第53話 「何たること。直ちに行け」
文字数 2,311文字
第1幕 第7景
伯爵とケルビーノがそれぞれに隠れた直後、音楽教師バジリオが入ってきてスザンナに挨拶をします。
バジリオは前から、スザンナに伯爵の愛人になるよう命令しています。伯爵に重用されているフィガロが憎いし、またスザンナが思惑通りに動いてくれれば、自分の覚えがめでたくなるというわけ。
それを踏まえて、スザンナの方も精一杯の嫌味返しをします。
まっ、驚くわ。フィガロが探している、ですって?(あなたがフィガロのために動くわけないでしょ!)
あなたの次に、自分を憎んでいるお方を?(あなたが言うように、伯爵が本当に私を好きなら、伯爵はフィガロが嫌いなはずよね)
いや、私はね。人の道として聞いたことありませんよ?
よその奥さんを好きになった人が、その夫を憎むなんてことはね(大人しく伯爵の愛人になった方が、むしろフィガロのためになりますよ)
で、伯爵はあなたを好いておられるわけだ……
スザンナはもう怒り心頭です。
伯爵が聞いているので、スザンナは激しく否定します。
いつのまにか落としていた、ケルビーノの紙。
バジリオは目ざとく拾い上げていました!
それはそうと貴女、あの少年をもっと厳しくしつけなさい。
あの子は伯爵夫人のことを、食卓でしばしば、それも無遠慮に見つめているのですぞ!
これを伯爵がお気づきになったら……
どんな恐ろしいことになるか、お分かりですよね? 伯爵はまるで獣のようなお方なのですぞ
黙っていられなくなった伯爵が、突然椅子の後ろから立ち上がります。
完全に誤解しているバジリオ。
一方で伯爵は、奥方の浮気については許しがたいと思っています(自分のことは棚に上げて)。ケルビーノの態度を知ったら、さらに厳しく対処することでしょう。
スザンナはあらぬ誤解を受けた上、ケルビーノが心配で泣き出しそうです。
ここから三重唱「何たること。直ちに行け」が始まります。
スザンナは気絶しかけ、伯爵とバジリオは彼女を支えます。
バジリオがスザンナの心臓の音を聞こうとしますが、伯爵は彼を突き飛ばし、今度は自分がスザンナの胸に触ります。
二人とも心配しているふりをして、スザンナの体に触りたいだけ!
そこはケルビーノが隠れている所!
しかし、すんでのところで、スザンナは意識を取り戻します。
スザンナは慌てて二人から離れますが、二人の方はあっけらかんとしたもの。
バジリオは伯爵の機嫌を取ろうと、ケルビーノの件が自分の憶測だったことを告げますが、その程度で怒りが解けるわけでもないようです。
こちらはイスラエルの公演より。
バジリオはなぜかマッチョなランナー姿(しかもなぜかオネエ系)。ケルビーノが隠れる椅子の上に、つい座ってしまう演出も付け加えられています。
ケルビーノのカンツォネッタ(浮気の証拠写真も)は、スマホで見ているようです。スザンナは洗濯機、乾燥機の前で働きながら、必死にケルビーノと伯爵の双方をかばいます!