春風……

いかばかり甘い春風……

今宵、吹くでしょう。林の松の木々のもとに

※「松の木の下で逢引をしましょうね」という意。


今宵、吹くでしょう。

林の松の木々のもとに

スザンナは伯爵夫人の言葉を繰り返していますが……

このお城では奉公人たちの逢引に「松の木」が使われており、スザンナは伯爵夫人がそれを知っていることに驚いて聞き返した、ということだそうです。

この二重唱は、「そよ風の二重唱」、「そよ風に寄せる」などとも呼ばれ、ゆったりした曲調の美しい歌になっています。導入部のオーボエとファゴットの旋律も印象的。

伯爵夫人を歌っているのは、オーストリアのグンドゥラ・ヤノヴィッツさん。歌手引退後もオペラ監督の座に就くなど、ドイツ圏のオペラ界を引っ張っている大御所です。

ちょっとオペラから離れますが……

今回は、映画ファンの間で語り継がれているこちらのシーンをご覧頂きましょう!

1994年の映画『ショーシャンクの空に』の一場面。「手紙の二重唱」が使われています。

(映画『ショーシャンクの空に』について)

無実の罪で投獄されてしまった主人公。

監獄では人権侵害がまかり通る、ひどい世界が待ち受けていました。看守たちの横暴に一矢報いてやりたいと考えた主人公は、放送室を占拠し、オペラのレコードを流して……


一方、オペラなんて聞いたこともない、荒くれ者の囚人たち。でもこの美しさは立ちどころに理解して、ただただ息を呑んで立ち尽くすのです。

汚れ切った世界に舞い降りる天使の歌声。

芸術というものがどんな風に人の心を救うのかを、ドラマチックに描いたシーンです。

心が洗われる瞬間って、理屈じゃないんだなあ。

こういうシーンには、他のどの作曲家でもなく、モーツァルトが似合うのかもしれないね

ここでベートーヴェンを流しちゃ駄目なんだな?
ヴェルディやプッチーニも合わないよね(笑)。


このシーンに使われたのも、グンドゥラ・ヤノヴィッツさんの歌声だったそうです(スザンナはエディト・マティス)。優しさマックスといった感じのこの曲をチョイスしたという所に、映画作りのセンスを感じます!

書き終えると、スザンナは手紙を畳みます。

伯爵夫人は自分のピンを差し出します。

これで封をして。

あ、ちょっと待って。

手紙の裏に「封印は返して下さい」って書いておいてね

手紙のピンには、性的な意味が込められていたのではないか、という見方もあるようです。

(イタリア語のspilla(針)には、隠語としての用法も)

実は「フィガロ」には、隠された性世界がいっぱいなのだとか……。

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